能登地震でもやっぱり出た、根拠のない「人工地震」 デマはなぜ広がる?  かつてはオウム真理教も「阪神大震災は地震兵器の攻撃」

炎上する神戸市街から立ちのぼる黒煙=1995年1月17日、兵庫県・神戸沖

 天災や大事故といった出来事に見舞われると、その原因や関連の出来事を巡って、さまざまな臆測が飛び交う。それらには、デマやうわさなど根拠のなく無責任なものが少なくないが、拡散することで社会不安や暴力を生み出す危険性もはらんでいる。
 震災のたびに頭をもたげる、根拠のない情報のひとつが「人工地震」だ。また、外国人による「窃盗団」といった噂も、被災地に広がる。なぜ広まり、信じるのか。その背景を探った。(共同通信=佐藤大介)

能登半島地震で、白煙が立ち上る石川県輪島市の火災現場=1月2日

 ▽「うわさ」の拡散
 最大震度7を観測した能登半島地震が発生する前日の2023年12月31日、X(旧ツイッター)に「リンクが全部消えている謎」との書き込みが投稿された。この日、石川県能登町の変電所で「3回爆発音」との報道が、インターネットのニュースサイトであったが、すぐに記事が削除された。これを疑問視する内容だった。
 この投稿は元日の地震発生直後から注目を集め、閲覧回数は200万回を超え、5千件超がリポスト(転載)された。これを基に、変電所の「爆発音」を「人工地震」と関連付け、記事が削除されたのは「人工地震を隠蔽するため」とのうわさが拡散する。
 実際、変電所で爆発はあったのだろうか。北陸電力によると、変電所でトラブルがあった事実はなく、爆発音も把握していない。12月31日に能登町で250戸、輪島市で80戸が停電したが、原因は送電線への倒木か樹木の接触で、約2時間後に復旧した。
 記事を出した北陸放送は「変電所で爆発音が3回聞こえたという通報が住民から消防へ寄せられ、停電もあったので記事にした」と説明する。北陸電力などの発表で変電所に異常がなかいことが判明したため、記事を削除したという。
 北陸電力の担当者は「変電所のトラブルであれば、より大規模な停電が起きると考えられる。それを隠すことなど不可能だ」と話し、人工地震と結び付けようとするうわさを一蹴ている。
 人工地震を信じる人は、この説明をどう思うのか。関東在住の男性に話を聞くと、こう断言された。
 「爆発音は人工地震の工作中に起きたもので、記事の削除は隠蔽が目的だ」。北陸電力などの説明は「操作されている」。ネット上では人工地震の主張への批判も目立つが、「圧力には屈しない」と突っぱねた。
 ネット上の掲示板では「なぜ爆発音の記事が削除されたのか」との質問が約6万回閲覧されている。満足度が高いとされた回答には、こう記されていた。
 「ニュースが表ざたになると困る原因があると言うことが推測されます。陰謀論でも、嘘や噂でもなく、ほんとうに起こった出来事です。(中略)自分の頭で考えてみてはいかがでしょうか」
 そこに北陸電力などの説明は、一切触れられていない。

2024年1月、「パンデミック条約」に反対し、都内をデモする人たち(人物の顔を画像加工しています、藤倉善郎氏提供)

 ▽「人口削減」の世界観
 能登半島地震の発生後、「人工地震」が原因とXに次々と投稿した人々がいる。そこにはこんな内容もあった。
 「この先もパンデミック条約制定のために、あれこれ仕掛けてくる」
 世界保健機関(WHO)で議論が進む「パンデミック条約」に、ワクチンの安全性への疑問から反対する人たちだ。
 1月14日に東京都内で開かれたパンデミック条約反対のデモでは、人工地震の可能性をほのめかす参加者もいた。東京都日野市議で、反ワクチンを唱える「全国有志議員の会」代表の池田利恵氏は、地震発生直後から人工地震との見方を示した投稿を「メモ」としてリポスト(転載)し、一部には追認するようなコメントも付けている。
 そこで池田氏にその意図を問うと、人工地震かどうかは「判断できない」との回答。リポストしたことについては「(メモ)以外の意味はない」としたが、人工地震の考えを否定することはなかった。
 反ワクチン団体の動向に詳しいジャーナリストの藤倉善郎氏はこう指摘する。
 「ワクチン反対と人工地震を訴える人たちは、闇の勢力による人類管理や人口削減といった計画が存在するという、共通の世界観がある」
 反ワクチンの主張にはさまざまな陰謀論がパッチワークのように入り込んでおり、人工地震もそこに交ざり込んだと、藤倉氏は言う。
 ただ、人工地震説を信じる根拠はどこにあるのだろうか。

