邦題インパクト大賞『ブルドーザー少女』はどんな映画?ブチギレ不良ギャルを襲うトラブルは大人への通過儀礼か腐敗社会の洗礼か

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格差社会にブチギレ暴走『ブルドーザー少女』

言うまでもなく絶好調の韓国映画界ですが、『呪呪呪/死者をあやつるもの』や『高速道路家族』と並んで2023年の「邦題インパクト大賞」を授与したいのが、タトゥー少女のブチギレ暴走ぶりを描いた『ブルドーザー少女』(2022年)です。

レンタルビデオ店で見かけたら思わず手にとってしまいそうなタイトルですが、原題の直訳も「ブルドーザーに乗った少女」という、じつはまんまなタイトル。もちろん少女がブルドーザーでエイリアンと戦う……みたいなお話ではなく、社会派バイオレント・ヒューマンドラマとでも言うべき熱い作品です。

左腕に龍のタトゥーを彫っているヘヨンはカッとなるとすぐに手が出るタイプながら、正義感の強い健康優良不良少女。彼女は母亡き後、ギャンブル中毒の父の代わりに幼い弟の面倒をみています。

そんなある日、父が盗んだ車で事故を起こし、意識不明の重体に。さらに被害者から巨額の和解金を突きつけられ、住まいまで奪われてしまったヘヨンたち。しかし、その事故の裏には信じがたい事実が隠されていて……。

SUPER JUNIORイェソンも登場!キム・ヘユンの熱演に拍手

主人公ヘヨンを演じるキム・ヘユンは、最近だと『殺人鬼から逃げる夜』(2021年)にも出演していたので雰囲気は全く違いますが、そのナチュラルなメンチ切りフェイスに見覚えのある方も多いでしょう。本作はそんなキム・ヘユンの一挙手一投足、ちょっとした表情ひとつが映画の魅力に直結していて、額に汗を滲ませた熱演に目が釘付けになるはずです。

なおキム・ヘユンは本作で、韓国2大映画祭のひとつ青龍映画賞で新人賞を受賞。怒りと悔しさに涙をにじませながら「クソッタレが……!」と吐き捨てる姿が本当に素晴らしく、そのリアルかつ瑞々しい演技が胸を打つこと間違いなし。また、SUPER JUNIORのイェソンも出演していますが、あまり本筋に絡んでこないポジションなのでお見逃しなきよう。

弱者に突きつけられる容赦ない拳、詐欺、性差別

喧嘩っ早いうえにことごとく詰めの甘いヘヨンや穀ツブし一歩手前の父親、法の介入のちぐはぐさなど、イマイチ感情移入しづらい要素があるのは事実。でも、もし主人公がタトゥーの入っていない勤勉な大学生だったら? もし父親がギャンブルとは縁のない真面目な会社員だったら? そういったストレスを感じることなく、素直に肩入れして観ていたかも……。

本作が長編デビュー作となる新鋭パク・イウン監督が観客に突きつけるのはそういった、ヘヨンたちが曝されるのと同じような偏見や先入観。さっそうと現れてパパッと金銭的に助けてくれるような人は登場しませんし、ほっこりした結末も用意されていません。それどころかヘヨンにタトゥーを隠させ、あからさまな性差別やフィジカルな暴力をぶつけ、現実社会の不条理でもってズタボロにします。

ヘヨンの不器用すぎる暴れっぷりは、社会に虐げられた声なき者の叫び。ユンボ特攻“するしかない”状況まで追い詰められた社会的弱者の”最後の爆発”を、ぜひ見届けてください。

『ブルドーザー少女』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「今月の韓国映画」で2024年3月放送

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