ロシア大統領選、武装軍人が住民に投票を働きかけ ウクライナ内の占領地域

ヴィタリー・シェフチェンコ、BBCモニタリング

ロシア大統領選の投票が15日午前8時から始まり、17日にはウラジーミル・プーチン大統領が予想通り圧勝した。公式発表によると、得票率は87%。この5度目の当選で、任期6年を獲得した。

ロシア当局はこの選挙で、ウクライナの占領地域の住民に広く投票を呼びかける運動を進めた。

大統領選は今回初めて、3日間(15~17日)にわたって実施された。ただ、ロシア占領下のウクライナの4州(ザポリッジャ、ヘルソン、ドネツク、ルハンスク)では期日前投票がそれに先立ち行われた。

この地域の住民のひとりは、親ロシアの協力者が武装兵士と共に一軒ずつ回り、有権者を探していると不満をもらした。

プーチン氏の他に候補者は3人いたが、プーチン氏にとって脅威となる候補は誰もいないかった。プーチン氏を表立って批判する人々は全員、国外に脱出しているか、投獄されているか、故人になっている。

投票を強要

投票は通例、ロシアの遠隔地で期日前に始まる。しかし今回は、部分的に占領しているウクライナの4州でも「安全上の理由から」期日前の投票が実施された。

占領下のウクライナ人は、さまざまな方法で投票を強要された。

投票所が占領地内に設置されたが、それに加えて当局は、投票箱を持った係員を各戸に派遣した。

「有権者のみなさん、私たちはみなさんの安全を心配しています! 投票はどこにも行かなくて結構です。私たちが投票用紙と投票箱を持ってみなさんの家に行きます!」。ザポリッジャ州でロシアが設置した選挙管理委員会は、ソーシャルメディアでそう訴えた。

占領下で暮らすウクライナ人は、投票を促す「インフォームUIK」と呼ばれる運動からも圧力をかけられた。この運動は、投票の流れやすべての候補者に関する情報を提供するとされている。

運動の関係者は、ロシア占領地域に残っている全住民の家々を訪問した。武装した男性が伴うことも多かった。

当局は有権者リストを作るため、個人情報を集め、訪問の際に住民を動画撮影するなどした。これに多くの住民は不安を感じていると、ロシアが部分占領しているザポリッジャ州の選挙責任者は認める。

占領地域のウクライナ人は、ロシアのパスポートを取得するよう圧力を受けている。だが、今回の選挙では投票しやすくするため、ウクライナのパスポートが身分証明書として認められた。

住民たちには、投票日を知らせるテキストメッセージが送られた。さらに、無料のコンサートや食事の提供などソヴィエト連邦時代の手法も、人々を投票所に向かわせるために駆使された。

「ロシア人と協力するのは異常」

ウクライナはこの投票を、非合法のいかさまだと切り捨てた。そして、投票の実施に関わった人は攻撃の対象にされた。

ヘルソン州ノヴァ・カホフカでは、期日前投票が始まった2月27日、2件の爆発があった。1件はロシアの政府与党・統一ロシアの事務所を狙い、もう1件は投票所の近くで発生した。

先週3月6日には、ザポリッジャ州で占領されているベルディアンスクで、自動車に仕掛けられた爆弾が爆発。ウクライナ国防省情報総局は、ロシアによる選挙の実施を手助けしていた地元女性が「粛清」されたと発表した。

同州のウクライナ側の知事イヴァン・フェドロフ氏は、攻撃を誰が実行したのかというBBCの質問に、「誰かがやった。偉大な抵抗を見せた誰かだ。一時的に占領された地域でそれをやる英雄たちだ」と返答。

「私たちの抵抗は、自国民がロシア人と協力するのは異常だということを示している。誰かが理解していなかった。だからこの誰かは殺された」

攻撃の背後にいる人々はウクライナ国家とつながりがあるのかという質問に対しては、フェドロフ氏は、「ええ、もちろん。一時的な占領下にある地域の我々の抵抗組織と国の諜報組織は、見事に協力している」と答えた。

ウクライナの占領地域では、ロシアが任命した当局者やメディアは投票の呼びかけに熱心だが、特定候補者の応援はあまりしていない。その必要もない。

これらの州をロシアに併合したのはプーチン氏で、今回の選挙は大統領への信任投票と位置づけられている。

今年の大統領選の公式シンボルは、ウクライナでの「特別軍事作戦」にちなんだVサインだ。ロシア中央選管が採用した公式スローガンは、「ともに強く――ロシアのために投票しよう!」だ。

Vサインもスローガンも、ウクライナの占領地域のあちこち(投票所も含む)に貼られているポスターに登場する。

ロシアの政府系メディアはすでに、ウクライナでの期日前投票は大成功だと力説している。

「民主主義ではない、茶番だ」

「本当の休日だった! 音楽、風船、ロシア国旗!」。ロシア紙コムソモリスカヤ・プラウダは、今月3日に終了したヘルソン州での期日前投票運動についてそう伝えた。「何万人もの人々!」。

クレムリンのプロパガンダは、ロシアのウクライナ侵攻と併合を全国民が支持しているとの印象を、この選挙で与えようとしている。

そうした周到につくられたイメージの代償として、反ロシアの何千人もが黙らされ、国外に追放され、投獄され、殺害されている。ロシア占領下で生きていきたくない、生きていけないとして、多くの人々――特に若者たち――が去っている。

ザポリッジャ州のウクライナ側知事のフェドロフ氏は、占領されている一部地域の住民が、投票するよう脅されていると話した。「(ロシア当局者らは)すべてのアパートと家々を訪ね、投票しませんかと尋ねている」。

「市民はとても怖がっている。ロシア人が兵士を連れて自分のアパートにやって来て、プーチンに投票しますかと尋ねれば、誰だって『OK、はい』と答えるだろう。みんな自分の命が大事だからだ。だがそれは、私たちの市民がプーチンを支持したいと思っていると示すものではない」

ロシア軍が占領している南東部ヘルソン州の住民のひとりは、自分の村でどのように投票が組織されたかをBBCに語った。

安全面での懸念から、この男性の名前や住所は明らかにできない。

「親ロシアの地元住民らが投票箱を持って、武装した軍人とともに家々を訪れる。ノックして誰も(ドアを)開けなければ、次の家に移動する。家に押し入ることはないが、訪ねて来る」

「こんなのばかげている。有権者リストを手にした地元住民と、投票箱を抱えた地元住民の2人が機関銃を持った軍人と一緒にいるなんて、いったいどんな選挙なんだ。これは民主主義ではない。茶番だ」

(英語記事 Occupied Ukraine encouraged to vote in Russian election by armed men

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