FANTASTICSが担うポップスの伝統と革新 八木勇征&中島颯太の俳優業に滲む“次世代の色”

黒から白へのグラデーション変化

EXILE的なものとはなんだろう? この間、FANTASTICSのパフォーマー 木村慧人主演(M!LK 山中柔太朗とのW主演)のBLドラマ『飴色パラドックス』(MBSほか/2022年)を担当した古厩智之監督とは、LDHアーティストが撮影現場で発する香水のいい匂いについて盛り上がった。LDHの大黒柱であるEXILEを筆頭に、とりあえず“パルファム的アーティスト”と命名できそうだけど、一昔前までは、週5で日サロ通ってますみたいな、あの色黒ゴリゴリな漢像としてのEXILE系のイメージが強いだろうか。でもそりゃいつの話なんだよ。2008年に「Ti Amo」で『第50回日本レコード大賞』を受賞したことを呼び水に、3年連続大賞受賞の快挙を成し遂げ、2009年には天皇陛下御即位20周年を祝う国民祭典で奉祝曲 組曲「太陽の国」をパフォーマンスすることで、そのまま国民的存在になったEXILEの面々は、確かに色黒現役世代という感じだった。あるいは、同祭典から1年も経たず、2010年にデビューした三代目 J SOUL BROTHERSも当時はメンバー7人揃って色黒が印象的だった。

でも今や、EXILE魂を継承しながらも多様なスタイルで新たなグループが続々デビューしているLDH全体を見渡して、当時のような印象を受けるアーティストはほとんどいない。あえて区分するなら、現LDH社長 HIROがEXILEを勇退した2013年以前/以後で語られるべき変化ではないかと思う。

とりわけ、2018年にデビューしたFANTASTICSのイメージは、完全に“白”といっていい。この黒から白へのグラデーション変化は、例えば淀川長治がルキノ・ヴィスコンティ監督作『若者のすべて』(1960年)のアラン・ドロンを見て、「洗いあげられたようにこの映画ではまっしろだった」(※1)と形容したように鮮やかなものに僕には感じられる。事実、これは単なる色の経年変化なんかじゃない。

LDH的なアトリビュートを身につける八木勇征

グラデーション変化を決定的に自覚させたのがFANTASTICSだとするなら、その顔役とも言えるツインボーカルの八木勇征と中島颯太のあのツルッ、プルルンと柔らかな佇まいは、次世代LDHアーティストを象徴するものだろう。

特に八木勇征は、かつてのEXILE的なものを現行のLDH的なものへとアダプトさせたばかりか、LDH的なアトリビュート(持ち物)を身につけることが許された数少ない存在。というのも現在放送されている婚活コメディドラマ『婚活1000本ノック』(フジテレビ系)で八木扮する山田クソ男が基本的に着用しているのが、オールホワイトコーデだから。

トップスに注目。白のタートルネックに白シャツを重ね着。これでピンとくる人がいるのでは? この純白スタイル、実は『チェリまほ THE MOVIE ~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~』(2022年)にて、町田啓太演じる黒沢優一が、安達清(赤楚衛二)の実家を訪問するときの衣装と瓜二つ(というか、同じ?)。第一ボタンまでとめる町田ととめない八木の違いはあるにしろ、LDH俳優としては大先輩である町田の最もアラン・ドロン的と言える『チェリまほ』コーディネートが、八木によって弟分コーデとして受け継がれ、より白さを強調している事実を見逃しちゃいけない。ボーカリストでありながら、ソウルドラマアワードでアジアスター賞を2年連続で受賞した『美しい彼』(MBS・TBSほか/2021年)以来、俳優活動がめざましい八木は、この白基調の上に“演技”という配色を可能としている。

LDH的なアトリビュートを特権的に身につける同作の八木は俳優として一皮むけた感じがある。驚いたのは、『婚活1000本ノック』第6話。婚活相手にあだ名をつけるクセがある主人公・南綾子(福田麻貴/3時のヒロイン)が、山羊好きらしい相手を「ヤギオ」と命名する。なるほど、ヤギか。変換すれば、当然「八木」と響く。明らかに意図的な同音を頼りにドラマを観ていると、綾子が相手とやり取りするLINE通知音として、「ゔわぁぁぁぁぁ」とヤギの鳴き声。直後には八木がちゃんとヤギの声マネをする。こんな自演的な目配せに八木の演技の白眉の出来を見るのは、なんて愉快なことだろうか。同作と、中島颯太出演の『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(フジテレビ系/以下、『おっぱん』)、それから佐藤大樹が出演する『離婚しない男―サレ夫と悪嫁の騙し愛―』(テレビ朝日系)、『瓜を破る~一線を越えた、その先には』(TBS系)で、1月期は同グループから3人のメンバーが4作品に出演していることが、LDHアーティスト史上初(※2)だという事実確認だけではもったいない。白コーデといえば八木勇征であるという具合に、LDH的アトリビュートをどんどん発見しつつ、そこにJr.EXILEによる軽妙な時代変化を遊戯的な史実として僕は書き取っておきたいと思う。

