ひと休み ひと休み(3月17日)

 京都・大阪・奈良の三府県にまたがる京阪奈丘陵に位置する関西文化学術研究都市。茨城県の筑波研究学園都市と同じく政府により国家プロジェクトとして整備され、文化・学術・研究・産業の拠点が形成されている。脳の機能の解明やロボットの開発などで有名な国際電気通信基礎技術研究所(ATR)など多くの研究、教育機関があり、私は仕事で何度か訪れている。実はこの地で2月に研究機関ではないが足を運んだ場所がある。酬恩庵一休寺。いわゆる一休寺である。

 とんち話やアニメで知られる実在の人物である一休さん、一休禅師が63歳の時に復興させた寺とのこと。最寄りの京田辺駅から徒歩20分ほどの大きなお寺である。境内には重要文化財である本堂や仏事を行う方丈、庭園、鐘楼など以外にも浴室や東司(禅寺のトイレ)も残されており、当時の生活の様子の一端をうかがい知ることができる。東司には「オンシュリマリママリ…」との言葉が書いてあったので何かと思って調べてみたら不浄除[よ]けに寺院のトイレに祀[まつ]られている烏[う]枢[す]沙[さ]摩[ま]明[みょう]王[おう]の真言、私が初めてみる言葉だった。一休さんのとんち話の中でも有名な「虎の屏[びょう]風[ぶ]」の屏風や「このはしわたるべからず」の橋も近年作られたものであるが面白く見ることができる。一休さんの墓所もある。一休禅師は88歳でこの地で他界されたが、後小松天皇の皇子なのでこの一画は宮内庁がご陵墓として管理しているとのことである。

 お寺では一休寺納豆という一休さんが室町時代に唐から持ち帰り作り始めたと言われている発酵食品を買うことができる。納豆菌で発酵させている糸を引く納豆や、甘納豆とは全く趣が異なる。蒸した大豆にこうじ菌などを混ぜて発酵させていて、もろみや八丁味[み]噌[そ]のような濃厚で塩辛い味わいだ。お茶うけ、お酒のつまみによく合う。静岡や京都でお寺の名前を付けた納豆として販売されているとのこと。

 京都市内の大徳寺。一休さんゆかりのお寺といえば大徳寺を思い浮かべる方が多いと思う。門前の店には私の好きな大徳寺納豆が並んでいる。いくつかの商品があるが味はかなり異なる。一休禅師74歳の時に応仁の乱がはじまり、大徳寺は炎上したが、81歳のときに住持としてその再建を託されたという。一休寺には、ここから京都市内北部の大徳寺まで通う際に使われた椅子に長柄を2本取り付けた輿[こし]が展示されている。地図で見ると約30キロメートル。室町時代には通うだけでも大変なことだっただろう。

 一休寺にはこんな言葉が掲げられている。「有[う]漏[ろ]路[じ]より無[む]漏[ろ]路[じ]へ帰る一休み雨ふらばふれ風ふかば吹け」。一休さんの名前の由来といわれており、アニメにも登場した時代を超える人生訓だ。こじつけのようだが、雨が降ろうが風が吹こうが気にしないでひと休み、というのは研究や創造的な仕事にも必要と私は考える。

(中岩勝 産業技術総合研究所 名誉リサーチャー)

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