『千と千尋の神隠し』妃海風&華優希&実咲凜音が語る、リン役トリプルキャストの絆

(左から)華優希、妃海風、実咲凜音 クランクイン! 写真:高野広美

スタジオジブリの名作を舞台化し、第47回菊田一夫演劇賞大賞を受賞するなど大反響を巻き起こした舞台『千と千尋の神隠し』が、待望の再演。今回は千尋役が前回から続投の橋本環奈、上白石萌音に加え、川栄李奈、福地桃子が新参戦する4人体制に。さらにはロンドンでの長期公演も決まるなど、注目度がさらにアップしている。そんな本作で、リンと千尋の母役を務める、妃海風華優希実咲凜音に話を聞くと、パワフルな関西弁と笑い声、作品への熱い思いにあふれた楽しいトークが繰り広げられた。

◆『千と千尋の神隠し』、“舞台ならでは”の世界観に熱い思い

――『千と千尋の神隠し』が待ちに待った再演となります。妃海さんは2年前の初演に続いてのご出演となりますが、前回強く心に残っているエピソードはありますか?

妃海:ジブリ作品は幼いころから観ていたので、その作品に出演できることになり、本当に興奮が収まらない状態でした。舞台化にあたって何か変更があるのかなとイメージしていたのですが、実際に台本を頂くと、思ったよりもアニメのままのセリフで驚きました。ここからどう舞台にしていくのか、0から作っていった状態がすごく楽しかったですね。再演のお話を頂いた時は、私もまた一度0にしてどういうリンを作り上げていこうかと考えました。

前回特に大変だったのは、一幕作るだけでもすごく時間がかかったのですが、二幕に突入するとなった時に、目玉である千尋とハクが空を飛んでいるシーンをどう作るのだろうというのがとても興味深かったです。その時に、ずっとアナログでこの作品を作り上げていたので、「宙づりするのかな?」とか、「もしかして映像を流すのかな?」とかいろいろ考えたんですけど、「人力で上げる」ってなった時に、「え? これで舞台に立つの?」って不安を感じたことをすごく覚えています。結果とても素晴らしい場面になったので、とても感動しました。

――華さんは、昨年愛知・御園座の公演で、同じ役を演じられました。

華:私もジブリが大好きで、この作品も好きだったので、初演を絶対に観たいと思っていたのですが、どうしてもチケットが取れず、出演は決まっていなかったですけど、妃海さんバージョンと、(初演で同役を演じた)咲妃みゆさんバージョンの配信を両方拝見させていただきました。その時に、『千と千尋の神隠し』の世界が本当にそこにあると感動したんです。昨年出演が決まった時は、あの世界に入れさせていただけるんだという感動とうれしさが大きくて、いざお稽古が始まると、初演の方の苦労を強く実感し、本当に大変なところに来ちゃったなと思ったりもしました。

――今回は昨年とはまた違ったものを…というお気持ちはありますか?

華:一番大きいのは(妃海と実咲の)お二人がいてくださることです。

妃海:“しゃべり”の二人がね(笑)。

実咲:両サイドからしゃべりまくる(笑)。

華:(笑)。昨年は1人で何もわからないところに入ったので、今回は初演を作られた妃海さんからいろいろ教えていただいたりして、「あ、そっか。だからこうなっているのか」と、新しい発見が多くて。そういうところを1つずつ積み重ねて本番に持っていきたいなと思っています。

――実咲さんは満を持しての初参戦です。

実咲:うれしかったです! 私、オーディションが苦手なんです。意気込みがあっても意気込みだけが空回りして終わっちゃうとか、いまだにあの空間を楽しめる自分がいなくて。選んでいただいたっていうだけで本当にうれしいです。

オーディションは一場面のセリフを実際に演じてみるというものだったのですが、そもそも空間が、「この子はどう演じるんだ?」みたいな審査空間じゃなく、張り詰めた感じがないというか、そこまで気張らず力まずできた感じがありました。(演出の)ジョン(・ケアード)に、「このまま舞台に立てるね」って言われて、「ほんとですか!」って(笑)。そういうオーディションって少ないので、1つずつ認めてくれて、「じゃあ、もう1回これをやってみようか」と、その場でまたチャレンジをさせてくれる空間が楽しかったです。

