人生の終盤にこんな予想外のことが起こるとは…60歳で住宅ローンを組み、75歳で完済「幸せな70代夫婦」に降りかかった“まさかの災難”

(※写真はイメージです/PIXTA)

セキュリティの高さや自力でのメンテナンスが不要といった利便性から、終の棲家として分譲マンションを選ぶ人は少なくありません。しかし、当然ですがメリットがあればデメリットも存在します。『60歳からのマンション学』(講談社)より、60歳で住宅ローンを組み、新築マンションを終の棲家に決めた70代夫婦の事例をみていきましょう。著者の日下部理絵氏が解説します。

60歳でローンを組み、75歳で完済…順調に「終の棲家」を手に入れたが

【事例:終の棲家として買ったはずの住居で思わぬトラブル】

・物件概要…2LDK 54.87m/8階建て6階/築15年38戸/最寄り駅 徒歩4分

・資金概要…住宅ローン完済済み

・家族構成…夫75歳、妻72歳の2人暮らし

60歳で「住宅ローン」が組めたワケ

小林幸太さん(仮名)は、妻の弘子さんと都内のマンションで暮らしている。約15年前の60歳の時、老後に備えて新築マンションに買い替えをした。費用は以前住んでいたマンションを売却した資金と退職金の一部を頭金にあてて、残りは住宅ローンを組んだ。

その住宅ローンを組むのが、一苦労だった。いまでこそ完済時年齢80歳未満、なかには完済時年齢85歳未満の金融機関もあるが、当時は70歳が一般的で金融機関によって75歳がある程度であった。

なんとか完済時年齢75歳の金融機関でローンを組み、ようやく半年前に完済することができたが、いま思えば60歳から15年間の固定金利、75歳で完済、という無謀なローンをよく組んだものだなと、幸太さんは自分でも改めて思う。

60歳でも借りることができたのは、旧マンションの売却資金と退職金など、新居の購入価格の約半分を頭金として入れることができたこと、マンションが新築だったため物件価値が高かったことが良かったようだ。もし新居が旧耐震基準のマンションなら審査は難しかっただろうと金融機関の担当者が言っていた。

その銀行の支店とは、現役時代は給料の振り込み、いまは年金の振り込み、公共料金の引き落としと、常日頃から取引があったのも功を奏したようだ。

金融機関の中には年齢を伝えただけで、話をあまり聞いてくれず門前払いに近い店舗もあった。常日頃から付き合いがある金融機関をつくっておくというのは大切だなと幸太さんは痛感したものだ。

また運が良かったのは、団体信用生命保険(団信)にスムーズに加入できたことだ。幸太さんが借り入れた金融機関では、団信の加入時年齢は65歳未満(満65歳の誕生日の前日まで)が対象だった。金融機関によって65歳以下、70歳未満など年齢制限が違うという。

ただし、3大疾病保障特約などについては、年齢制限に引っかかり加入することができなかった。特約は、加入時年齢50歳以下、50歳未満、51歳未満などが多いという。

そんな住宅ローンも半年ほど前、無事に完済することができた。幸いにも1度も返済を滞らせず、2人とも大きな病気やケガなどもなく元気である。

最後の住宅ローンが引き落とされたあと、金融機関から抵当権抹消に必要な書類が送られてきた時は、ようやく終わったのかとホッとしたのを覚えている。抵当権抹消登記の手続きは、司法書士に依頼してもいいし自分でも行えるので、幸太さん自身で法務局に申請することにした。旧マンションも自分で申請したので、約15年ぶりの手続きだった。

抵当権が外れるとようやく自分のものになったと清々しい気持ちだ。自分で申請して浮いた費用で、ささやかながら2人で返済祝いの美味しい食事をした。

ミドル・シニアの住宅ローンは、「1年の差」の影響が大きい

改めて思うのは、60歳前後で新規に住宅ローンを組む時は、組むのが1年遅くなることが、とても影響するということだ。

たとえば、幸太さんの場合も50歳で借り70歳完済であれば、団信の特約にも加入でき、もっと金利も優遇され、審査もスムーズだったのかもしれない。何より借りられる金融機関がいろいろ選べたであろう。

強烈な足音、激しい叫び声…「上階からの騒音」に悩まされる

住宅ローンも完済しホッとしたのもつかの間、4ヵ月ほど前から上階のひどすぎる騒音に悩まされるようになった。強烈な足音、何か物を床に投げつけるような音、激しい叫び声……。しかも昼夜問わずである。ここまでの騒音はいままであったことがない。

どうも上階の住民は、今年になってから引っ越してきた家族のようだ。

さすがにほぼ毎日となると耐えきれず、幸太さんが管理員に相談したところ、他の住戸からも同様の苦情や相談があるという。その際に心配した近隣住民が通報し、警察がきていたという話も聞いた。

貼り紙で一時止むも、しばらくすると復活…「いたちごっこ」で心身不調に

その後、理事会でも話し合いがされ、騒音の注意文の掲示と、全戸配布してくれることになった。すると、しばらくはマシになった。

ところが、またしばらくすると、うるさくなった。再度管理員に相談にいくと、何時頃どんな音がするか、より詳しく教えて欲しいと聞かれ説明をした。

その後、より具体的な騒音内容が書かれた注意文の全戸配布と掲示を、再度してくれた。前回は掲示板のみだったが、今回は掲示板とエレベーター内にも掲示してくれた。功を奏したようでしばらくは静かになった。しかしまた最近、騒音が続いている。

