【今を生きる】憩いのカフェに再生 福島県沖地震で半壊、南相馬の民家 東京から移住・松野さん夫婦

福島県沖地震で半壊した住宅を改装し、カフェの開店準備を進める松野さん夫婦

 2022(令和4)年3月16日に発生した最大震度6強の福島県沖地震で半壊し、空き家になった福島県南相馬市鹿島区の民家が4月上旬、カフェに生まれ変わる。経営するのは地震後に東京都から移住した松野和志さん(29)・美帆さん(26)夫婦だ。地域は東日本大震災の発生以降、2度の福島県沖地震など度重なる災害に見舞われ、いまだ傷痕が残る。ぬくもりがあり、来店者の暮らしが豊かになるような場所にしようと、開店準備に精を出す。

 店名は「コクリヤ」。台所を意味する「厨(くりや)」にちなんだ。地域に溶け込み、小さな幸せが生まれる場所にしたいとの願いを込めている。材料を吟味して美帆さんが作る焼き菓子や季節の料理、和志さんが入れるこだわりのコーヒーを提供する。

 東京都で会社員をしていた和志さんと菓子店に勤めていた美帆さんは昨年6月に南相馬市に移り住んだ。市内では震災と東京電力福島第1原発事故発生後、多くの移住者が復興の推進に貢献している。そんな地域の姿に引かれた。美帆さんが大熊町出身だったことや、和志さんの古里・神奈川県座間市に似た風景も決め手になった。

 和志さんはコーヒーを入れるのが趣味だった。南相馬で新たにできた交友関係の中で「おいしいから、やってみたら」と開業を後押しされた。カフェなら美帆さんの得意な料理が生かせる。地域を元気にする一助になれるのではないかと思った。手頃な物件を探し、JR鹿島駅や市鹿島区役所にほど近い住宅地の一軒家を見つけた。

 2年前の福島県沖地震で壁や天井などが損傷し半壊扱いとなっていた物件だ。地元の大工が2人の夢に共感し、改修を手伝ってくれている。家具を手作りするなどして安心感や温かみのある雰囲気をつくり上げている。海や山、風力発電の風車など、景色がきれいな鹿島区を多くの人に楽しんでもらいたいと望む。

 開業は口コミで広まり、「いつできるの」と声をかけてくれる人は多い。みんなに応援してもらえていると2人は実感している。空き家を紹介した市職員の大和田智之さん(43)は「2人のカフェには、人が集まるきっかけをつくってもらいたい」とエールを送る。

 和志さんと美帆さんは「ゆっくりくつろげる店にしたい」と意気込む。若い2人のにぎわい創出の挑戦が被災地に明かりをともす。

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