ファーム参入球団「くふうハヤテ」に立ちはだかったオリ宮城大弥。NPB一軍を目指す選手たちが初の公式戦で感じ取った想い

プロ野球の歴史にまた新たな1ページが刻まれた。

今季からファーム・リーグへ参入した「くふうハヤテベンチャーズ静岡」。15日にウエスタン・リーグ開幕戦でファーム公式戦の初戦を迎えた。本拠地ちゅ~るスタジアム静岡で、オリックスの胸を借りた一戦は1-9の大敗。しかし、詰めかけた1631人のファンからは大きな拍手が送られるなど、歓迎ムードの中でプロ野球球団としての確かな第一歩を踏み出した。

記念すべき初戦で、くふうハヤテの前に立ちはだかったのは、3年連続二桁勝利を挙げ、オリックスのリーグ3連覇に大きく貢献してきたバリバリの一軍ローテーション左腕・宮城大弥(22)。

宮城の先発を前日の一部報道で知った野手陣は「やってやる、打ってやる」と、意気込んで試合に挑んだが、自身初の開幕投手へ向け、球威・制球力共に盤石の投球を見せる宮城の前に、初回はあっさり三者凡退に倒れた。

「チーム初ヒットは自分が打つ!」。付け入る隙のない宮城の投球を見て、さらに闘志を燃やしたのが、ベテラン・倉本寿彦(33・元DeNA)だった。

「(ベンチから)今日の投球を見ていて、打つなら真っ直ぐだと。それをファウルにしないように準備はしていました」

どうしても出たかった開幕戦。腰に不安を抱えている中、赤堀元之監督(53)はベテランの名を5番・指名打者に書き込んだ。その気持ちに報いるべく迎えた2回の第1打席。初球は狙っていたストレート。高めだったが迷わず振り抜き、センターへ弾き返す。頼れるベテランのバットから、チームのNPB公式戦初ヒットが生まれた。

「(宮城との対戦は)なかったので、すごく楽しみにしていて『どんな球を投げるのかな』と思っていたんです。でも、ベンチから見た時に『(打席で)ボールを見たらダメだ』と思ったので、まっすぐを打ち返せるようにしか(考えなかった)。こういういい投手だと、みんな『球筋が見たい』と思うところですけど、まあそこは初球から行くというのが僕の持ち味というか。(打てたことは)ほっとしています」

スタンドからは大歓声。このヒットを突破口にしたいくふうハヤテ打線だったが、相手は並の投手ではない。その後は内野安打1本のみと、5回まで2安打7奪三振ときっちり抑えられた。

これには赤堀監督も「さすがのピッチングをされましたが、こういうピッチャーと対戦して結果を残して行かないと上(一軍)にはいけないので、今日は宮城投手に抑えられてしまいましたが打者にとっては、いい経験になった」と、振り返るしかなかった。
しかし、6回から代わった右腕・東晃平(24)から、先頭打者の8番・谷川唯人(21・元ロッテ)が9球粘って見せた。谷川は打ち取られたが、9番・瀬井裕紀(24・九州AL熊本)がチーム初のフォアボールを選んで出塁。そして代打・富山太樹(23・BC栃木)も粘りをみせ9球目を仕留めて、打球を右中間へ弾き返す。スタートを切っていた瀬井がホームをつき、一軍では未だ無敗の好投手からチーム初打点。記念すべき試合での完封劇は免れた。
「(富山は)おとといの試合から状態が良さそうだったので、本人のためにもなるだろうと思って、(代打で)使いました。あそこで1本が出て、ランナーも走っていて得点になりましたが、ああいう1点が、これから先に大きな1点になる。このチームはもっと粘る、もっと泥臭くいかないといけないチームだとは思うので、こういうことをやっていくことが大事になってきますが、(きょうは)ひとつでもいいもの(攻撃)が出せたのかなと思います」

選手ひとりもいないどころか、ボールもないところからチームづくりを初めてまだ4か月、戦前から苦戦は覚悟の上だ。教育リーグのときから、赤堀監督は「勝利はもちろんだが、試合を見にくる人たちに何を見せられるのか」という話をしていた。その中でチームにとって大事だと考えているのが、こうした粘りの部分だ。

初戦の気負いや緊張もあった序盤に比べて、後半は得点につなげた6回だけでなく、打者がファウルで粘る場面も増えた。そして9回には、初の連打でチャンスを作ると、1-9と大量点差で負けていたにもかかわらず、選手を後押しする手拍子が、スタンドから自然と沸き起こり、球場に一体感が生まれた。

野手陣には一軍で実績を挙げている投手を相手に粘りを見せるなど、明るい兆しが見えた。しかし、投手陣には教育リーグから言い続けている四球の多さが目につき、それが大量失点につながってしまった。

「いい面もあったが、悪い部分の方が強く印象に残る試合になってしまった。打たれることは仕方ないが、フォアボールは減らしていかないといけない。打たれることで覚えていくこともあるので、やはり打者にしっかり勝負してもらいたい。まっすぐでも変化球でもファーストストライクを取れるようになっていかないと、上(NPB一軍)へはいけないと思っています」
そうした苦しい投球になってしまった投手陣に対しても、1つのアウト、1つのストライクを取るたびに、スタンドからは大きな声援が送られていた。

「本当に静岡のファンの暖かさを感じました。ファンの皆さんの後押しを感じたので、すごい嬉しかったですね。打って点を取りたかったですが、そういう応援が選手たちへの力になりますし、選手たちも意気に感じていると思います。
ファンを始め、いろんな方の支えがあるから、この場所で試合ができていますし、最後まで応援してくださるファンの方がいる。点差が開いたからといって諦めるということはありません。我々は挑戦する立場なので、もっと力をつけて1戦1戦やるだけだと思います」

チーム初安打の倉本は、試合後の練習を終えた後、選手たちの思いを代弁してくれた。

「厳しい戦いではあるんですけど、その中でも対戦を楽しめたというのはありました。ベンチの中でチームとして戦っていましたし、静岡で本当にプロ野球が始まったんだって、そういう思いを(声援から)選手たちも感じていますし、これからしっかり頑張らないといけないと、選手一人ひとりが思っています。

開幕戦は大敗でしたが、どんな形であれ、きょうチームがスタートできたことが一番大きいですし、静岡のホームでできたことが大きい。先があるチームですし、これも大きな経験になると思いますし、あしたからは落ち着いてできると思っているので、一歩一歩前進していきたい。チーム初ヒットは打ったので、次はチーム初勝利が欲しいですね」

ゼロから這い上がるということは並大抵のことではないだろう。ただ、それは選手たちが自分たちで選んだこと。挑み続けなければ、NPBの一軍という栄冠には届かない。日本プロ野球にとって歴史的な一歩が刻まれたこの日から、彼らがどんな道を歩んでいくのか。残り138試合の戦いぶりにも注目していきたい。

取材・文●岩国誠

【著者プロフィール】
岩国誠(いわくにまこと):1973年3月26日生まれ。32歳でプロ野球を取り扱うスポーツ情報番組のADとしてテレビ業界入り。Webコンテンツ制作会社を経て、フリーランスに転身。それを機に、フリーライターとしての活動を始め、現在も映像ディレクターとwebライターの二刀流でNPBや独立リーグの取材を行っている。

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