2011年7月、衆院東日本大震災復興特別委で答弁する浜田和幸総務政務官

 よりどころの一つとなっているのが2011年7月、衆院東日本大震災復興特別委員会で、総務政務官を当時務めていた参議院議員、浜田和幸氏の答弁だ。浜田氏を巡っては、2004年のスマトラ沖地震は米国の「地震兵器」が引き起こした疑いがあると、学者時代に論文に記したことが問題視されていた。
 「地震や津波を人工的に起こすのは技術的には十分可能で、国際政治、軍事上においては常識化されている」。質問に対し、浜田氏はこう答えている。
 当時の答弁を、現在はどう考えているのだろうか。浜田氏にその疑問をただすと、こう述べた。
 「人工地震は軍事目的で開発されたものであることは間違いない。太平洋戦争末期に米軍が日本攻略に向け原爆投下か人工地震かを検討し、前者を選択したことは米政府の文書にも明示されている」
 地下構造調査で人工的に振動を発生させることはあるが、「軍事目的」の根拠は明らかではない。だが、浜田氏が答弁する映像はインターネットで拡散し、能登半島地震の際も出回っている。そこに責任は感じていないのだろうか。
 「特に見解はない。不都合な真実を含め、多様な情報源から自らの判断で納得できる情報を選択することが大事だと思っている」

オウム真理教の村井秀夫・最高幹部=1995年

 ▽「繰り返されるうわさ」
 大きな地震が起きるたびに「人工地震」とうわさが広がることは、これまでも何度もあった。オウム真理教は、1995年の阪神大震災を「地震兵器による攻撃」と主張している。95年4月に刺殺された教団の村井秀夫・最高幹部が、攻撃をしているのは「大国だと思う」と語るニュース映像は、今も拡散し続けている。
 しかし、そもそも、阪神大震災や能登半島地震のようなマグニチュード(M)7規模の大地震を、人工的に起こせるのだろうか。
 名古屋大地震火山研究センター教授の山岡耕春氏は人工的に誘発するのは極めて困難だとの見方を示している。「地震は、地殻にたまっているひずみの解放によって発生する。巨大なひずみがある場所を正確に知るのが必要で、それは地震を予知できることを意味する」
 地表や海底から10キロ以上の深さにある震源に核爆弾などを設置しようと計画すれば、巨大な施設と年単位の時間がかかる。そのため、秘密裏に行うのは「まず不可能」。さらに、地震と人工的な爆発による「人工振動」では波の出方が異なり、震源から離れた地点では明確に区別できるという。
 「ありそうにないけれど、論理的には完全に否定できないことを組み合わせるのが陰謀論。なぜ信じるのかは分からないが、消えることもないだろう」

「科学が発展しても、陰謀論がなくなることはないだろう」と話す、評論家の真鍋厚氏

 ▽関東大震災でも…
 人工地震は、約100年前の関東大震災でも世間の口に上った。その背景に何があるのか。評論家の真鍋厚氏は、「列強の存在に対する恐怖感」を指摘する。
 「再びささやかれるようになったのは阪神大震災からで、東日本大震災で一般に広がった」
 真鍋氏はそこに、グローバリズムの拡大と経済の衰退に不安を抱いた日本社会が、陰謀論に反応した姿を見る。
 さらに、こんな点にも注目している。「あらゆる現象の背後に行為の主体を見つけようとする人間の心理」。地震などの自然災害が起きると、以前は「神」の関与が考えられたが、やがてそれは「闇の勢力」に置き換わっていった。
 「科学技術が進化していけば、地震や噴火、洪水などの自然現象も操作できるのではないかとの考えが出てくる。それは、科学の発展が陰謀論を強化するという、あまりに皮肉な結果を意味している」

X(旧ツイッター)に投稿された、被災地に窃盗団が出没しているとのデマ。外国人による犯行と記されていた(画像の一部を加工しています)