神経質になり過ぎかもしれないが、騒音が気になり眠れないことがある。最近ではちょっとした物音すら気になり生活に支障をきたしている。本当は嫌だったが、勇気を出してメンタルクリニックに通院している。いまのところ軽度で心配はいらないようだが、このいたちごっこのような生活が続くとなると今後の生活が思いやられる。

このままではいけないと思い、行政が主催するマンション管理相談や無料法律相談で相談したところ、騒音は人によって音の感じ方が違うことがあるから、騒音測定器を用いて、数値を記録すると良いこと、測定器は幸太さんの住む市区町村では無料で貸してくれること、数値によっては裁判などで慰謝料が支払われていることもあると知った。

ただし慰謝料は、払われても少額だという。弁護士費用や手間暇などを考えると……騒音トラブルは解決が難しく最終的にどちらかが出て行くことで解決するケースも多いそうだ。

防音仕様にリフォームするには500万円以上かかる可能性も

さらに、防音室にするなど技術的に解決するという方法もあるという。防音室は、ピアノ演奏など外に音を漏らさないだけでなく、中にいる人にも効果があるそうだ。完全に防音室を設けるほかにも、壁や床の仕様を変えるという方法もあるという。

たとえば、壁の中に吸音材と遮音シートを入れたり、床材を張り替えたり、床材の下にマット素材を敷いたりといった具合だ。その他にも換気口や窓ガラスを防音仕様に取り替えるといった方法もある。ただし、全室を防音室に工事する場合、仕様にもよるが500万円以上かかることもあるという。

ようやく終の棲家として住宅ローンを返済し終えたばかりだが、そんなにお金がかかるならいっそのこと買い替えや賃貸などへ引っ越ししたほうがいいのかと悩む幸太さんと弘子さんであった。

買い替え?リフォーム?専門家に勧められた「2つの住宅ローン」

リフォームするにしろ、買い替えるにしろ、まとまったお金が必要だ。近所の不動産屋や先日までお世話になっていた金融機関にも相談したところ、リフォームローンだけなら、自宅マンションに抵当権をつけない「無担保ローン」があるという。借入額は上限があり期限は短い、住宅ローンと比べると金利が高いのが特徴だそうだ。

ただし、申込時の年齢制限と完済時の年齢制限があり、相談した金融機関では幸太さんの年齢では申し込みの年齢制限70歳未満に引っかかり難しいそうだ。しかし金融機関のなかには80歳以下を完済時の年齢制限に設定しているところもあるので、あきらめずいろいろな金融機関で相談して欲しいとアドバイスをもらった。

もし買い替えるなら「リバースモーゲージ型住宅ローン」をおすすめされた。簡単にいうと60歳以上を対象に「自宅の資産価値を活かして資金を借りるサービス」だそうだ。住宅金融支援機構により提供されている「リ・バース60」が有名らしい。

リ・バース60は高齢になってからの住まいの問題を解決するためのローンで、借り入れた資金の使い道は住まいに関するものに限定されている。

なお、リバースモーゲージは、自宅マンションを担保に資金を借り入れし、生きているうちは利息のみを返済する。元金は亡くなった後に、担保不動産を売却して返済するか、相続人が返済する仕組み。余裕があれば元金の繰り上げ返済も認められている。この仕組みをベースにアレンジされたのが、リバースモーゲージ型住宅ローンだという。

また、「リースバック」というものもあるという。リースバックは、所有している自宅マンションを運営会社に売却して、売却後も自宅マンションに賃貸住宅として住める仕組みだという。以前借りた時とは、随分と変わり、さまざまな選択肢が増えたものだと幸太さんは感心した。

騒音が止むのが1番だが…「予想外の事態」に溜息

他力本願ではあるが騒音宅の引っ越しや静かになることを願いつつも、警察に相談や裁判したほうがいいのか、荒立てずに防音室や防音仕様にリフォームしたほうがいいのか。

思い切って自宅マンションを売却するか。いつか戻ってくることを前提に一旦賃貸に住み替えるか、一般的な賃貸が借りられない場合は、URやJKK東京なども視野に入れるのか。

売却だけでなく他のマンションに買い替えるなら、リバースモーゲージ型住宅ローンを活用するか。その場合、相続人が不足分の返済義務がある「リコース型」か、返済不要な「ノンリコース型」か。どの金融機関で借りるのか。考えれば考えるほど、悩みが尽きない。

正直なところ住宅ローンさえ完済すれば、老後は万全だと思っていた。毎月の返済がない分、趣味や旅行にもお金を回せるとも話していたし、住み慣れたわが家で夫婦穏やかに人生の最後を過ごせればとも思っていた。人生の終盤にこんな予想外のことが起こるとは……。

幸い地価が高騰しており、いま売れば買った時よりも高く売れるという。また60歳から借りた住宅ローンが完済済みというタイミングなのは、まだまだ私たち夫婦は運が良かったのかもしれないと、溜息をつく幸太さんだった……。

日下部 理絵
マンショントレンド評論家
オフィス・日下部 代表

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