「御史(オサ)とジョイ」どんでん返しの衝撃が凄まじい13~14話レビュー【韓国ドラマ】

「御史(オサ)とジョイ」は2021年、韓国のtvNで放送されたテレビドラマ。悪事を暴く正義とトキメキの捜査劇です。NHK BS・NHK BSプレミアム4Kで2023年12月より、日曜よる9時から放送中。全16話の作品の13〜14話のレビューをお届けします。
※ネタバレにご注意ください

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人の心を変えるのはむずかしい。たいてい無理だと諦める。でも、幸せとは何か、を求めて、変えることができる瞬間があることを見せた13~14話。キーワードは「改心」だ。

斬首の刑場からテソ(イ・ジェギュン)を救出したのは、ドクボン(ペ・ジョンオク)たち。重傷を負ったテソを江華島に匿い、看病する見返りに、還郷女と子どもたちとともに“自由”を求めて朝鮮を発つため、西洋船に乗る手配を求める。

一方、テソを捕り逃がした責を問われたイオン(テギョン)は官職を罷免される。しかも、元上司の後任には世子殺しの宿敵パク・スン(チョン・ボソク)が就任。イオンが命を削ってまで探し集めた訴追の証拠も目の前で無残に隠滅される。

無力感に打ちひしがれるイオンを励ましたのはジョイ(キム・ヘユン)。2人で子どもみたいに戯れ、遊び疲れたイオンはふと、ジョイをその名で呼ぶ。「いま初めて私を名前で呼んでくれました。おかげで私は“キム・ジョイ”になりました」と感謝と「好き!」を伝えるジョイ。イオンも「お前のために立ち直る」と口づけを交わし、別れがたくてあっさり一夜をともに過ごす。

この一連のラブラブシーンは主演のテギョンとキム・ヘユン、2人がアイディアを出し合いながら作ったという。監督に“やりすぎ注意”のチェックを受けながら、「こうすればもっと可愛くなる」と工夫を重ねて演じたそうなので、ご注目を。ドラマスタート時の“お気楽ハッピー暗行御史”イオンと“茶目っ気&明るさ全開”ジョイが帰って来て、こそばゆいけど心なごみます。

ところが翌朝、二人の部屋に踏み込んできたのが、イオンの祖母。孫の結婚を望みながらも、ジョイが両班の家柄ではなく、離婚歴まであることを知って猛反対。だが、なぜか複雑な思いに駆られる。「相思相愛なのに、女の私だけを責めるのは不公平」というジョイの真っ当な言い分が、両班家の重圧に耐えて生きてきた祖母の心を動かしたからだ。ジョイなら、女性の立場の弱さも親ガチャも乗り越えられるはず。手強いおばあさまに負けず、“改心”させて幸せになって!と応援したくなる。

そんなジョイに助け船を出したのが、幼なじみのスンユル(エン)。外知部(弁護士)としての知識を総動員して、イオンと結婚できる唯一の秘策を教え、ジョイにプロポーズをする。もちろんジョイの心はイオンにあることは承知のうえで、スンユルは江華島にいるジョイの母ドクボンに会いに行く。

そのころ、江華島ではテソが快方に向かっていた。うっすら目を開いたとき、介抱してくれた女性は、幼い自分を見棄てた母。「オモニ(母上)……」とつぶやくテソを、母は「若様」と呼び、衝撃の告白をする。実は、テソが母だと信じていたのはドス(チェ・テファン)の母で、テソこそがパク・スンの嫡子。妾妻だった母は、庶子として生まれた息子ドスの将来を案じ、嫡子テソとすり替えたのだと言う。どんでん返しの衝撃が凄まじい。

だが、テソは母の罪を赦し、父にすり替えの事実を突きつけるため、母の元を去る。江華島のススキの原を悄然と歩くテソ。そんなテソに出くわしたのが、世子殺しの新証拠を求めて調査に渡ったイオンだった。いよいよイオンとテソが一対一で対峙する瞬間が訪れた。ここまで悪徳パク・スン親子の悪事の数々に費やした長尺も、主要人物たちが江華島に続々集まって、伏線回収の準備が整ったようだ。

まず、ドクボンを訪ねたジョイの幼なじみのスンユル。娘が自由に生きるためには自分の存在が重荷になる、と頑ななドクボンに、「ジョイと縁を切ったまま朝鮮を発つのと、そばにいてイオンの捜査に協力するのと、どちらがジョイのためか考えてほしい」と懇願する。たとえジョイがイオンの伴侶であっても、幼なじみとして何かしてやりたい、というスンユルの男気が心に響いたドクボンの表情からは険しさが消え、娘を思う母の顔そのもの。ドクボンが“改心”した瞬間だ。

朝鮮時代劇なのに、盛装&盛りメイクの女性が登場しないこのドラマ。ドクボンはじめ、女優たちはほぼスッピンに見えるので、ごまかしがきかない。だからこそ、イチからキャラクターを作り上げる演技力が求められる。とりわけドクボンを演じたペ・ジョンオクの表情には、幸せのために強く生きたいと願う女性の覚悟が滲んでいた。還暦近い年齢というが、実人生を丁寧に歩んできたからこそ生み出せる演技なのだろう。樹木希林さんを彷彿させられた。素敵な女優さんだ。

そして、イオンもテソに“改心”を迫る。「たとえ庶子と思い込み、父に認められたくて悪事に手を染めたとしても、過ちを消すことはできない。やり直したいと思うなら、罪を償うことだ」と諭すイオン。兄と慕った世子の「民が苦しむこの国を変えたい」という理想を受け継ぐイオンの正義感に、テソは目が覚める思いがしたはずだ。

なぜなら、テソは世子の言葉に、“改心”を促された過去があったから。父の命令で、治腫医に扮して烏頭(毒薬)入りの薬湯を飲ませるために参内したテソ。だが、地球儀を見ながら「海の向こうには差別なき国があるはず。もしなければ、この国を作り直せばよいだけだ」と理想を語る世子に共感し、どうしても毒薬を飲ませることができなかったのだ。苦しんでいるのは庶子として差別される自分だけではない。なのにその鬱屈を、他人を蔑み、犠牲にすることで晴らしていなかったか……。

「私が間違っていた」—— イオンに語るテソの表情は肩の荷を下ろしたかのように心ほどけて穏やかだ。世子に毒を飲ませたのは多分ドスだと告白し、父パク・テソが国王と世毒薬殺を密約して治腫医と交わした証拠の誓約書をイオンに託す。

物語はいよいよラストのクライマックスへ。イオンとジョイが生きたかった幸せな世の中を見せてくれるはずだ。


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