脱サラ 52歳津軽塗職人・西谷さん4月デビュー 亡き義父の後継ぎ、伝統守りたい

研修中に自身が手がけた作品群と西谷さん

 青森県弘前市東城北3丁目の西谷弘康さんが4月、津軽塗職人として52歳でデビューする。同じく津軽塗職人だった義父の背中を追い、約3年半前に脱サラして津軽塗の世界に飛び込んだ。約300年の歴史がある伝統工芸の世界を前に「同じ技法でも作品に個性が生まれるのが津軽塗の魅力。品質にこだわり、買う人が喜んでくれる仕事をしたい」と意気込む。

 14日、同市の藤田記念庭園にある匠館2階に、津軽塗の力作がずらりと並んだ。作品を手がけたのは職人を目指し、津軽塗の後継者育成事業で腕を磨く5人の研修生。育成事業は、県漆器協同組合連合会と弘前市が2007年から行っている。西谷さんはこの展示会で、弁当箱やおわん、お盆など約30点を出品した。

 西谷さんは、20年に亡くなった義父・周一さん(享年81)の後を継ごうと、同年に育成事業に応募。面接に先立ち、約25年間勤めた県内の会社を49歳で辞めた。研修の応募資格が50歳未満のため、「今しかない」と退路を断った。

 定年のあるサラリーマンと違い、生涯現役で働ける職人の世界に憧れがあった。研修中の生活は苦しかったが「会社を辞めたことに迷いも後悔もない」と断言する。

 前職ではATMやデジタルカメラに使う小型モーターを製作していた。西谷さんは「決して手先が器用な方ではない」と笑うが、「安定供給の大切さや品質確保といったものづくりの基本を知ったのは大きい」と話す。

 研修では、津軽塗の基礎を一から丁寧に教えてもらった。同じことを何度聞いてもちゃんと教えてくれる。「津軽塗の世界を何も分からなかった私にとってありがたかった」と話した。

 義父が残した仕事場で、4月から、個人事業主として津軽塗の製品を作る。義父も手がけていた津軽塗の箸を商品の柱にする。製作の方針について「品質、価格、安定供給を心がけたい」と話した。

 津軽塗の後継者育成事業の展示会は、17日午後3時まで。

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