「自分の好きな服を着れる社会に」ムスリム女性が語る、ファッション業界で感じた“違和感”とは

イギリス出身のファッションデザイナー、サイーダ・ハックさん。一部のムスリム女性が全身に羽織る長衣「アバヤ」を販売するブランドを立ち上げ、話題を呼んでいます。

近年ファッション業界で、肌やボディラインの露出を控えた「モデストファッション」が流行しています。

イスラムの教えに従いつつ、自分好みのファッションを楽しもうというムスリム女性が、このトレンドを支えています。

リサーチ会社「DinarStandard 」によると、2027年までにモデストファッションの市場規模は、全世界で4280億ドル(約64兆円)に拡大すると推定されています。

BuzzFeedは、現代のモデストファッション業界をけん引するサイーダさんに話を聞きました🎤

サイーダさんの転機は2017年、ロンドン・モデストファッションウィークに携わったときだそう。

Anadolu / Getty Images

一般企業を退職後、ファッション業界に飛び込んだサイーダさんは、同ファッションウィークでインターンシップを行っていました。

その際サイーダさんは、周りのデザイナーと比べ、自身が「保守的」なファッションをしていると感じたそうです。当時の思いを、サイーダさんは次のように語っています。

「皮肉なものです。クリエイティブな装いを披露する場なのに、自分の装いのせいで、場違いだと感じるなんて」

この経験からサイーダさんは、ムスリムとしてのモデストファッションと、西洋由来のファッション文化の融合を目指し、自身の名前を冠したファッションブランドを立ち上げる決意をしました。

サイーダさんは、25万人近いフォロワーを抱えるTikTokで、自身がデザインした商品を宣伝しています。

ブランドの特徴は、「大胆なモデスト(控え目さ)」と話すサイーダさん。ムスリムの伝統的な装いと、ロンドンのストリートファッションやヒップホップ文化を組み合わせたデザインを提案しています。

目玉商品は、パーカーのようなデザインのアバヤ。そのほかにも、さまざまな色やデザインのアバヤを、TikTok動画 で紹介しています。

プライベートでも、パーカーやトレーナーをよく着用するというサイーダさんは、パーカー風アバヤについて、次のように述べました。

「今まで生きてきて、ずっと欲しかったけれど、どこにも見つけられなかったものです」

GRAZIA の取材では、フェミニンなデザインではなく、自らも大好きな、ストリート風のデザイン展開が、自身のブランドの特徴だと語っています。

Saeedah Haque / Via saeedahhaque.com

ファッションは、単に「装うこと」以上の意味をもつ、とサイーダさんは話します。

「衣服には、単なる『装い』を超えた意味があります。衣服は、私のアイデンティティを表現するものでもあるのです」

サイーダさんにとってファッションとは、自己表現をしたり、自分のアイデンティティや政治的主張を示す手段。特に女性にとっては、主体性を獲得する手段であるといいます。

サイーダさんは昨年、スポーツブランド「Nike」とタッグを組み、期間限定のムスリムファッションコレクション「Nike By You x Saeedah Haque Limited Collection」を販売しました。

Nikeは2017年、一部のムスリム女性が髪を覆うために着用するヒジャブをスポーツ向けにアレンジした「プロヒジャブ 」の販売を開始し、話題になりました。

Nikeの取り組みを知ったサイーダさんや、サイーダさんのSNSフォロワーが、Nikeに連絡を取り、今回のコラボが実現したということです。

TikTok で喜びを共有したサイーダさんは、次のようにつづっています。

「本当に実現しちゃったよ!デザイナーとして、期間限定でNikeと正式に提携することになった。みんなに、この報告ができていることが夢みたい」

「私がずっと携わってきたモデストファッションの分野で、Nikeにとっても初めてのアバヤがそろそろ販売される」

「夢がかなった。これは、ムスリムコミュニティがずっと必要としてきたこと。今回のコラボをきっかけに、スポーツの分野で、もっとムスリムファッションが見られるようになるのを願っている」

ムスリム女性が身体や髪を隠すアバヤやヒジャブなどは、しばしば「女性の抑圧の象徴」という見方をされます。

Arterra / Universal Images Group via Getty Images

フランスでは、2023年に公立学校での生徒のアバヤ着用が禁止 され、今年のパリオリンピックでも、同国代表選手の大会中のヒジャブ着用が 禁止 される予定です。

一方、ムスリム女性 のアバヤやヒジャブ着用は、彼女たち自身の 主体的な選択 の結果だと考える人たちもいます。

実際、イスラーム圏の多くの国では、ヒジャブ着用は個人の意志によるところも大きいとされています。

また、例えばインドネシアやマレーシアなどでは、近年はカラフルでデザインの施されたヒジャブを着用する女性も増えており、ヒジャーブなどの衣服を通じてファッションを楽しんでいるという実情もあります。

ムスリムのファッションに対する誤解について、サイーダさんは次のように話しました。

Saeedah Haque

「ムスリムが、映画やテレビで十分に表象されていないという話はよくされます。でも、ファッション業界におけるムスリムの表象に関しては、まだ十分に議論されていないと思う」

「ムスリムコミュニティの理解が進んでいるとは言い難い状況にあります。これは重要なことです。政治的な話をすると、ごくごく一般的な女の子や女性が、身につけている衣服が原因で、苦しんでいるんです」

「これには、ファッション業界にも責任があると思います。誰もが、自分の好きな衣服を着用できる社会であるべきです」

この記事は英語 から翻訳・編集しました。翻訳:筒井華子

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