都心部を中心に、どんどん増えているタワーマンション、通称「タワマン」。一般的に、不動産の購入動機といえば、
「アクセス便利な場所に住みたい」
「景色のいいところに住みたい」
「周りをあっと言わせるようなステータスを感じたい」
など、購入動機はさまざまです。ただ、他の不動産の購入動機としてあまり見られない、タワマン独特の購入動機があります。それは「タワマン節税効果」です。タワマン購入によって相続税を軽減できるため、相続税対策を行う富裕層を中心にそのスキームが広がり、特にタワマンの高層階が、節税目的で買われていったのです。
しかし、2024年1月をもって、その「タワマン節税」が終了しました。これによって、タワマン所有者や、節税目的でタワマンの購入検討者にとって、大きな影響が及ぶこととなりました。
今回は、このタワマン節税はどんな仕組みだったのか、今後考えられる節税策はあるのかを考えていきたいと思います。
タワマン節税とは
タワーマンション節税(タワマン節税)は、ローンを組んで高額なタワマンを購入して、相続税を節税する方法です。なぜ、これによって節税ができるかというと、このあと詳説する「相続税評価額」が、不動産の市場価格(≒実際に”売れるであろう”価格)よりも低く見積もられることが多いためです。
そもそも相続税は、故人の財産を相続した際に、その財産額に対して一定の倍率をかけて計算されます。そして、相続財産が多いほど税率が高くなるため、特に富裕層ほど、高額な(高税率な)税金を納める必要が生じます。
このとき、1億円の現金は”1億円の財産”として取り扱われますが、不動産の場合は、所定の計算で算出された相続税評価額で取り扱われるため、例えば1億円で購入したタワマンの相続税評価額が7,000万円であれば、”7,000万円の財産”として取り扱われることになり、現金1億円を相続するよりも、納める相続税を大きく減らすことができます。
そして、このタワマンが相続した後にも引き続き1億円で売れる状態だとすれば、実際の財産価値は1億円であるため、結果的に「相続税を節税して、1億円相当の財産を(不動産という形で)相続する」することができるのです(注)。
タワマンは、低層階よりも高層階ほど、実際の財産価値は高くなる傾向にあります。一方でマンション1つにつき、相続税評価額は低層階、高層階による差はあまり生じません。そのため、高層階ほど「高い財産を、安い税金で相続できる」可能性があったのです。
※注:上記例は、節税スキームを分かりやすくするために議論を単純化していますが、実際には、相続登記費用や相続後に売却する際の譲渡所得税など、現金を相続する場合とは異なる出費を伴う可能性があるほか、景気変動や経年劣化によるタワマン市場価格の目減りリスクもあるため、相続税の節税効果だけで判断することは危険です。
タワマン節税スキームが封印!?
こういった節税目的によるタワマン購入が過熱したことを国税庁が問題視し(参考1)、令和6年(2024年)1月1日以降の相続・贈与から、相続税評価額の見直しがされることになりました。
具体的な計算方法は、この記事では割愛しますが(詳しくお知りになりたい方は、下記「参考2」をご参照ください)、端的にいえば「今までの相続税評価額と市場価格の金額差が大きい場合には、補正して市場価格に近づける」計算が必要となったのです。
これによって、これまで期待していたほどの節税効果を得られなくなる可能性が高くなったうえ、それでも購入する場合は、購入検討対象物件の相続税評価額がどうなるか、事前に綿密なシミュレーションが必要になるなど、事実上このスキームの恩恵にあやかることは難しくなりました。
##「タワマン節税」以外の対策はある?
タワマン節税の事実上”封印”により、有力な節税対策の一つが絶たれた今、その他に考えられる節税スキームはあるでしょうか。
結論からいえば、現在これに代わる新制度や緩和策が設けられたことはなく、生命保険や生前贈与、不動産でいえば更地に賃貸アパートを建築するといった、これまでにもよく言われてきた、”王道な選択肢”に限られてしまいます。
尚、タワマン節税のスキームの根本でもある「相続税評価額と市場価格の差」を活用した節税は、タワマンに限らず、不動産全般において年々その目が厳しくなってきています。
平成29年には、この差を目論んで節税しようと不動産を購入し、規則に沿って税申告をしたものの、それが租税回避行為として否認され、多額の納税を強いられることとなった判例もあります(参考3)。
もちろん、多くの不動産において「相続税評価額と市場価格の差」が生じうるため、不動産購入によって、ある程度の節税効果は引き続き期待できることには違いありませんが、タワマンを始めとした過剰な節税は、目をつけられ、その節税対策が否認されるリスクがあるという点は、注視しておくべき必要がありそうです。
(参考1)
国税庁「マンションの相続税評価と市場価格の乖離の実態について」
(参考2)
国税庁「居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)」
(参考3)
国税不服審判所「平成29年5月23日裁決」