津波避難ビル、実効性課題 酒田市指定、6施設・能登地震時受け入れ

津波警報を受け、多くの住民が避難した津波避難ビル=1月1日午後5時3分、酒田市・山新放送庄内会館

 能登半島地震で約40年ぶりに津波警報が本県に出され、酒田市沿岸で実際に津波が観測された。同市は港のすぐそばに市街地が広がり、市が港に近い高さのある民間建物を指定している「津波避難ビル」に、多くの住民が身を寄せた。高所避難の意識は定着が進むが、受け入れ側の避難者への対応は定まっておらず、警報解除前に避難者が帰宅するなど、実効性のある運用には課題が多いのが現状だ。

 同市の津波避難ビルは、高層の公共施設がない最上川河口付近の浸水想定区域にある企業などの協力を得て、多層の建物を指定している。現在は庄内JAビル▽山新放送庄内会館▽ホテルリッチ&ガーデン酒田▽セレモニーホール酒田▽日本海酒田リハビリテーション病院▽ベルナール酒田―の6施設。津波など高所避難が必要な災害の発生時、夜間や休日を含め住民が逃げ込めるよう市は各建物の管理者と協議を重ねてきた。

 ホテルリッチ&ガーデン酒田は当時、最大約350人が避難した。同ホテルには市があらかじめ、避難者用に飲料水を配布していたが、100人近くが避難した庄内JAビルや山新放送庄内会館には備蓄品が市から配られていないなど、準備と対応に違いがあった。また協力している企業などは原則として避難場所を提供するだけで、避難指示があれば市が職員2人を派遣することになっていた。だが元日の発生だったこともあり計画通りには配置できない施設もあった。

 もう一つの大きな課題は多くの住民がいったんは避難したものの、警報解除前に帰宅したことだ。ある施設の関係者は「こちらがどう対応したらいいか分からず、とどまってもらうことはできなかった」と話した。

 こうした課題を踏まえ、市は最低限の飲料水や食料を全6施設に備蓄できるよう検討を進めている。市職員の配置も徹底する方向で準備をしている。

 民間などの建物を避難場所として活用し、地域住民の命を守る取り組みは地域を挙げた「共助」の一つ。各施設の管理者も協力をしている。那須欣男市危機管理監は「避難する自治会と受け入れる建物の管理者の密接なコミュニケーションと、日頃の訓練が大事になる」とさらなる協力を求めている。

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