自衛隊員靖国参拝で防衛省内に共産党の内通者|松崎いたる 自衛隊員の靖国参拝の情報を赤旗と毎日新聞にリークした者を突き止めようとする防衛省と、防衛省内にいる内通者を守ろうとする共産党――事の本質は安全保障に直結する深刻な問題だった。

左翼系の軍事評論家を使った朝日の印象操作

自衛隊の幹部や隊員による靖国神社への参拝が問題視されている。

1月9日、陸上自衛隊の小林弘樹陸上幕僚副長ら「航空事故調査委員会」のメンバー22人が、年始にあたっての「航空機安全祈願」として「実施計画」を策定したうえで靖国神社に参拝した。防衛省と靖国神社との往復には公用車も使用された。この事実が明らかにされると、新聞各紙は一斉に社説に取り上げ、自衛隊を非難した。

「陸自幹部ら靖国参拝 組織的な行動は不適切だ」(毎日新聞 1月13日)
「陸自靖国参拝 旧軍との『断絶』どこへ」(朝日新聞 1月13日)
「陸自靖国参拝 戦争への反省、疑われる」(京都新聞 1月17日)
「陸自靖国参拝 歴史観問われる軽挙だ」(北海道新聞 1月21日)

これらの社説はどれも「憲法が定める『政教分離』の原則に抵触する」(朝日)、 「公人による組織的参拝は、政教分離原則との整合性が問われるだけでなく、『不戦の誓い』を政府がないがしろにしていると見られかねない」(毎日)など、憲法上の疑義を表したものとなっている。

唯一、「靖国神社 陸自幹部の参拝は当然だ」(1月16日)との社説を掲げたのは産経新聞で「陸自幹部の靖国神社参拝は公的、私的を問わず何の問題もなく、むしろ推奨されるべき話である」としている。

陸自幹部の靖国参拝が各紙を賑わせるようになると、次は海上自衛隊の練習艦隊の実習幹部ら165人のうち「多くの人間」が制服姿で「集団参拝」してことが問題視されるようになった。この参拝は昨年5月17日に、九段下周辺の史跡等を巡る「歴史学習」の研修中に、希望者が休憩時間を利用して行われたものだった。参拝の事実は靖国神社の社報『靖国』昨年7月号に掲載されていた。酒井良海上幕僚長は2月20日の記者会見で「練習艦隊として公式参拝したということではない。研修の合間に個人が自由意思のもとで私的に参拝した」と説明し、「問題視することもなく、調査する方針もない」と語った。

だが朝日新聞の2月21日付けの記事の中で、左翼系の軍事評論家・前田哲男氏の「参拝の意思を聞く機会があっても、卒業したばかりの実習幹部にとって参拝を拒否するのはかなり勇気が必要」で「大きな見地から見れば、事実上の命令だ」とのコメントを紹介。1974(昭和49)年の防衛事務次官通達で禁じられている「部隊参拝」に該当するかのような印象を与える記事になっている。

憲法違反という非難は論外

憲法20条には「いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない」(同条1項)、「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」(同条3項)との規定がある。また憲法89条には公金を宗教団体や宗教活動に支弁してはならないとする規定がある。これらの憲法上の原則が「政教分離」と呼ばれている。

だが宗教に関係する事柄すべてに国(政府)が関与してはならないというわけではない。公立学校でクリスマス会を開いても、正月に役所の玄関に門松やしめ縄を飾っても「政教分離」違反にはならない。

国民の信仰の自由を保障するために現行憲法に盛り込まれたのが政教分離の原則であり、「神」と名のつくものを国事行事から機械的に排除する趣旨のものではない。戦後、政教分離を争点にした裁判がいくつもあったが、最高裁は違憲かどうかを判断する「目的・効果の基準」を明示している(「津地鎮祭事件」1977年7月13日大法廷判決)。

それは①問題となった国家行為が、世俗的目的をもつものかどうか。②その行為の主要な効果が、宗教を振興し、または抑圧するものかどうか。③その行為が、宗教との過度のかかわり合いを促すものかどうか――の三つの基準である。

「目的・効果の基準」に照らせば、今回問題にされた陸幕副長らの参拝は、靖国神社という特定の宗教を振興する目的も効果もなく、政教分離違反にはまったく当たらない。そもそも私的な参拝なのだから「国家行為」とも言えず、憲法違反などという非難は論外といえる。

参拝に問題はない

それでも何とか「違憲」「政教一致」に持ち込みたい論者は、参拝に公用車が使われた、計画書があった、集団で参拝している等の事実から、私的な参拝ではなく、自衛隊の組織ぐるみの、したがって国家行為としての参拝だったと強弁しようとしている。

