【異次元の少子化対策】児童手当が増えても「扶養控除」が減ってしまう!? 扶養控除が廃止された場合、児童手当が増えても「損をする家庭」をシミュレーション

児童手当は、どれだけ増えるの?

現在閣議決定されている「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案」のとおりに法律が改正されると、以下のように制度が変更されます。

__(1)支給期間を中学生までから高校生年代までとする
(2)支給要件のうち所得制限を撤廃する
(3)第2子以降の児童に係る支給額を月額3万円とする
(4)支払月を年3回から隔月(偶数月)の年6回とする__

これにより以下の条件に当てはまる家庭の場合は、年間の児童手当額が増えると予想されます。

1. 高校生年代の子ども(1人目)を扶養している世帯
…子ども1人当たり年間12万円の増額

2. 2人以上の子ども(高校生年代まで)を扶養している世帯
…2人目の子ども1人当たり年間18万円(子どもが3歳未満の場合)~36万円(子どもが高校生年代の場合)の増額。3人目以降の子ども1人当たり年間18万円(子どもが小学生までの場合)~36万円(子どもが高校生年代の場合)の増額

以上のとおり、特に高校生以下の子どもを2人以上扶養している世帯においては、大きな支援の拡充といえるでしょう。

扶養控除が廃止されたら、どれだけ増税になるの?

一方で、児童手当増額の財源を確保するために「扶養控除」が廃止されるともいわれています。現在は以下のとおり扶養控除が設定されており、高校生世代の子どもを扶養している人の所得税・住民税が軽減されています。

__所得税…扶養する子どもが16歳以上19歳未満の場合、1人当たり38万円の控除
住民税…扶養する子どもが16歳以上19歳未満の場合、1人当たり33万円の控除__

もし上記の扶養控除が完全に廃止された場合、16歳以上19歳未満(高校生世代)の子どもを扶養している親世代にとっては、所得によって図表1の通り所得税・住民税の金額が上昇し、負担増となると予想されます。

例えば、課税所得金額が195万円未満・高校生世代の扶養人数1人の場合、所得税は廃止される扶養控除額38万円×所得税率5%=1万9000円が、住民税は廃止される扶養控除額33万円×住民税率10%=3万3000円が、それぞれ増税となり、合計の増税額は5万2000円となります。

図表1

国税庁 No.2260 所得税の税率 総務省 個人住民税より筆者作成

扶養控除の廃止で、児童手当が増えても「損をする」世帯とは?

実際に児童手当が法律案通り増えたとしても、扶養控除が廃止されると差し引きで「損をする」ことになってしまう世帯を考えてみます。

世帯のパターンは子どもの数・年齢により多くの組み合わせが考えられますが、以下のような世帯をモデルケースとしてシミュレーションします。

世帯主(子どもを扶養している人)の課税所得金額…195万円未満~1800万円未満
扶養している高校生世代子どもの数…1人~3人

それぞれのパターンにおいて、増加すると見込まれる児童手当の金額と、所得税・住民税の額を差し引きしたものが図表2です。

図表2

国税庁 No.2260 所得税の税率 総務省 個人住民税より筆者作成

図表2のオレンジ色になっている部分が「差し引きマイナス」になってしまう世帯のパターンです。具体的には「世帯主の課税所得金額が695万円以上で、扶養する高校生世代の子どもが1人の場合」は、増税分を児童手当増額分で相殺しきれず、「損をする」ことになってしまうことになります。

高校生を2名以上扶養している世帯であれば、多くの場合は「損をする」ことはないといえますが、それでも扶養控除の廃止によって所得税・住民税の負担が増えてしまうのは、子育て世代にとっては残念なことです。

まとめ

現在議論が行われている「扶養控除」の廃止が決定すると、「世帯主の課税所得金額が695万円以上で、扶養する高校生世代の子どもが1人」という世帯では、児童手当の増額があったとしても、差し引きで負担増になってしまうことが分かりました。

今後、実際に扶養控除の廃止・縮小が決定するかは不透明ですが、高校生世代を扶養する子育て世代の人は、国会などでの議論の行く先に注目をしていきましょう。

出典

こども家庭庁 児童手当制度のご案内
こども家庭庁 子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律案の概要
国税庁 No.2260 所得税の税率
国税庁 No.1180 扶養控除
総務省 個人住民税

執筆者:山田圭佑
FP2級・AFP、国家資格キャリアコンサルタント

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