内面から自由な色合いを深めていく中島颯太

FANTASTICSが、LDHのネクストジェネレーション/ネクストステージを牽引するからには、もうひとりのボーカル 中島颯太も負けちゃいない。八木が外面的に白さを象徴するなら、必ずしも白基調コーデを着用するわけではない中島は逆に内面的に深める。深めるといっても、意外や意外、『おっパン』で地上波連ドラ初出演というから、言わば浅染めの演技ながら、でもむしろじわじわ浸透するような、深い味わいの色っぽさを可視化している。それを端的に示してくれたのが、第2話。中島扮するゲイの青年・五十嵐大地の優しげな導きによって、コンプラ無視の旧来型おじさんだった沖田誠(原田泰造)が日々アップデートされていく中、腐女子の娘・沖田萌(大原梓)の二次創作漫画の販売会に代わりに参加するという展開。見たことも、聞いたこともない未知なる世界であたふたする誠に対して、大地が叱咤激励するこのフレーズ。

「これってお祭りですよね。お祭りと言えば、踊る阿呆に見る阿呆じゃないですか。同じ阿呆なら踊らにゃ損ですよ」

爽やかながら、ズシンと響く。誠にも視聴者にもズキュンと刺さりまくり。だって現行世代のさわやか青年の口からまさか阿波踊りのフレーズが激励として飛び出すとは誰が想像できた? 今でこそ、米津玄師の「LOSER」などにも織り込まれているフレーズだけれど、古くは市丸が歌う「三味線ブギウギ」の必殺フレーズ。作曲者の服部良一よろしく、中島が何ともさりげなく口ずさむようなセリフ回しは、ボーカリストだからこそのフレージングだと言えるし、八木に比べまだ演技経験が少ないからこそ、より音楽的で自由な自分色をどんどんトライできる。「損」と「ですよ」の間に「トゥフ」と息を漏らす呼吸感も最高……。そうだ、服部といえば、NHK連続テレビ小説『ブギウギ』のモデルとして話題の笠置シヅ子や淡谷のり子に戦中から数々の国民的ヒットナンバーを提供し、クラシックやジャズの世界から“日本ポップスの父”と称されるまでになった大作曲家だ。同作の中島を通じて、実に豊かなポップスの伝統すら伝わってくる。

虹色に輝くファンタスティックなLDHの未来

FANTASTICSがヒット歌謡のカバーで魅せる舞台『BACK TO THE MEMORIES』で、ツインボーカル“ゆせそた”が、80年代、90年代の色とりどりの歌謡曲をカバーし、ご意見番的に振る舞っていた姿がこれでうなずける。「WON'T BE LONG」(バブルガム・ブラザーズ)から「Choo Choo TRAIN」(ZOO)へ、あるいは「LOVEマシーン」(モーニング娘。)から「LA・LA・LA LOVE SONG」(久保田利伸 with ナオミ・キャンベル)へ。曲間をシームレスに感じさせるボーカルフローは、夢のような時間を観客にもたらし、ジェネレーションを超えた歌謡ステージを実現させた。そもそもこのセリフあり、歌あり、笑いありの大衆性は、モーツァルトが広く一般向けに作曲した「魔笛」など、ジングシュピール(歌芝居)的な伝統に則ったもの。LDH内での伝統を考えれば、EXILE以来となる「Choo Choo TRAIN」を正式にカバーできたのが、何を隠そう、FANTASTICSだけである事実にだってつながる。こうした正統性ある伝統を単に過去の模倣とするのではなく、現行の表現方法としてちゃんとアップデートし、現行マナーとして踏まえているからこそ、音楽フィールドではない演技の世界であっても、中島と八木はそれぞれの持ち味を活かしながら、結果的にはグループ全体にフィードバックして、次なる表現へ還元できる。黒でも白でもない、虹色に輝くファンタスティックなLDHの未来が見える。

※1:『若者のすべて HDニューマスター版』DVD封入解説ブックレット「『若者のすべて』このヴィスコンティ作品」より
※2:https://plus.tver.jp/news/155220/detail/

(文=加賀谷健)

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