大谷翔平選手「妻の写真」公開は“過熱報道”回避? 「有名人のプライベート情報」はどこまで守られるべきか

15日大谷翔平選手と妻の2ショットが公開された(ドジャース公式インスタグラム(@dodgers)より)

大リーグのドジャースが、15日未明(日本時間=以下同)、球団公式X(旧Twitter)で、大谷翔平選手の妻の写真を公開し、ネット上は騒然となった。

写真の説明には、3月20日と21日に韓国で行われるドジャースとパドレスの開幕シリーズに向けて「韓国へ出発前の大谷と彼の妻の写真」と書かれており、海外メディアのESPNは「大谷翔平が妻、田中真美子さんとの初写真を公開」と実名で報道。X上では、即座に「大谷の奥さん」がトレンド入りし、「やっぱり!」「めっちゃかわいい」などのコメントであふれた。

田中真美子さんは、元プロバスケットボール選手で、身長約180㎝の長身で現在27歳。早稲田大学を経て、2019年に富士通レッドウェーブに加入。2021年には日本代表に選出されたが、2023年に引退している。

「一番は皆さんがうるさいので(笑)」

大谷選手は2月29日、自身のインスタグラムで結婚を電撃発表し、翌3月1日の会見では、記者の質問にも答えていた。

しかし、お相手については「日本人の方ですね。入籍日は特に言わないというか、言わなくていいかなと思ってるので。至って普通の人というか、普通の日本人の人です」。交際期間については「初めて会ったのが3、4年前だというだけなので。実際にどのぐらいだったのかは分からないです。婚約をしたのは去年だったので、それを指すなら去年ですかね」。プロポーズの言葉は、「普通に言いました。あえて言う必要はないと思います(笑)」などと詳細については答えなかった。

また、「なぜこの時期に結婚を発表したか」の問いには、「一番は皆さんがうるさいので(笑)。しなかったらしなかったでうるさいですし、今日まずここでして、あとは野球に集中したいなというのが一番ですね」と話していた。

周辺情報を中心とした報道が加熱し始めていた

「詳細を明かさないのは、〝相手が一般人だから〟という理由からでしたが、現地のマスコミは、相手を明かさないことについて、これまで聞いたことがないと不思議がられていました」(写真週刊誌記者)

しかし、「公式発表」がないとあっては、日本のメディアも、大っぴらには報道できなくなってしまった。

写真週刊誌や女性誌では、お相手の女性を「A子さん」として、元プロバスケット選手であることや、「デコピン」という大谷選手の愛犬の名前は、おでこが広いというA子さんが由来なのではないかなど、周辺情報を中心とした報道が加熱し始めていた。

「日本代表にも選出された元プロバスケットボール選手ということで、〝一般人〟にあたるかも微妙なところでした。どの雑誌が最初に妻の写真を掲載するか、お互いに様子見している状態で、ウラは取れていても、どの雑誌もA子さんの姿には、ボカシを入れて掲載した。こうした〝匂わせ報道〟で反応を見つつ、現地のカメラマンにツーショットの写真を依頼していたんです。妻の現在の姿が報道されるのは時間の問題でした。一方、テレビ局は、妻をテレビにひっぱり出せたら報奨金が出ることになっていた局もあるようです」(同前)

スポーツ紙、夕刊紙は“妻の公開”を一斉に報じた(弁護士JP編集部)

「私生活の平穏」という精神的な損害への評価は難しい

有名人のプライベートを追いかけるこうした報道は法的な視点から見て、問題はないのか。メディア情報関係に詳しい杉山大介弁護士は、「本来、有名人のプライベートは守られるべきなのですが、守られていない実情があります」としてこう話す。

「法的な原則論を貫くと、基本的にはうそではなく事実を伝えているので、〝事実だけど有害である〟という法的評価を行うのには、どうしても抑制的になります。法を使って強制できるのは権力者であり、事実を伝えてはならないことがルール化されていくのには、どうしても濫用の危険が伴うからです。

仮に、プライバシー侵害としての違法性が認められたとしても、名誉毀損(きそん)と異なりプライバシー侵害は刑事事件にならず民事事件の問題になり、損害額の評価が難しくなります。あくまで日本の損害賠償は、失ったものを損害と認める形をとっていますから、私生活の平穏という精神的な損害は、金銭的な評価がしにくいところです。

そのため、『違法でも報道した方がトク』という結論がありえます。結論として、法的には守られるべきという位置づけにありつつも、守られない運用がなされている訳です」

つまり、プライバシーの侵害は刑事事件にはならないので、名誉毀損にならない限り〝報じたもの勝ち〟という危険性を孕(はら)んでいる訳だ。しかし、一口に有名人と言っても、政治家、芸能人、プロスポーツ選手とさまざまだ。そのあたりを杉山弁護士に聞いてみると…

「政治家は、多くの一般人の代表として国のルールを決めるのだから、人格面まで含めて、国民は正確に認識して投票による選出を行えるべきなので、原則制限なく報道されてしかるべきです。芸能人関係は難しいところですが、著名さゆえにその名前や登場に経済的価値がひもづいている以上、やはり知られるところで利益を得ている分、一定の悪いことや嫌なことを知られることも許容しなければいけないようには思います」

ある程度は、〝有名税〟として甘受しなくてはならない側面もあると言えそうだが、それも度を過ぎると問題に発展することもある。

写真公開は報道合戦を一旦停止させるため?

アスリートの結婚といえば、現在、プロスケーターの羽生結弦さんが、2023年8月に結婚したが、相手の女性をめぐる報道が過熱。このままでは相手や自分を守り続けるのは難しいとして、わずか3カ月で離婚を発表したことは記憶に新しい。

こうした前例も踏まえていたか、大谷選手の結婚後、3月5日には、労働組合・日本プロ野球選手会が「プライバシーの尊重に関するお願い」と題する声明を発表していた。杉山弁護士が続ける。

「大谷翔平氏の奥さんは、政治家でもタレントでもないので、特に公権力もなければ、知名度を使って商売をしているわけでもないですよね。プライバシーを侵害されるいわれはないと思います。ちなみに私は、眞子さまの婚約者であった小室圭氏へのつきまといも、悪趣味極まると思っていました。大衆の欲求を満たすためだけに存在する報道に、私は価値を感じませんね」(杉山弁護士)

ともあれ、加熱する報道合戦を一旦停止させるために、今回、大谷サイドは、妻の写真を公開したとの見方が強い。前出の週刊誌記者はこう話す。

「下世話と言われますが、〝逃げれば追う〟のが、われわれマスコミの習性です。大谷のツーショット公開は、〝写真を公開するから、野球に集中させてくれ〟という明らかなメッセージ。パパラッチに変な写真を撮られる前に、絶妙のタイミングで写真を公開した。今後も、妻の報道は続くでしょうが、〝大谷の妻は誰?〟という報道合戦は、ここでいったん〝撃ち方やめ〟となるはずです」

ドジャースとの契約金は、破格の10年総額7億ドル(約1015億円)の超一流選手である大谷氏は、マスコミの扱い方も超一流かもしれない。

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