”日本のマイケル・ムーア”ナイツ・塙宣之、まさかの映画監督デビューの真相

塙宣之 撮影/冨田望

お笑いコンビ・ナイツの鉄板ネタといったら”ヤホー漫才”であることには異存がないだろう。「ネットのヤホーで調べたんですけど……」と塙宣之さんがボケると、相方の土屋伸之さんが透かさずツッコミを入れるという、いわゆる”しゃべくり漫才”だ。2000年にコンビを結成してから早二十年が経ち、昨年6月には漫才協会会長に就任した塙さんの人生における”CHANGE”にまつわる出来事とは──?【第4回/全4回】

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社団法人漫才協会──。

1955年に設立された「漫才研究会」を前身とし、漫才を中心とした演芸の普及向上、継承と振興と人材の育成を図ることを目的とした一般社団法人である。現在は100組、200名以上の芸人が入会。東京・浅草フランス座演芸場東洋館(通称:東洋館)を拠点に活動を続けている彼らにスポットを当てたドキュメンタリー映画『漫才協会 THE MOVIE~舞台の上の懲りない面々~』が公開される。本作で塙さんは監督に挑戦した。劇映画だと監督は俳優にお芝居を付けたりするが、今回はドキュメンタリーである。監督としての塙さんは何をしたのか。

「映画の構成自体はプロデューサーとも何度も話し合って、そのうえで、こういう人のこういう所を密着させて下さい、とか、インタビューのこういう所を使いましょう……って言って当てはめていった……ということですかね」。

実際、映画の方向性を決めるまでは二転三転したそうだ。

「インタビューだけの映画にしようとか、冒頭に草野球のシーンがあるんですけど、それだけ撮れりゃ良いんじゃないかとか。もうわけわかんなくなって一年ぐらいは迷走していましたね。最終的には、漫才協会の歴史や、協会にはこういう人がいますよとか漫才協会のことを全体的にバランスよく分かるような映画にしようというところに着地したんです」

本編では青空球児・好児、おぼん・こぼんといったレジェンド芸人から新人のドルフィンソングまで幅広く取り上げている。

「『はまこ・テラコ』は元々夫婦漫才として活躍していたけど、今は離婚。でも同居し舞台に立ち続けているのは絵的にも面白い。ベテランだと事故で右腕を無くして復帰に向けて頑張っている大空遊平師匠や、年間費を払い続けているけど誰も会ったことのない幻の芸人とも言われている高峰コダマ師匠とのところにも行きましたね」

本作では”お目付け役”として参加している放送作家・高田文夫さんは、そんな塙の突撃的な姿を見て「日本のマイケル・ムーア」と称した。

──監督という立ち位置からの見どころといったら?

「漫才論とかの技術よりももっと大事なモノってあるじゃないかなっていうのがひとつのテーマなんです。どうしたらウケるかというテクニックと同じくらいに人間としての面白さが大事だと思うんです。『錦鯉』の二人はこの両方があるからM-1で優勝できたと思うんですね。そんな二人を輩出した漫才協会にはこんな人がいるんだということを分かって欲しいですね」

人生90歳としたら、残りちょうど半分

──塙さんにとって、監督をやったことの意義は?

「漫才をやるために監督をやったというのが大きいですね。やっぱり歳取ってくるとネタがそんなに作れなくなると思うんですね。歳取ってきて、それなりの経験を積むと失敗もしなくなるし、自分の弱いところがどんどんなくなってくるじゃないですか。
例えばですが、2018年に刑事ドラマ『警視庁・捜査一課長』に出させてもらった時に酷評の嵐だったんです。でも結果としてはそれをネタに転換できて、ネタがひとつ増えたなって感じで、だいぶ漫才が面白くなったんですよ」

──現在、45歳。間もなく46歳を迎えるが、40代になってからの違いは?

「ムチャクチャありますよ。芸人って、20代、30代の頃って自分の技術や面白さを見せようと尖っちゃったりするんですけど、歳取ってくると、そんなことよりも、今日来てくれたお客さんが笑って帰ってくれれば良いやっていう気持ちがでかくなると思うんです。ほんとに単純に人間力じゃないけど、人の為みたいなところがないと新しいネタも作れなくなる……というのがなんとなくわかってきた。そこが一番大きいですかね」

──人生を達観する、ということですか?

「人生90歳としたら、残りちょうど半分じゃないですか。そうすると、いままで親が言ってたことがすごくわかる様になってきた……というか、親の言ってることってホントにその通りだなって思うようになってきたんですね。
例えば、本をもうちょっと読みなさいとか言われたけど、そういうことってすごく大事だなって思うことが多くなってきて。それは親から言われたというよりも、自分がこの齢になってほんとにそういうふうに思ってきたから、親も同じように思っていたんだろうなって思うんです」

──ニュアンスとしてはちょっと違うかもしれませんが、贖罪みたいなことですね。

「そうですね。最近は年齢のせいか脂っこいものが食べれなくなってきて……」

──そっちの食材じゃなくて罪滅ぼし的な意味合いのある贖罪の方ですよ。(とツッコミ)

「あ~、そういうことですね。やっぱり人をいじるという発想が一番メインに来ちゃうところがありますからね。そういう意味では、いじられる人に対しての罪滅ぼし的なことなのかもしれませんよね」。

漫才協会会長である前にひとりの芸人として、今後、どのような話術を見せてくれるか。それを確認するためにも東洋館に足を運んでみたくなった。

■塙宣之(はなわ・のぶゆき)
1978年3月27日、千葉県生まれ。A型。T173㎝。2000年に大学の後輩・土屋伸之と漫才
コンビ「ナイツ」を結成。2003 年、漫才協団(現・漫才協会)・漫才新人大賞受賞。2008
年、お笑いホープ大賞THE FINAL優勝、NHK新人演芸大賞受賞。2008~10年、3年連
続で「M-1グランプリ」に3 年連続で決勝進出。2022 年度、第39 回浅草芸能大賞 大
賞受賞。2019 年に出した著書『言い訳 関東芸人はなぜM-1 で勝てないのか』が発行部
数10万部を突破した。近著『劇場舎人 ずっと売れたい漫才師』(KADOKAWA)が発売中。

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