【オフィシャルレポート】明日を生きるエネルギーの発電所『Grasshopper vol.22』からあげ弁当×ジ・エンプティ×Atomic Skipperが切磋琢磨

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2022年に本格始動した、チケットぴあが若手バンドを応援するライブハウス企画『Grasshopper supported by チケットぴあ』。早くもvol.22となった2024年3月3日(日)の渋谷Spotify O-nestには、滋賀からからあげ弁当、福岡からジ・エンプティ、そして静岡からAtomic Skipperが集まり、全力で生きる人を勇気づける一日を作った。

からあげ弁当

まずは滋賀から、一度聞いたら名前を忘れない3ピースロックバンド・からあげ弁当が映画『トイストーリー』でお馴染みの「君はともだち」に合わせて登場した。昨年8月に関西で開催された『Grasshopper WEST vol.1』にも出演した時は、思うようなライブができなかったという彼ら。今回は地域を超えてのリベンジマッチだ。2022年は10本のライブをこなしたと思ったら2023年は36本と活動ペースを上げ、活動開始3年目となる今年は既に大型フェス『VIVA LA ROCK 2024』への出演も決まっている。期待の新人を応援するイベントのトップバッターにぴったりだ。

ライブアンセム「チキン野郎」から始まり、続けて昨年リリースした1stフルアルバム『I am hungry』から「バカ野郎」と続く。助走はなく、最初から全速力の演奏に引き込まれる。続いて焼きそば(Vo / Gt)のしっとりとしたアカペラで始まったのは「ベルロード」。疾走感の中にも繊細さが垣間見えるこーたろーのドラムフレーズに反応するファンも見えた。楽曲を聴き込んでいるに違いない。このバンドは既に誰かの一番になっているんだ。

バラード「ミサンガ」に続いてフロアを揺らしたのは、からあげ弁当始まりの曲「街を走る」。サビで「行けるか!」と焼きそばが煽ると、フロア後方まで手が上がる。そして即興で披露された春貴の唸るベースとドラムのセッションに釘付けになっていると、いつの間にか焼きそばがTシャツを脱いでいた! 腹筋の上にデカデカと書いてるのは「魂」の文字。この日一日にかける本気が伝わった。そのまま「乾杯しよう」で盛り上げる。

「ガーっと人生がよくなるような曲やないかもしれんけど、お尻をグッと持ち上げるような音楽はできる力があると思ってます。今日は3バンド、楽しんで帰ってください!」

MCに続いて披露された「again」の「憧ればかりの僕ももう / 誰かの夢になる」という歌詞は、からあげ弁当が地元・滋賀を飛び越え、これから多くの人に勇気を与える覚悟の表明のように聞こえた。5月26日にも同じSpotify O-nestで自主企画があることを伝えた後で「僕は忘れないよ / 君と歌った日々を / だから約束しよういつかね / またこの場所で」と、歌の中で約束するところが彼ら流だ。そして「時間が余ったから、チキン野郎ー!」とラフに二度目の楽曲を挟んでから、2月にリリースしたばかりの新曲「そんな日々を生きていく」を届ける。最後にこの日3回目の「チキン野郎」を披露して、颯爽と去っていった。

転換中は、チケットぴあの若手社員が選んだBGMが流れる。パーカーズの「中華で満腹」ではフェスのように盛り上がる女子2人組もいたり、フロアは楽しい空気に包まれている。

ジ・エンプティ

さて、次に登場したのは、04 Limited SazabysやWiennersも所属するNo Big Deal Records所属・福岡県久留米市発の4ピースバンド・ジ・エンプティ。SNSで前日に入場規制となった『見放題東京2024』の映像が話題になっていたこともあり、期待は十分だ。

1曲目は「Sunday morning」でしっとりと始まったと思ったら、アウトロでスピードを上げてライブアンセム「テイクミーアウト」に雪崩れ込む。「Atomic Skipperがやりそうなこと、全部やって帰ります!(Vo.ハルモトヒナ)」と敵対心むき出しにステージ前の柵によじ登るが、待て、相手を知らないと真似はできない。ツアーでも共演歴がある彼らの、不器用な愛の裏返しだ。

「からあげ弁当と今日、初対面やけん。ちょっとでも彼らの情報を入れたくて、お昼にからあげ弁当を食べました。そんなんじゃ全然分からんかったけど、ライブ見て、優しいなぁ、どっかでまたすぐ対バンしそうな気がした。大トリ、Atomic Skipper。まじでやりそうなこと全部やろうな。よっしゃ拳上げろ!」

この日にかけた想いの強さを確認するように伝えたら、ショートパンクチューン「神様からの贈物」。そして大切な友達の歌だという「あいつの唄」と続く。夢を追い続ける決心をした自分たちの立場も相まってか、メンバー全員の目に光が射しているように見えた。