◆妃海&実咲のエネルギーに引っ張られ“ローテンション”な華に変化が

――妃海さんは、宝塚歌劇団での同期でもある実咲さんと同じ作品に出演と聞いた時は…

妃海:(食い気味に)幸せです! またお稽古を一緒にやるなんて…

実咲:(かぶせ気味に)思ってなかったよね~。

妃海:音楽学校からずっと一緒で、組は違ったので一緒にお稽古をするという環境がなかったので…。役に対する取り組み方はもちろん違うと思いますけど、音楽学校からお互いに見てきた“芸への取り組み方”っていうのが全然変わっていなくって!

実咲:私も思った!

妃海:変わらへんよね。お稽古中にポロッと「あんたらしいな」とか言われるたびにキュンキュンきている状況なんです(笑)。「変わってないんだ、私!」みたいな気持ちになれて! 今一緒にインタビューを受けていることもうれしいです。

実咲:不思議だよね。

妃海:(妃海の本名の)“ゆうかちゃん”って感じやないやんな、ちゃんとお仕事してるって感じで。自分自身に対する発見もありますし、自分とくみちゃん(実咲)の役へのアプローチの仕方が似ているって言われるのですけど、根本が全然違うので、違うリンができあがっているとすごく感じるので、刺激になっていますね。

実咲:なんか、ものすごいしゃべるなって感じですけど(笑)、「(妃海には)姉御っぽいところはありますか?」って聞かれたことがあったんです。普段の彼女を知ってる身としては、「え!ないない!」と思っていたんですが、今回の現場で、「え! めっちゃ姉御!」って思って。(一同爆笑) 「あそこさ、ああしたほうがええで」とか、「割とこうやったほうが楽やったで」とか教える側になっていて、「しっかりしてるわ~」って(笑)。

妃海:そうみたいです(笑)。自分でも気づかないところに気づいてくれる、ありがたい存在です。

――皆さんのインスタを拝見していると、実咲カメラマンの超絶テクニックで撮影された稽古場の様子が本当に楽しそうです。そんなお姉様方にはさまれた華さんですが、お2人の印象はいかがですか?

妃海:どうですか?(笑)

華:入団した時にはもう雲の上の存在の偉大なお方だったので、お二人と並ばせていただけるなんて畏れ多くて大丈夫かな…とドキドキしていたんです。

妃海:面白かったですもん、稽古場の初日。

実咲:順番的に、妃海、華、実咲ってイスが並んでいたんですね。座ろうとしたら、(華が)「私と席変わった方がいいですよね…」って(笑)。

華:間に入ってしまったので…(笑)。

実咲:(華の声色をマネしつつ)「同期のお二人だから席を取り換えたほうが」って。「いやいや、間に入って話を聞いてください!」(笑)

妃海:「席はこのままでいきますよぉ!」(笑)

華:こうやっていつも間に入れてくださるんですよ。だから本当に、信じられないくらいお稽古場で楽しく過ごさせていただいています。

――妃海さんと実咲さんは、華さんの印象は何か変わりましたか?

妃海:これまであまり接点がなく、舞台の上の“華優希”しか知らなかったのですけど、実際にいろいろしゃべってみると、うちの期にはいないタイプなんですね、キャラクター性が。この絶妙なテンポ感、トークの間の取り方…それがすっごく面白くて! 一緒にいて日が経てば経つほど愛おしくなってくる存在ですね。

実咲:基本かわいいポジションです(笑)。ふわっとしていておっとりしてるのかな?っていう印象を受けるんですけど、これ!と思ったら結構スピードが早いんですよね。(再び華の声色をマネて)「調べておきますね!」って私よりも早くいろいろ調べてくれるんです。

華:お二人と一緒にいるから、私もいつもよりエネルギーがあふれていて(笑)。いつもは結構ローテンションで生きてるんですけど、人ってこんなにパワフルに生きていいんだなってこのお稽古場で実感しています(笑)。