 ▽「『よそ者』への敵視」
 ところで、震災時に飛び交う根拠のない情報は人工地震だけではない。
 被災地に「外国人窃盗団」が出没したとのデマも、能登半島地震発生直後から拡散した。差別や偏見を助長する偽情報は、関東大震災で自警団などが朝鮮人を虐殺する悲劇を招いている。不安と恐怖が「よそ者」への敵視へとつながってきた。
 ジャーナリストの藤原亮司氏はこんな経験をしている。2011年3月、東日本大震災による津波の被害を取材するため東北地方の漁港を歩いていた。陸に乗り上げた船などを撮影していると、5~6人の男性たちが何かを叫びながら走ってくる。その手にはもりやバットが握られていた。
 男性たちに取り囲まれ、地面に押し付けられるように座らされた。
 「おまえは中国人だろう」「何を盗みに来た」と、殺気立った雰囲気で詰問してくる。免許証などを見せ、取材目的で来ていることを説明すると、ようやく解放された。
 「なぜこんなことをしているのか」
 藤原氏がそう尋ねると、男性の1人は「中国人が被災地でいろんな物を盗んでいると聞いた」
 藤原氏は、うわさによって人々が暴力的な行動に出かねない現実を目の当たりにし、衝撃を受けた。「災害による非日常な状況では偽情報を簡単に信じ、自分の正しさを疑わなくなる」

東北学院大教授の郭基煥氏は「災害時の不安な心理に、陰謀論が入り込みやすい」と警鐘を鳴らす

 交流サイト(SNS)の発達により、その危うさは増していると感じる。
 東北学院大教授の郭基煥氏が2016年、仙台市内で770人を対象に行った調査では、東日本大震災の際に外国人が被災地で犯罪をしているとのうわさを「聞いた」のが51・6%で、うち86・2%が「信じた」と回答。「外国人」は「中国系」が6割を超えていた。
 「災害下でのストレスが、コミュニケーションの相手と考えていない外国人への憎悪につながる」。そうした感情は、外交関係やメディアの報道からの影響も受ける。「偏見に基づくデマが何を生み出してきたか、歴史の教訓を社会が共有すべきだ」
 今年2月、藤原氏はかつて男性たちに取り囲まれた地域を訪れた。道路は整備され、震災の痕跡は目につかない。当時の外国人犯罪の話を尋ねても「知らない」との答えが返ってくる。50歳代の男性は、うつむきながらつぶやいた。
 「あの時は(集落を)守るのに必死だった」

インタビューに答える「日本ファクトチェックセンター」編集長の古田大輔氏

 ▽「フェイクに向き合う」
 こうしたデマについて、「日本ファクトチェックセンター」の編集長、古田大輔氏は「情報を拡散させるのは、故意犯、確信犯、愉快犯の3パターンに分類される」と話す。詳しく聞いた。
 ―どういった特徴が。
 「故意犯は、情報が偽物だと知りながらも拡散する。投稿の閲覧数を上げてカネを稼いだり、政治的に有利な状況をつくり出したりしようとする。確信犯はその情報が正しいと信じており、人工地震やワクチン陰謀論など、知られていない『真実』を広めようとする。愉快犯は、ただ注目を集めようとするのが目的だ。災害時は、それぞれが大量に現れる」
 ―巨大な力によって人工地震が隠されていると考える人もいる。
 「そこから見えるのは、世の中で主流とされている情報への疑念だ。政府の言うことは裏があり、メディアもコントロールされているという不信感がある。反ワクチンの人が『地震も何かのたくらみでは』と思うように、陰謀の考えを横に展開していくことはよくある」
 ―インターネットに情報を依存している。
 「陰謀論のコミュニティーでは『自分の頭で考えなさい』という言葉がキーワードとなっている。一見、正しいように思えるが『メディアの言うことは信用できないが、真実を教えてくれるサイトを自分で見つけた』となりかねない危険性がある」
 ―判別するには。
 「目の前に示されたことを信じ込むのではなく、事実と推測・意見を切り分ける視点が重要だ。なぜ自分はこの情報を正しいと思ったのか。いったん判断を留保して、他の情報と比較しながら検討する『健全な吟味』が求められている」
 ―メディアの役割は。
 「記事がどういった論拠に基づいているか、関連のリンク先を示すなど、受け手が原典をたどれる工夫をすべきだろう。普段から原典に当たることをしていれば、読者や視聴者のメディアに対するリテラシー(知識や判断力)を高めることにつながる」
 ―それが陰謀論の拡散を防ぐことになるか。
 「陰謀論は強固に信じている人が多いと思われがちだが、程度の差はある。明確な論拠を示すことで、その過ちを理解する人も少なくない。そうした『情報のワクチン』を届けることも、メディアの大きな責任ではないか」

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