年収300万円の非正規雇用・35歳女性…“たった3年”で「年収1億円の経営者」になれたワケ【経営コンサルタントが解説】

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日本では、年間約14.2万社、1日におよそ400社近くの法人が設立されています(東京商工リサーチ:2022年「全国新設法人動向」調査より)。もっとも、起業と聞くと「なにか特別なスキルや才能、資産がなければ難しい」と考える人も少なくありません。そこで、経営コンサルタントの鈴木健二郎氏が「誰もが持っている“目にみえない資産”を活用した起業」について、具体的な事例をもとに解説します。

あえて「非正規雇用」を選んだ人生だったが

35歳で非正規雇用の美咲(仮名)さん、年収は約300万円。高齢化と過疎化が進む地域に住む彼女は、貯金もほとんどなかった。ところが、彼女の人生は“たった3年”で劇的に変わる。年収1億円を達成し、多くの人々から尊敬される経営者になったのだ。

そんな話を聞いたら、きっと「そんなばかな」と思うだろう。「相当運がよかったのではないか」「ズルいことでもしたのだろう」と思われるかもしれない。

彼女の人生の転機の背後には、財産リストには載らない“とある資産”がある。それは、いわゆる店舗や設備のような有形資産とは性質が異なるもので、誰しもが持っていながら、目に見えないためにその存在に気づきづらい資産である。いったい彼女はどのような資産を持っていたのか。

美咲さんは、大学卒業後“あえて”非正規雇用の道を選んだという。自分の興味と熱意を追求するために、一般的な正社員の道を選ばず、より柔軟性のある働き方を求めた。特に、彼女は小さいころから親しんできた地元が大好きで、そのなかで自己実現を図りたいと考えていたのである。

確かにこの「非正規雇用」という働き方は、自由度が高く、自分の価値観や生活スタイルに合っていた。20代のうちは、自由を謳歌し、時間を見つけては地域コミュニティが主催するイベントに参加し、山積する地域課題に触れ、熱心に参加者と議論した。

この地元で自分が役に立てることはないか……悶々と考えるづける日々に明け暮れ、気がつくと年齢は30歳を超えていた。経済的な不安定さと将来の不安から、若き日の自分の決断に悔やむこともあったという。結婚して家庭に入り、それなりに幸せそうにしているかつての友人たちと会うと、明るく振舞ってはいたが、どこか焦燥感にかられることが増えていたそうだ。

地元コミュニティとの“絆”が背中を押した

美咲さんが経営者への道を歩み始めたのは、ある日、地元のコミュニティでのカジュアルな会話からだった。彼女は、地域に根ざした専門知識や技能を持つ人々がいるにもかかわらず、それが地域外でまったく活用されていないことに気づいた。この気づきが、彼女を動かす最初の一歩となった。

地域に伝わる伝統工芸、農作物の栽培技術や地元の料理法、また地域固有の歴史や文化に関する知識など……。これらの知識や技能は、その地域の人々にとっては日常的なものだが、外部の人々にとっては新鮮で貴重な学びの機会となり得る。

「地域特有の知恵を世界中の人々に向けて提供することはできないか?」

そう考えた美咲さんは、一念発起。会社を興してオンライン教育プラットフォームを立ち上げることにした。

ところが、ビジネスはそう甘くない。コンテンツには地域の独自性があったものの、立ち上げ初期は目に見える成果が出せないまま、運営は想像以上の困難が続いた。

資金の調達、信頼できる講師の確保、プラットフォームの技術的な構築など、挑戦は山積み。最初の1年は収益がほとんどなく、美咲さん自身、何度も諦めかけたという。

なにをやっても八方ふさがりに感じていたある時、友人のすすめで、地域の人々の専門知識や技能を広く紹介する場として、小さなワークショップを企画した。地域の人々がそれぞれ持つ独特のスキルや知識を活用して手作りの品を作ったり、料理のレッスンをしたり、伝統的な工芸技術を教えるリアル参加型のワークショップだ。

これは、地域コミュニティに対して彼女の感謝の気持ちを表すとともに、プラットフォームへの関心を高める機会となった。

地域の人々は美咲さんが自分たちの文化や知識に対してリスペクトをもって広めようとしていることを理解し、支持するように。ワークショップを通じて、自分たちの知識やスキルが外の世界で価値を持つことを実感し、美咲のビジョンに共感しはじめたのだ。このイベントがきっかけで次第にメディアからの取材も入るようになった。

彼女が生かした「見えない資産」とは

このサイクルに入ってからは早かった。2年目が終わる頃、美咲さんは地域コミュニティとの信頼関係をさらに深め、プラットフォームへのサポートを得ることができるようになっていた。

3年目には、美咲さんのオンライン教育プラットフォームは、年収1億円を超えるビジネスへと成長。彼女が最初に抱いたビジョンは、何千人もの学習者と講師を結びつけ、知識の共有という新しい価値を生み出していた。そんな彼女の目線は今、海外への展開に向いている。

目には見えない「無形資産」がビジネスの核となる

美咲さんの事例は、不動産などの目に見える資産がなくとも、人脈と信頼関係、そして独自のビジョンがいかに強力な資産になり得るかを示している。これらの資産のことを「無形資産」という。

彼女のビジネスの核となった、地域特有の専門知識や技能も、無形資産だ。いずれも会社の貸借対照表(B/S)に載ることはないが、事業価値を構成する立派な資産である。

少しの勇気と大きなビジョン、そしてそれを支える無形資産があれば、誰もが自分の人生を変えることができる。インターネットによって、場所の制約がなくなった今、強力な独自コンテンツと絆がある地方こそ、無形資産を活用したビジネスが生きるといっても良いだろう。

鈴木 健二郎

株式会社テックコンシリエ

代表取締役

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