篠原涼子「恋しさと せつなさと 心強さと」90年代を席巻した小室プロデュースの巧みな戦略  大好評連載!90年代デビューアーティスト・ヒット曲列伝!今回は篠原涼子の名曲を

連載【90年代デビューアーティスト ヒット曲列伝】vol.14
恋しさと せつなさと 心強さと / 篠原涼子 with t.komuro
作詞:小室哲哉
作曲:小室哲哉
編曲:小室哲哉
発売:1994年7月21日
売上枚数:202.1万枚

1990年〜1999年の10年間にデビューし、ヒットを生み出したアーティストの楽曲を当時の時代背景や、ムーブメントとなった事象を深掘りしながら紹介していく連載の第14弾。今回は、篠原涼子 with t.komuro「恋しさと せつなさと 心強さと」を紹介します。

trf「寒い夜だから…」から着想を得た、イントロ2秒の凄さ

「90年代にリリースした楽曲は、イントロが無かったり、1、2秒ですぐサビが登場する曲が多い理由は、CMなどのタイアップがあったからです。CMなどで流れているところが、曲のアタマですぐに登場する構成にして、すぐにあの曲だ!とわかってもらえるように意識していました」

こちらは、“イントロ” がテーマで、小室哲哉さんの配信番組『TK FRIDAY』にゲスト出演させていただいた時に本人がおっしゃっていた言葉です。

「恋しさと せつなさと 心強さと」のイントロは疾走感のある2秒のシンセドラムからスタートします。このイントロは、「恋しさと せつなさと 心強さと」が主題歌に起用されたアニメ映画『ストリートファイターⅡMOVIE』のスタッフから、“前年にリリースしたtrfの「寒い夜だから…」のような、曲アタマから、歌・メロディ・音が一気に入ってくるような、強いインパクトが残る曲をお願いします” と依頼され、それに答える形で完成。

「寒い夜だから…」のイントロはドラムシンセが1秒だけ響き、そこからすぐに、せつないサビへと展開していく曲ですが、イントロという切り口から観ても、「恋しさと せつなさと 心強さと」は、90年代を席巻した小室プロデュースの巧みな戦略がバッチリとハマった1曲だったのです。

CDジャケット、ミュージックビデオを使って販路を広げ、ダブルミリオン

小室哲哉の手腕は、この曲の販売戦略でも、才能を発揮します。中谷彰宏との共著『プロデューサーは次を作る』の第7章 "付加価値の仕事に市場は反応する" の中で、小室哲哉は、このように記しています。

短冊形の8センチシングルとしてリリースした「恋しさと せつなさと 心強さと」のCDジャケットを、表は篠原涼子の顔が大きく映る写真を使用し、裏は、アニメ映画『ストリートファイターⅡMOVIE』のキャラクターが描かれた絵柄を採用しました。このアートワークで、それまでのJ-POPで主流では無かった、CDショップのアニメコーナーや、アニメ・ゲームグッズ専門店に、裏ジャケを表にして陳列してもらうことに成功しました。

さらにミュージックビデオを、カラオケを歌っている時の映像で流してもらえるようにレコード会社に掛け合い、若いCD購買層にとってカラオケは「選曲する場」なので、ここで流すことは大きなプロモーションに繋がる、ここだけは譲れませんと、肖像権管理が厳しいレコード会社を説得しました。

販路を広げる戦略で、この曲は202万枚のダブルミリオンヒットを記録したのです。

篠原涼子に魔法をかけた、心強い一言

レコーディングでこの曲をはじめて聴いた時、篠原涼子は、キーが高くて歌えないと思ったそうです。その思いを率直な意見として伝えたところ、小室哲哉は、こう話しました。

「僕は、涼子ちゃんが大人になっても歌える曲を作った。君の声の響きは、この曲に合っている。キーも大丈夫、絶対に出るから」

その言葉を信じ、歌入れに入ると、無理だと思っていたキーで自然と声を出すことができ、曲が完成。篠原涼子は、その時のやり取りを、魔法にかけられたようだったと話します。

そしてリリースから28年後の2022年、篠原涼子は、『第73回NHK紅白歌合戦』で、タイトルに「2023〜」と入った、今のサウンドアレンジへと進化した「恋しさと せつなさと 心強さと」を披露。小室哲哉が伝えた、大人になっても歌える曲を有言実行したのです。

“あなたを信じてる” というフレーズが多くの人に届き、愛され続けるこの曲の波動は、唯一無二。プロデューサーとしての手腕はもちろん、クオリティの高い楽曲にも、もっと注目が集まってほしいナンバーです。久しぶりに、カラオケに行きたくなってきた!

カタリベ: 藤田太郎

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