公用車は主に幹部の自宅と勤務場所を往復する通勤のために使われている。私用と公務を結ぶ手段ともいえる。勤務後に複数の飲食店をハシゴするような利用は禁じられるが、自宅以外の私用の場所に行くことは許容される。こうした公用車の運用は、防衛省以外の省庁や自治体でも同様だろう。つまり、防衛省と靖国神社の往復に公用車が使われたとしても、参拝が「公務」だとはいえないのである。

計画書の存在も、ただちに私的参拝を否定するものではない。22人という人数が短い休憩時間内に参拝をすまし、業務に復帰するには、私用であっても事前に行動計画を立てることは必要だったのだろう。その際、普段業務で使用している計画書のフォーマットを私的な計画に利用してしまったということだ。その是非は私的か公的かという問題とは別だ。

上官の命令に基づく部隊参拝であるならば、国家行為として「政教一致」にもなりかねないが、陸幕副長らの参拝では、41人に参拝の案内を出し、そのうち実際に参加したのはほぼ半数の22人であったことからも、命令ではなく、断ることも可能な、各人の自由意志による参拝だったといえるだろう。海自の実習幹部らの参拝も、上官が命令した事実は見当たらない。むしろ神社の近くに行けば「お参りしよう」と思うのは自然のことではないだろうか。なんら参拝そのものに問題はないのである。

靖国参拝計画は事前に赤旗、毎日新聞の記者にリークされていた

赤旗1月10日

一連の靖国参拝の報道で、国民が今回の件で真剣に考えなければならない問題は「憲法違反」や「政教一致」などではなく、まったく別の問題である。

陸幕副長らの靖国参拝を最初に報じたのは、参拝翌日1月10日の「しんぶん赤旗」(日本共産党機関紙)だった。記事は「陸自幹部ら靖国参拝 官用車使い 憲法の政教分離に抵触か」の見出しで第1面肩に大きく掲載された。「参拝を終え、靖国神社から出てきた小林弘樹陸上幕僚副長」のキャプションをつけた背広姿の男性の全身の写真も添えられている。記事の中では「本殿から出てきた小林副長は本紙の取材に『毎年やっていますけれど。私的(参拝)です』と答えました」と、赤旗記者と小林副長が接触し会話していることも記されている。

11日からは、この赤旗記事の内容を確認するような形で、朝日新聞など各紙が続報した。毎日新聞は13日になってはじめて、9日に撮影した靖国神社前での小林副長の写真を掲載している。記事では「確認した」との表記が目立つが、9日当日に小林副長本人かどうかができず、確認が13日になってしまったようだ。

以上の経緯を総合すると、次のことがいえる。

①9日に小林副長が靖国参拝することを赤旗、毎日の記者は事前に知っていて、神社前でカメラを構えていた。
②小林副長は外見上、自衛官であることがわかる服装はしておらず、使用した公用車も通常の白ナンバー車で防衛相所有であることを示す標記はなかった。
③にもかかわらず、少なくとも赤旗記者は、背広姿でも小林副長を識別できるだけの副長の顔や容姿に関する情報を事前にもっていた(毎日記者は撮影当日に小林副長本人であることが確認できなかった)。
④小林副長の警護がなかったか、あるいは緩かったため、赤旗記者との接触(アポなし突撃取材)を許してしまった。

つまり、靖国参拝計画は事前に赤旗、毎日新聞の記者にリークされていたということである。おそらく情報は他の新聞社にも伝えられていたのだろうが、そのリーク情報の信ぴょう性が高いと判断した赤旗と毎日だけが現地取材を行ったのだろう。ただし、現場で副長本人に「突撃」したのは赤旗だけだった。省庁との関係を大事にするあまり、毎日は「アポなし突撃」などという“行儀の悪い”ことはしなかったのである。

自衛隊の大失態

防衛省・自衛隊においては、防衛大臣や政務次官など政治家や事務次官などの背広組幹部の行動予定が事前周知されることはあっても、幕僚長など制服組の幹部の行動予定が事前に公表されることはあり得ない。プライベート情報ならなおさら非公開が徹底されている。

幹部の所持品や記憶は我が国の存亡にかかわる重要な防衛機密そのものといえる。拉致や暗殺などのテロ犯罪の標的にもなっているのが自衛隊幹部だ。それが今回、あっさりと行動に関する情報がリークされ、赤旗記者との接触も許してしまったのは、大失態である。

