『離婚しない男』タイトル通りの結末に マサトによって“やり直し”の機会を得た渉と綾香

タイトル通りの結末を迎えた『離婚しない男―サレ夫と悪嫁の騙し愛―』(テレビ朝日系)最終話。

最初は、妻・綾香(篠田麻里子)の不倫に気付いていながらも、娘・心寧(磯村アメリ)の親権を取るため、水面下で証拠集めをすべく“あえて”離婚しない選択をとっていた渉(伊藤淳史)が、最終的に離婚届を破り捨てた。

綾香の不倫相手のマサト(小池徹平)によって、結果的に渉と綾香は“夫婦”としてやり直すきっかけを得られたとも言える。

渉から一番大事なものを奪おうと心寧を誘拐し、それを迎えに来た渉によって爆弾が作動するという世紀末のようなおぞましい“絶望のショータイム”を繰り広げようとするマサト。

しかし、実は二重スパイを見事務め切った探偵の裕(佐藤大樹)によって心寧は無事救われ、結果的に岡谷家の絆を深めることになった。心寧を救い出す前に、初めてちゃんと向き合い腹を割って自身の本音をぶつけ合う渉と綾香の姿が印象的だった。本当に大切なものをなくしかけて初めて気づく日常の尊さを噛み締めることで、彼らはまた互いに素直になっていく。

さて、マサトがここまで渉に固執して執着する理由は、まさかの彼の父親・茂(利重剛)にあった。茂はマサトの母親と不倫していたのだ。そのことを知り母親を責め立てたマサトを残して、本当に彼女は自ら命を絶ってしまった。そんな最中、華麗に東京の大学に進学し出版社に入り元アイドルと結婚と着実に人生のステップを進めていく渉のことを恨めしく思うことでしか、その当時のマサトは自分を保つことができなかったのかもしれない。

しかしマサトも途中で薄々気付き始めていたのではないだろうか。自身のこの復讐がお門違いなものであり、やればやるだけせいせいするのではなく、虚しさが募っていくことに。だからこそより過激なことを、過剰なことをやり遂げねば決意や覚悟が揺らいでしまう。刺激を強め、生半可じゃないところまで振り切ることで、簡単に自身の気持ちが揺り戻されてしまわぬように退路を断っていたのかもしれない。

結局、マサトは母親にも渉にも叶うことのない一方通行な片想いをしているかのようだ。渉を痛めつけることしか考えておらず、その他の自身の周りの女性のことをそのための道具としか思っていない。

部下の千里(玉田志織)からマサトへ、“愛の魔法にかかったすべての女性からのプレゼント”という恐ろしい制裁が加えられた。しかし今までの扱いを思うと、妥当と言われても仕方ないのかもしれないとも思える。渉のことしか頭になく、その周囲の女性は自身の意のままに動く道具としてしか見られていない。渉に気づいてほしくて振り向いてほしいマサトと、そんなマサトを独占したくてあれこれ尽くすものの、「使えない」「クズ」「バカ」と言い捨てられる側はたまったもんではないだろう。

刺されて倒れるマサトと彼を迷いなく助け支えて歩く渉は、一気に高校時代の2人に戻ったかのようだ。

「俺たちは……友達だったのかな」
「俺はそう思ってた」
「俺いたんだな、友達……」

こんなことに気付くのに、マサトは随分遠回りしたものだ。

そしてマサトの事情を聞いて素直に謝り、真っ先にもっと早くにそのことを自分が知っていれば、「マサトを闇に落ちる前に救い出せたかもしれない」と言える渉は素敵だ。もっと2人が早くにこうやって話し合える場が持てていれば……と思わずにはいられなかった。

凄腕弁護士・財田(水野美紀)と裕も腹を割って話し合うことができ、親子時間を取り戻していけそうだ。

“おさむ”と名付けられたマサトとの子を出産し、その子育てに追われる綾香の傍には渉の姿があった。第一子の子育て時に、子育ても家事も綾香一人にあまりにも任せすぎたワンオぺ育児の反省を挽回する機会を渉は得られた。マサトによって“生き直し”“やり直し”の機会を与えられた岡谷夫婦のように、マサトもちゃんと自身の人生を生き切る方にシフトできていたら……と思わずにはいられない。

(文=佳香(かこ))

© 株式会社blueprint