いまだ行方不明の六価クロム槽転落ネコ…事態解決を困難にする2つの懸念

市民に情報共有しているものの、実像は”不鮮明”で見分けが困難?(PandaWild / PIXTA ※写真はイメージ)

11日に広島県福山市の金属メッキ加工工場で液体六価クロムの含まれる槽に猫が落下。その後、現場から逃げたことが、ちょっとした騒動となっている。5日が過ぎた16日もいまだその行方は分かっていない。

発覚は猫の足跡からだった。11日朝、出勤したメッキ工場の従業員が槽の近くで褐色の足跡を発見。猫が槽に落ちた可能性があることから、その後、防犯カメラでチェックすると、足跡を残しながら工場を離れる猫の姿が確認された。

槽は縦2メートル、横2.2メートル、高さ3.4メートル。当時、槽にはメッキ用の液体が約70%入っていたという。

猫が工場を離れたのは10日の午後9時30分ごろとみられており、すでに6日近くが経過している。福山市の担当者によると、「まだ目撃情報や手掛かりはありません」といまだ行方がわからないという。市には管理責任を問う市民からの声も届いているといい、現在も2次被害阻止に奔走している。

具体的には、自治会や公共施設、学校、保育所などへ猫に関する情報を提供し、「発見したら絶対に触らず、警察か市に速やかに連絡してほしい」と呼びかけているという。

地域に情報共有も、特定が難しい可能性

こうした対応で周辺の市民にも情報は周知されているようだが、懸念はある。というのも、六価クロムに浸ったと思われる猫の特徴を示す映像が防犯カメラ越しであり、不鮮明で分かりづらく、描種、色や毛並みなどの特徴がはっきりしていないのだ。

前出の担当者によると、「六価クロムは赤褐色なので、おそらくその色に染まっていると思われます」と話すが、カメラに映った逃げる様子からはその確認は難しく、ひと目で有害物質を浴びた該当の猫と判別するには情報として乏しい。

さらに、周辺は海沿いの工場密集地で、猫が姿を隠す場所も豊富にある。野良猫もいるといい、特定するのは簡単ではなさそうだ。有害物質に濃厚接触していることから、「おそらくかなり弱っているのでは」と市ではみているものの、防犯カメラ映像が撮影された時点では比較的俊敏に動いていた。

ネット上では責任を問う声と猫の安否を気づかう声が交錯

ネット上の書き込みは、気の毒な”事故”にあった猫の安否を心配する声も多かった。「野良猫も生きるのに必死。1日でも長く生きてほしい」「猫ちゃんの亡骸見つかって触れてしまったり、飼い犬が見つけて触ってしまったら2次被害になるのかな…」。

一方で、「そもそもそんな有害物質が猫が出入りできる程度の管理しかされていないというのも問題かと」「猫だけでなく公園の遊具等に六価クロムが付着している可能性もあるから注意が必要」といった声もあがっていた。

皮膚に触れるとやけどのような症状もでる六価クロムの危険性

六価クロムは代表的な防さびメッキで、猫の足跡が見つかったメッキ工場でも金属メッキに使われていた。処理後は毒性は一切ないとされるが、酸化力が強く、それが有害性に起因するといわれる。

溶液に触れると皮膚や粘膜に炎症が生じ、やけどのような症状がみられることなどが知られている。国際がん研究機関は、人に対して発がん性があるグループに分類している。

水質、廃棄物で規制基準も設けられ、水道法における水質基準値は0.02mg/L。河川などの公共用水や地下水では環境基準が定められ、基準値は0.02mg/Lとなっている。

体についた場合、すぐに水で洗い流せば被害は抑えられるというが、猫は水を好まないため、すでに衰弱している可能性も否定できない。

松永湾に面する現場の工場周辺は、人通りはそれほど多くないが、大きな幹線道路を挟んだ内陸側へ200メートルほどいけば、住宅街が広がる。騒動発覚から初めて迎える週末。住民は不用意に外出もしづらい、なんとも落ち着けない不安な日々を過ごすことになりそうだ。

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