日本維新の会の住吉寛紀議員が唯一、国会で指摘

巷では、靖国参拝の憲法上の是非ばかりが議論される中、2月15日の衆院予算委員会で日本維新の会の住吉寛紀議員が唯一、今回の靖国参拝問題を「自衛隊の情報流出」という観点から取り上げている。「日本の防衛の要である秘密情報が簡単に漏えいするというのは国防上重大な 危機である」との認識を示した上で、住吉議員は木原稔防衛大臣の見解を質した。

木原防衛相は「防衛省・自衛隊が我が国の防衛という任務を果たすためには、適切な情報管理が必要であることは当然」として、「仮に情報漏えいが発覚した場合には、事実関係を確認した上で、判明した事実関係に基づいて、この点は厳正に対処しなければいけない」と答弁している。

赤旗2月17日に住吉議員の質問を「憲法を二重に蹂躙」の見出しをつけて、「住吉氏の発言は、憲法の政教分離原則に反する陸自の組織的参拝を擁護したのに加え、憲法が保障する報道などの『表現の自由』『国民の知る権利』を脅かすもので、憲法を二重に蹂躙するものです」と論評した。

しかし、「知る権利」を主張するならば、共産党がどうやって陸自内部の情報(それも幹部のプライバシー情報)をしたのか、情報の入手経路であろう。

しかもこの赤旗記事は質問者の住吉議員を批判しながら、木原防衛大臣の答弁内容はいっさい報道していない。国民にとって大事なのは、成り立たない「憲法違反だ」という主張よりも、国民や国家の安全に関わる情報が適切に管理されているかどうかの問題だ。木原防衛大臣は「仮に情報漏えいが発覚した場合には」と前置きをして「厳正管理」を約束した。しかし情報漏えいは「仮」ではなく最早事実である。早急に徹底した内部調査を実施し、防衛省内の潜んでいるスパイ・内通者を特定し、情報流出を止めてほしい。国会でもこの問題をもっと追及してしかるべきだと思う。

赤旗が一切触れない事件の本質

だが、調査が公にされれば、スパイも身を潜め証拠の隠滅を図るだろう。われわれの知らないところで調査が行われていることを願いたい。

この点では、内部情報のリークを受ける共産党の側の動きにも注目しておきたい。

赤旗は3月4日、「自衛隊 いびつな“犯人探し”--情報“漏えい”えん罪国賠訴訟」という記事を社会面に大きく掲載した。

2015年9月2日の参院安保法制特別委員会で共産党の仁比聡平議員が暴露した防衛省の統幕文書(統合幕僚長の訪米時の会談記録)について、情報漏洩の容疑をかけられた現職自衛官A氏が国に損害賠償を求めた裁判に関する記事だ。A氏は警務隊によって送検されたが、東京地検は2017年9月に嫌疑不十分で不起訴にしている。

不起訴によってA氏への嫌疑は晴れた。しかし、防衛省内の何者かが、情報を共産党にリークしたという事実は消えてはいない。この情報漏洩こそが事件の本質的な問題のはずだが、赤旗はいっさい触れようとしていない。

A氏は「身に覚えのない容疑で捜査され、身の危険も感じた」として国に500万円の賠償を求めている。この国賠訴訟では、防衛省情報本部に勤務し、問題の統幕文書にアクセスした記録がある3人のうちの一人であるA氏への捜査が妥当なものだったかが争点になっているが、赤旗記事は、A氏を犯人としてでっち上げるために最初から「いびつな犯人探し」、不当な見込み捜査がされたという筋書きにそって書かれている。

共産党の脅し

だが不思議なのは、何のためのでっち上げだったのかが説明されていないことだ。真犯人を庇うためにA氏を犯人に仕立てたとしても、警務隊には真犯人を隠さなければならない動機はない。情報を共産党に流して政府・防衛省が得をすることもない。一方で当時、安保法制の成立を阻止しようとしていた共産党にとっては、政府攻撃の〝武器〟として、この統幕文書は最大限利用されたのである。

だが、国会で靖国参拝をめぐる情報漏洩が問題にされたこの時期に、赤旗がわざわざこの裁判を記事にしたタイミングが気になる。3月1日に証人尋問が行われたことを報道する形式にはなっているが、記事の内容は、2017年3月27日の提訴時のものとほとんど同じで、裁判がいつ結審するのかなど、客観的な情報も乏しく、ニュース性のほとんどない記事なのだ。

視点を変えれば、この国賠訴訟は防衛省による情報保全や内通者捜索活動に圧力をかけるものになっている。「いびつな犯人探しをすれば、また裁判沙汰になるぞ」という一種の脅しだ。幹部の靖国参拝の情報をリークさせた者は誰か、それを突き止めようとする防衛省と、防衛省内にいる内通者を守ろうとする共産党――そんな対立構図が赤旗記事の行間から透けて見えるようだ。

松崎いたる

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