MCではこの日渋谷で見たカップルについてシンノスケ(Gt)とケンノスケ(Ba)の漫才のようなやり取りをタイキ(Ds)が見守る場面もあったが、ヒナが仕切り直す。

「Spotify O-nest、初めて出演します。呼んでくれてありがとう! 今日は東京遠征最終日なので、爆発だけしに来ました!」

歌始まりのライブアレンジで始まった「おやすみレイディ」は、THE BLUE HEARTS「キスしてほしい(トゥー・トゥー・トゥー)」を彷彿とさせるロックナンバー。たった30秒ほどで会場の温度を一気に上げたと思ったら、青春が終わる切なさが詰まった「さよなら涙」へ。ギターを持たず、歌に全てを込めるヒナの生き様が歌に表れているようでグッとくる。ベースソロが弾丸のような「バチコイ」で会場の盛り上がりは最高潮に。そのまま2nd single『青春』に収録された「ラブソング」では大合唱が起こる。

「道玄坂に負けないくらい全員でキラキラして帰ろうぜー! 歌いたいやつ、歌ってくれ! 知らないやつは俺に続いて、拳を上げろ!」

そう、何度でも拳を上げさせるのだ。ここまで来たら、初見もファンも関係ない。拳を上げる人、心の拳を握っている人。会場の熱量が一つになった時だけに見える景色だ。そのままアカペラで「今宵はベイビー」を歌うと、そのまっすぐで正直な声に会場の全員が集中する。そして最後は初めて4人で作った歌「空っぽの唄」だった。初期衝動というありきたりな表現をするにはあまりに硬い決意が鳴っていた。the pillowsの「この世の果てまで」に引けを取らないスケール感は、大物だ。「福岡県久留米、from west point! ジ・エンプティでした。ありがとう!」

Atomic Skipper

そしてトリは静岡から昨年メジャーデビューを果たした、若手ロックシーンの憧れの対象・Atomic Skipperが登場! 1曲目「ロックバンドなら」では、ギター・ドラム・ベース、全てがガッチリと集約したパワーで観客を跳ねさせ、実力を見せつける。中野未悠(Vo)の声は会場にいる全員の不安を一挙に吹き飛ばしてくれるようだ。

続いて披露されたのは、1stミニアルバム『思春を越えて』(2020年)から「星降る夜」だった。この選曲がされたとびきりの理由は、ラストサビ中に中野から伝えられた。本イベント『Grasshopper』は、チケットぴあの5年目以下の若手が有志で集まって、若手アーティストを応援するために企画している。そのメンバーの中でも、Atomic Skipperを誘った「佐藤さん」が、学生時代にYouTubeで彼らに出会ったのがこの曲だというのだ。中野が佐藤さんと肩を組みサビの一節を歌うと、演者、裏方、観客の全員の温度が一度上がる。

そのままポップパンクチューン「間に合ってます」、そして逸る会場の手拍子に応えるように「幸福論」まで一気に駆け抜ける。先ほどのジ・エンプティの宣戦布告に応えるように、中野が柵に登って「アトスキっぽいことやってみました! でも予想を越えるからー!」と堂々の余裕を見せ、会場を沸かせた。フロアは飛び跳ねる観客で、冬とは思えない熱気だ。

「Grasshopper(グラスホッパー)って、意味を調べたら、バッタだった(笑)。バッタ?って思ったけど、ちゃんと調べたら、イキのいい新人って意味らしいよ! もうバンドを始めて10年目だから新人かは分かりませんけど、元気にわがままにやって帰ります!!(中野)」

ありのままを肯定してくれる「動物的生活」、そして誰もが口ずさめる「1998」、優しく頑張る人を励ます最新シングル「SONIC」と続く。この曲はキャリアを積んだバンドから、この日対バンした若手2バンド、そしてイベントを企画した若手社員に向けてのエールにも聞こえた。

「みんながこれから若者じゃなくなった時、譲れないものが増えて、ライブハウスを離れることがあるかもしれない。そういう時が来てもいいと思う。それって超素敵なものだと思うからさ。でも、自分がこんなに好きなものを貫いていたんだ、っていう夜があれば、何十年先になったって輝き続けるんだろうなって、思うわけよ。私はそんな夜を、ずっと探してます」

その気持ちを表明するかのように歌われた「ウォールフラワー」は、じっと聴き入る人が目立った。そして「メイビー」を大合唱して本編は終了。中野以外のメンバーはマイクを通して話こそしないものの、音で10年目の本気が届いた。憧れないはずがない。やまない拍手に応え、アンコールで披露した「雑記」では松本和希(Ds / Cho)が上裸でプチダイブをしてメンバーに笑われる、お茶目な一面も見えた。

この日初めてみたバンドに心掴まれた人が多かったのは、終演後の物販が長蛇の列だったことに表れていた。それは音楽に勇気をもらった主催の愛がバンドに伝わり、バンドの心が動き、それが観客に伝わったからだ。帰りがけ、フロアでは「佐藤さん」が来場者に「ありがとうございました」と声をかけながら、最後の一人まで見送っていた。初めてSpotify O-nestに出演したバンドが、初めましてのお客さんの心を動かす、出会いの場だった『Grasshopper』。それぞれのバンドのライブだけではなく、このイベントにまた遊びに行きたい。そう思う日だった。

文:柴田真希 写真:稲垣ルリコ

<次回の公演情報>
『Grasshopper vol.20~Re-jump~』

4月22日(月) 下北沢DaisyBar
出演:まなつ/CULTURES!!!/極東飯店
詳細:https://fan.pia.jp/grasshopper/ticket/detail/28/

イベント公式サイト:https://fan.pia.jp/grasshopper/

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