実咲:(自身を指さし)異常と、(妃海を指さし)超異常なんで。

妃海:超異常はやめてよ(笑)。

――(笑)。今回はトリプルキャストなので、本番が始まると一緒にならないのが残念ですね。

華:さびしいです…。

妃海:前回ダブルキャストだったゆうみちゃん(咲妃みゆ)の時もそうだったんですけど、しゃべりたくてちょっと早めに楽屋にいるっていうパターンもありますので。気を抜いてローテンションの時に、突然いる!みたいなこともあるからね。

華:びっくりしちゃう(笑)。

◆千尋役の4人は四者四様のキャラクター でも「みんな千尋」

――今回の上演では、なんといってもロンドン公演が話題です。

実咲:ビッグプロジェクトですよね! ワクワクしかなかったです。

妃海:私はお客さんの反応が一番楽しみなんです。文化が違うから感覚も違うと思うので、幕が開いたときの反応、拍手や熱量も絶対に違うと思うので。やっぱり日本じゃ経験できない、海外、しかも演劇の聖地と呼ばれているロンドンでしか経験できないものがあると思うんです。どう受け入れて反応してくださるのか、異文化で言葉を交わさずに感じられるコミュニケーションが一番楽しみですね。

実咲:海外の方は、観劇はスペシャルなことだからドレスアップして劇場にいらっしゃっるイメージもありますね。あと、皆さん声に出してくださるイメージ。「ブラボー!!!」とかあるかもね。どこでブラボー来るだろう?

妃海:「ドンくさいって言ったけど、取り消すぞー!」「ブラボー!!!!」(笑)

華:そこなんですね(笑)。ジブリは世界で愛されていると聞くんですけど、日本って愛されてるんだな、この作品はすごく受け入れられているんだなって身を持って実感できるのがとても楽しみです。

――今回は千尋役も4名に増えました。

実咲:4人とも性格もキャラクターも全然違うんですけど、でもみんな千尋なんです。「こんなにも個性が違うのに千尋に見えるってなんだろう、この不思議な感覚は?」って思いながら稽古をしていました。

妃海:みんな稽古に参加するたびに、それぞれがそれぞれに影響し合ってちょっとずつ変わっていってるなってすごく感じます。公演が始まってもまた組み合わせによって感じる何かで千尋自身が成長していくと思うので、リンもしっかり成長しつつ楽しみたいなって思っています。

華:本当に四者四様なんですけど、だけどみんな千尋。お稽古をしていても千尋の成長を感じるんです。どんくさくて挨拶もできない千尋が、最後には強い目をして電車に乗って行く。千尋役の4人にそれぞれの強さがあるんですけど、目から感じる力がすごく大きくて。私もそれぞれからもらうものも大きいし、ちゃんと受け取ってやっていきたいと思っています。

――どの組み合わせも観たくなる本作ですが、楽しみにしている皆さんへメッセージをお願いします。

妃海:ロンドンに行くということもあるのか、人数も増えた分、本当にパワーアップしているなって思います。みんなが客席に伝えたい熱量みたいなものが確実に上がっています。心を込めて全力でお届けしますので、ぜひお楽しみください。

実咲:期待以上の公演になると思います。私は初めて見た時に、「すごい! 想像を超えてきた!」っていうイメージだったのですが、同じような感動をさらにパワーアップしてお届けできると思います。「私、大丈夫! 明日もやっていける!」と思ってもらえるよう、ご覧になられた方の背中を押すような作品をお届けしたいと思ってます。

華:昨年稽古場に入ってすごく感動したのがマンパワー、人の力なんです。映画も大好きですけど、ここまでデジタル化されている世の中で、これだけ人の力で作り上げられているものがあることにすごく感動しました。観終わったときに、みんなの熱量や愛が胸に残る作品になっていると思いますので、絶対に待っていただいて損はないと思います。

(取材・文:田中ハルマ 写真:高野広美)

舞台『千と千尋の神隠し』は、3月11日~30日に東京・帝国劇場、4月30日~8月24日にロンドン・コロシアム、4月7日~20日に名古屋・御園座、4月27日~5月19日に福岡・博多座、5月27日~6月6日に大阪・梅田芸術劇場メインホール、6月15日~20日に北海道・札幌文化芸術劇場 hitaruにて上演。

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