「ソフトクリームみたいなうどんがある」とのウワサを聞いてやってきたのは、愛知県瀬戸市。ウワサの店「賀登光本店」に足を運ぶと、平日の開店直後にもかかわらず店の外にまで行列が伸びるほどたくさんのお客さんが集まっていました。
そろっていないからこそおいしい手打ちうどん
賀登光本店は創業106年をかぞえる瀬戸でも有数の老舗うどん店。カツオ・サバ・アジの出汁が利いた特製つゆにしっかりと絡む特製の自家製麺が人気の秘訣です。
初代から手打ちにこだわってきた賀登光本店で麺を打つのは、4代目の佐野敬徳さん。「手打ちじゃなければうどん屋はやらない」という先代の父親から教わった言葉を大事に、自らも手打ちに励みます。
手打ちにこだわる賀登光本店のうどんの特徴は「麺の長さがそろっていない」こと。手打ちならではのバラツキのある麺は、味噌煮込みうどんやカレーうどんなどを含めた濃い口仕立てと相性が良く、「そろっていないからこそおいしい」とお客さんからも好評です。
ソフトクリームみたいな「芋うどん」
そんな賀登光本店の人気メニューの1つが「月見うどん」です。メレンゲ状に泡立てた白身の上に黄身をちょこんとのせた珍しいタイプの月見うどんは、綿あめのような食感とふんわりとした味わい。だしのおいしさもしっかりと感じられます。
さらに常連客の1人である佐々木さんが毎回注文するのは「スタミナ味噌煮込み」のニンニクマシマシ! 鷹の爪が入ったピリ辛の味噌煮込みうどんは、辛い中にも口いっぱいにうまみが広がる、パンチあふれる一杯です。
そしてウワサの「ソフトクリームみたいなうどん」の正体は自然薯を使った名物「芋うどん」。麺が見えなくなるほどふわっふわに仕上がった自然薯はとにかくなめらか! この自然薯のすりおろし食感が「まるでソフトクリームのようだ」と話題を呼んでいます。
名物メニューを支えるのは82歳のお母さん
「芋うどん」の提供は自然薯のとれる冬限定! 賀登光本店では「芋うどん」を目当てに来店するお客さんが後をたちません。その味を生み出しているのが82歳になる佐野信子さんです。
「芋うどん」には愛知県産の天然の自然薯を使用。大小様々な形の自然薯を、信子さんが1つずつ丁寧に皮をむきます。おろし金ですりおろすのももちろん手作業。だしを合わせて伸ばす際には、とれた場所による粘りの差を見極めながら調整します。
信子さんによると、黒っぽいアクの部分を適度に合わせることでより自然薯らしい味わいになるとのこと。しかし、アクの部分は簡単には混ざらないため、根気が必要になります。
20分以上かけて無心ですり続けることでようやく生まれるなめらかさ。体のあちこちが痛くなる重労働ですが、機械では出せない風味に仕上がります。
半日以上かけてようやく1日分が完了する自然薯の仕込み。佐野さんがここまで大変な作業を続けられるのは「お客さんが喜んでくれる」からだとか。
「子どもの頃に食べた味を思い出して『お墓参りに来たから』と寄ってきてくれる。そんなお客さんのためにも、自分がいるうちは続けたい」と今日も芋をすり続けています。