「終末時計」(3月16日)

 「終末時計」の針は、世界が直面する危機の度合いを示す。真夜中の午前0時を人類滅亡の時と見立て、米科学誌が発表する。2年連続で、残り時間が過去最も少ない「90秒」を指した。ロシアのウクライナ侵攻や気候変動などを脅威に挙げた▼初登場は戦後の1947(昭和22)年。原爆投下への反省が科学者を突き動かした。ノーベル賞級の専門家らが情勢を分析し、針の位置を決める。創設時は残り7分。冷戦終結を受け、1991(平成3)年は残り17分に巻き戻された。近年は進む傾向にある▼米アカデミー賞で作品賞など7冠に輝いた映画「オッペンハイマー」は原爆開発者の苦悩を描いた。投下された被爆地の惨状に罪の意識を抱え、戦後は反核運動に身を投じた。視覚効果賞を受けた「ゴジラ―1.0」では、焦土となった戦後日本にかつてない絶望を与える破壊者として、ゴジラが登場する。戦争や核兵器の象徴ともされ、人々は圧倒的な力を鎮めようとあらがう▼両作品の警句を聞かぬ人類の末路を想像する。終末時計は針を早め、人類の力も英知も尽き果てていく。そしていつか巻き戻しの効かない限界点を超える―。映画の世界の話ではない。<2024.3・16>

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