【F1チーム代表の現場事情:レッドブル】不適切行為問題に揺れた1カ月。波乱を経て今も立場が不安定なホーナー

 大きな責任を担うF1チーム首脳陣は、さまざまな問題に対処しながら毎レースウイークエンドを過ごしている。チームボスひとりひとりのコメントや行動から、直面している問題や彼のキャラクターを知ることができる。今回は、レッドブルF1チーム代表クリスチャン・ホーナーに焦点を当てた。

────────────────

 2024年シーズン最初の2連戦で最も忙しかったF1チーム代表が誰か、大体想像がつくと思う。レッドブル・レーシングにとって、今シーズンのスタートは平穏なものではなかった。

■明るみに出たホーナーのスキャンダル

 新車発表会の前に、クリスチャン・ホーナーが不適切な行為をしたという疑惑が持ち上がり、レッドブル本社が調査を行っていることが明らかになった。そんななかでもホーナーは通常どおり、新車発表とプレシーズンテストに出席していたため、注目の的になった。

 ホーナー自身は一貫して無罪を主張し、代表としてすべてのレースに出席すると断言。そして開幕戦の前の水曜日に、レッドブル本社はホーナーの行為についての告発を却下すると発表した。

 ホーナーは、これでようやくこの騒動に終止符が打たれると思ったかもしれないが、それは大きな間違いだった。

2024年F1第1戦バーレーンGP クリスチャン・ホーナー(レッドブルF1チーム代表)

 レッドブルがこの一件についての詳細を明かさなかったことで、透明性を求める声が上がった。さらにその後、匿名の人物から、ホーナーの行動についての証拠とされるファイルを示す電子メールが、F1 CEOステファノ・ドメニカリ、FIA会長モハメド・ビン・スライエムなどF1界の上層部やチーム代表、メディアに送られるという、大事件へと事態は展開した。

 その電子メールのリンク先に公開されていた画像等が、正当な証拠であるという確認はなされなかった。しかしひとつ確かなのは、レッドブル社の調査に満足しておらず、ホーナーにプレッシャーをかけようとした人物がいるということだ。

■チーム内の権力闘争

 しかしホーナーには多くのサポートがあった。妻のジェリが開幕戦のバーレーンに姿を見せたことを、ホーナーは派手にアピール。手をつないでパドックを歩き、私生活は順調であると強調した。さらに、レッドブル社の株主であるタイの事業家チャルーム・ユーウィッタヤーが決勝前にホーナーとともに、マックス・フェルスタッペンのマシンの前で記念撮影をするシーンも見られた。このことから分かるのは、より影響力が強い側の株主がホーナーを今も支持しているということだった。

2024年F1バーレーンGP クリスチャン・ホーナー(レッドブルF1代表)と妻のジェリさん
2024年F1バーレーンGP クリスチャン・ホーナー(レッドブルF1代表)、レッドブル社株主チャルーム・ユーウィッタヤー、マックス・フェルスタッペン

 一方、開幕戦の週末に、ホーナーとマックスの父ヨスが口論するところが目撃され、その後、ヨスは、ホーナーを解任する必要がある、そうでなければチームは“爆発する”と発言した。

 ホーナーは、開幕戦と第2戦の間に、何度かミーティングを行い、事態が沈静化されることを願いつつ、サウジアラビアに到着したが、彼の期待は再び挫かれた。まず、彼に関する告発を行った従業員が、レッドブルから停職処分を受けたことが公になった。その後、モータースポーツコンサルタントのヘルムート・マルコが離脱する可能性が取り沙汰された。

 マルコは、テレビに出演した際に、自分がメディアへの情報漏洩の疑いで調査の対象になっており、停職処分を受けるか、自ら辞任を選択する可能性があると発言した。レッドブル内部の大きな権力闘争の一端が明るみに出た形だ。

 マックス・フェルスタッペンは、それまではホーナーやレッドブルの状況について話す際に、非常に慎重に言葉を選んでいた。しかしマルコが離脱する可能性について尋ねられた時、フェルスタッペンはマルコを強く擁護し、自分の将来はマルコの将来とリンクしていることを明確にした。これはフェルスタッペンからレッドブル社への強いメッセージだった。ホーナーのポジションが危うくなった時とは異なり、マルコが去るなら自分も去る可能性があると、フェルスタッペンは述べたのだ。

 結局、サウジアラビアGP決勝日の朝に、レッドブル社幹部のオリバー・ミンツラフと会談した結果、マルコが去る可能性はなくなった。それはホーナーにとっては安堵できるような展開ではなかった。

■問題は長期化か

 決勝後、ホーナーは、ふたつのメッセージを発した。ひとつはフェルスタッペンについての発言で、チームより重要な個人は存在しないと述べることで、自身の権威を示そうとした。もうひとつは、マルコとは今後も協力し続けるとして、ふたりの関係には問題はないと強調するものだった。

 レッドブル・レーシングは最初の2戦でワンツーを達成し、タイトル連覇に向けて順調なスタートを切った。しかしそのチームリーダーの立場は安泰であるとは言い難い状況だ。

2024年F1第2戦サウジアラビアGP レッドブルのマックス・フェルスタッペン、ヘルムート・マルコ、クリスチャン・ホーナー

投稿 【F1チーム代表の現場事情:レッドブル】不適切行為問題に揺れた1カ月。波乱を経て今も立場が不安定なホーナーautosport web に最初に表示されました。

© 株式会社三栄