亡き妻を偲ぶ山桜 桜守は高齢に…地域の次世代が受け継ぐ「桜を後世に残したい」

1人の男性が約20年にわたって山桜を育ててきた知る人ぞ知る桜のスポットが島根県安来市にあります。
先立った妻を偲ぶ、思い出の山桜。男性は高齢になり、桜の見守りを続けることができなくなってしまいましたが、「地域の桜を後世に残したい」と次の世代が立ち上がりました。

「もうあの山については心配なしでここにいます」
こう話すのは島根県安来市に住む角清延さん(87)。
清延さんは、これまで安来市と松江市の間に位置する野路山で約20年にわたり山桜を育ててきました。

およそ250本の山桜が植えられていて、毎年、花見シーズンには、地元の人を中心ににぎわう、知る人ぞ知る桜スポットとなっています。

そもそもなぜ清延さんが桜を植えたかというと…

角清延さん
「タバコが作れなくなった時に、何か作らないといけない。土地を荒らすわけにはいかないと思って桜を植え始めました」

もともと野路山は、たばこ栽培が盛んで、1950年代には一面たばこ畑が広がっていました。
しかし高齢化で生産者が減り、畑は荒れ果てました。「このままではいけない」、そう思った清延さんは2005年、地元の中学生とともにこの場所に桜を植え、花見に来てもらおうと、山道を整備したのです。

あれから約20年。桜の名所に育ちましたが、今、大きな岐路に立っています。

角清延さん
「いろいろと持病があるし、高齢でもありまして、体力・体調に不安がありました」

山桜の中には「みどり」と名付けた1本の桜があります。
4年前、妻の翠(みどり)さんが亡くなりました。妻を偲びながら過ごしてきましたが、清延さん自身も脳梗塞を患ったほか、立て続けに肝臓も悪くして入院。一時は命の危険もありました。

そして今年1月、老人ホームへの入所を決めたのです。

角清延さん
「自分で退路を断って、ここで生活をして終のすみかにしたいと思っています」

桜を見守り続けることができない状態になってしまいましたが、山桜の心配はしていません。すでに清延さんの意志は次の世代に受け継がれています。

「ウッドデッキの日よけなんですけど、雪の重みで壊れてしまったので直しています」
角達也さん(63)。清延さんと同じ日白町内で育ち、子どもの頃からの長い付き合いだといいます。

角達也さん
「(清延さんは)まっすぐな人だなと思いますね。しかも決断は早いし、彼のペースに巻き込まれるっていう感じです」

5年ほど前、清延さんから手伝ってほしいと誘われたのがきっかけで、山の整備に携わり始めました。

角達也さん
「それまでは『花?』とかって、そんなに興味もなかったんですけど、進入路の整備とか草刈りをしていると、だんだんだんだんのめりこんでいって、自分が一番率先してというか、一番楽しんでやっているという感じになりました」

この日は花見シーズンを前に、山桜にあるウッドデッキの修繕作業を行っていました。

花見シーズンには、緑色の葉をつけて美しい花を咲かせる、「みどり」の手入れも欠かすことはありません。

角達也さん
「清延さんが、昭和の男の人みたいな、俺について来いみたいなタイプなので、それを本当に陰で支えていらっしゃるっていうふうな。夫婦2人、とても良いとり合わせだったと思います」

達也さんによると、野路山の桜は今年、3月末ごろに見頃を迎えるのではないかとのこと。
これまでのように清延さんと一緒に整備をすることはできなくなりましたが、できるだけ長く、この山桜を一緒に見ていきたいと話します。

角達也さん
「以前みたいに一緒に作業するというのはもうできないと思うけど、一生懸命育てられた桜を一緒に見ることができればいいと思います」

角清延さん
「少ない人数でも好きな人にずっと来てもらう。あの桜が長く花をつけてもらえばいいなと。それで見る人に喜んでもらえればいいなと思っています」

「桜を後世に残し続けたい」。地域で受け継がれる山桜が今年の開花を迎えようとしています。

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