「限界集落」2割の青森・下北半島、防災担い手逼迫 高齢化や弱い交通網、能登被災地と共通

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 交通網が弱く高齢者が多いなど、能登半島地震の被災地と共通課題のある下北半島地域の人口について東奥日報が国勢調査の結果を分析したところ、ほぼ全域で高齢化が進み、コミュニティーの維持が難しくなる「限界集落」とされる地域が2割あった。現地では自力避難できない人の支援者を事前に決めておけない例や自主防災組織が高齢化で解散した例も出ており、防災の担い手が逼迫(ひっぱく)しつつある。

 むつ、野辺地、横浜、東北、六ケ所、大間、風間浦、佐井、東通の9市町村を対象に、2020年国勢調査の町丁・字別集計について、住民がいない地域などを除いた307カ所を調べた。65歳以上が人口の21%以上を占める「超高齢社会」に該当する地域は93.5%を占め、65歳以上が50%以上の限界集落とされる地域は20.8%だった。

 高齢者など自力避難が難しい「避難行動要支援者」に対しては、一人一人の避難場所や避難を支援する人などをあらかじめ決めておく「個別避難計画」の策定が市町村の努力義務となっている。国の23年10月の調査では、9市町村のうち横浜、大間、風間浦が「未策定」だったが、16日までの東奥日報の取材にそれぞれ策定作業を進めているとした。

 一方で、要支援者全員分を策定済みとしたのは佐井村のみだった。「一部策定済み」と答えた5市町村に全員分の策定に至っていない理由を取材すると、「支援者を見つけられないケースが出てきている」(六ケ所村)、「要支援者に身寄りがなく支援者が見つからない場合、計画が未完成になっている」(むつ市)との回答があった。職員の人手が足りないとの声も複数の町村で聞かれた。

 「全部策定済み」の割合は青森県が7.5%、全国は8.7%だった。

 災害時に住民の避難誘導などに当たる自主防災組織を巡っては、大間町の全2団体が22年度に解散した。町によると、高齢化で集まることが難しくなったのが理由という。東北町でも理由不詳だが同年度に1団体が解散した。

 国や県の資料によると、自主防災組織が活動範囲とする地域の世帯数でみる「活動カバー率」は23年4月の調査で全国が85.4%なのに対し、下北半島の9市町村平均が58.7%、県平均が55.7%だった。

 能登半島地震では、道路の寸断で災害対応が困難となり集落が孤立するなど、地形的制約のある半島地域の防災の課題が露呈した。下北半島でも21年、豪雨で道路が寸断し集落が一時孤立した。

つながりの強さを形に むつ・銀杏木地区自主防災組織

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自主防災組織の備品を確認する山崎さん=むつ市川内町銀杏木地区

 川内川沿いの県道を上流方面に進んだ先にあるむつ市川内町・銀杏木地区の住民は、2018年に自主防災組織を結成した。もし土砂崩れが起きたら、道路が寸断したら、川が氾濫したら-。周辺にはさまざまなリスクが潜在する。地区会長で自主防災組織代表の山崎幸悦さん(68)は「住民間で災害に対する意識が高まれば」と話す。

 ただ、地区住民は100人に満たず半数が高齢者。共有設備の管理や伝統行事の開催など、多くの活動を少人数で担わなければならず、避難訓練をする機会が確保できない。山崎さん自身がほかにも複数の役職を兼務し「遊びに出かけられない」ほどの忙しさだ。

 それでも「今年は避難訓練をやりたい」と考えている。各地で豪雨災害が頻発し、地区でも何が起きるか分からない。「誰が困っているか、支援が必要かは、みんな分かっている。訓練をすることでコミュニティーの強さを形にして、防災につなげたい」という。

 川内町には高齢化率が高い地区が複数ある。防災士で地域おこし協力隊として活動する山田菜生子さん(21)は23年11月、津波浸水想定や一定時間内に歩いて避難できる距離などを地図上に改めて可視化して、住民同士が話し合いながら防災を考える催しを現地で企画した。当日は危険箇所を確認するだけでなく、街の思い出話にも花が咲いた。山田さんは「普段会わない人たちが集まり、地域の文化を振り返ることができる。防災はまちづくりの入り口になる」と語る。

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分析方法 2020年国勢調査結果のうち、市区町村別より詳細な町丁・字別集計から65歳以上の高齢化率を調べた。半島振興法で対策実施地域に指定されている下北半島のむつ、野辺地、横浜、東北、六ケ所、大間、風間浦、佐井、東通の9市町村を対象とし、一部指定の東北町は全域を集計した。林地や港湾など住民がいない地域や、人口が極めて少なく秘匿処理をされている地域は分析から除いた。

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