NGT48 小越春花、舞台と映画を経て“見つけたいもの” 「お芝居の世界にある気がする」

NGT48 小越春花が、舞台『9階団地のスーパースター』に出演している。

2010年に上演され、第55回岸田國士戯曲賞最終候補に挙がった丸尾丸一郎の戯曲『スーパースター』を、丸尾本人による脚本・演出でセルフリメイクした今回の『9階団地のスーパースター』。取り壊し予定の9階団地の一室を舞台に、主人公・星川輝一(山﨑晶吾)の物語が再び動き始める。

小越が演じるのは、主人公の少年時代のピカイチ。主演の山﨑晶吾をはじめ、今作が約3年ぶりの舞台出演となる佐野岳、本作の脚本・演出を務めブッチャーとしても劇中に登場している丸尾らに囲まれながら、男の子役という普段のアイドルとしての姿とはかけ離れたイメージの役柄を瑞々しく、時に泥臭くエネルギッシュに生きている。

新宿シアタートップスでの東京公演は3月10日に閉幕。3月15日から17日までの3日間からは場所を兵庫県のAI・HALLに移し、再び舞台の幕が上がる。関西は物語の舞台となっている場所だ。

小越は『スーパースター』の稽古に入る前には、『私の卒業』プロジェクトの映画『こころのふた~雪ふるまちで~』を新潟で撮影していた。映像作品から間髪を入れずの舞台作品へ。アイドルとしての活動をほぼ休止してまでも、彼女が見つけたいものとは何なのか。「自分の探したいものがあるのはお芝居の世界」と語る、小越の今の心情を聞いた。(渡辺彰浩)

――この取材は『9階団地のスーパースター』東京公演の休演日に行っていますが、まずはここまで終えていかがですか?

小越春花(以下、小越):今回のお話をいただいた時に不安が99パーセントぐらいあったので、もう自分がこんなに楽しめていることにびっくりですし嬉しいです。

――“演劇の筋肉”みたいなのはついてきていますか?

小越:昔よりは掴めてきてるのかなっていうのはありますね。お芝居で自分の感情をその役に近づけていくのは難しいことだなと思います。それをお客さんが観てどう感じるかの客観と主観のバランスだとか。今回の舞台では生の声をそのまま客席に届けているので。男の子役なのもあって、感情が入りすぎたりすると、声のキーが自然と上がってキンキンしちゃったりもして。意識することがたくさんあって難しいなと思います。

――自分はゲネプロ公演を観させていただきましたが、春花さんが演じているのが星川輝一(ほしかわぴかいち)の幼少期・ピカイチとして主人公役と言っても過言ではない配役ですし、男の子役というのにまず驚きました。

小越:あとは関西弁ですね。私は普段、新潟に住んでいるので関西弁を喋るということに違和感があったんですけど、最近は自然と独り言が関西弁になってきました。道を間違えた時とかに「あ、こっちちゃうわ」って言ってる自分がいるんです。関西弁いいですよね。素敵だなって思います。

――関西弁の指導もあったんですか?

小越:演出の丸尾(丸一郎)さんが関西の方というのもあって、イントネーションを一つひとつ指摘していただいています。英語の授業みたいに(笑)。

――青年期の輝一を演じる主演の山﨑晶吾さんも関西出身ですよね。周りが関西弁というのでプレッシャーみたいなものはありますか?

小越:関西弁が大事なポイントにもなってくるんですけど、「気負わずに」とも言っていただいているんです。もともと関西弁に憧れがあったので、関西弁で喋りたいという気持ちの方が大きかったですね。

――ピカイチという役柄については、パンフレットの中で丸尾さんが、「パッと思い浮かんだのが村長だった」と語っています(※“村長”は、小越のNGT48での愛称)。

小越:劇団鹿殺しさんにお世話になったのは今回で2回目で、前回(『私は怪獣-ネオンキッズ Live beat-』)は初舞台の時だったので、何も分からない状態でした。いろいろと学ばせていただきましたし、またこうして出演させていただけるのは嬉しいです。丸尾さんが熱量を持って教えてくださるのに応えたい、恩返しをしたいという気持ちがありますね。

――『私は怪獣』の経験があったからこそ今に繋がってるところはありますもんね。少年役ということに関しては、どのように役作りをしていきましたか?

小越:とにかくアイドルの自分は消し去りました。私は稽古に2週間ぐらい遅れて参加したんです。出来上がってる中に飛び込むのは相当覚悟をしなきゃいけないと思っていたので、途中合流した時からギアをオンにしてやっていく中でピカイチを見つけていったり、大人の輝一を演じている山﨑さんのことを観察したりして、こういう仕草をするんだというのを自分のピカイチに反映させたりしました。困った時に帽子の上から頭をかく癖だったり、眼鏡を直してみたり、眉間にシワを寄せてみるとかですね。

――山﨑さんとは同一人物でもあるというところでは、役のイメージのすり合わせみたいなことはあったんですか?

小越:マーチ(西真季乃/西田圭李)への気持ちは恋愛対象なのか、憧れなのかというような話をしたり。ピカイチの周りには星を持ってる人がいて、それでも自分は特別な存在だとどこかで信じたいみたいな話をしましたね。

――自分が観ていて好きだなと思ったシーンがあって、ブッチャー(丸尾丸一郎)が「宇宙」と書かれたスケッチブックを持って客席に向かって歩いてくるところで、山﨑さんと春花さんが横一列になるんですよね。そこで同じピカイチとして、2人の表情が重なって見えた気がしたんです。

小越:同じピカイチとして感情がリンクしていくのが楽しいよねって、山﨑さんが稽古の時に話してくださったんです。私も輝一を応援する最後のシーンでは「将来の自分はどうなってるんだろう」とか「大人の自分、負けるな!」みたいな気持ちを持ちながら演じています。

――衣装的には、輝一とピカイチで上下反転させていますよね。そこも同一人物として物語を接続するポイントです。

小越:最近はこの衣装を着てヘアメイクをしてから、山﨑さんとか丸尾さんに考えてきた一発芸を披露するっていうのをルーティーンにしてやっているんです。普段は根暗で静かなネガティブ陰キャみたいなタイプなんですけど、この格好になったらなんでもできちゃう感じがして。丸尾さんが衣装さんに聞いてくださって、この衣装をいただけることになったんです! 私にとってはこの衣装がスーパースターみたいな感じで気に入っています。

――髪型もウィッグを被ってるんですよね。

小越:そうなんです。この格好じゃないと恥ずかしくて、今もちょっと落ち着かないくらいです。これからもこのビジュアルでいこうかなと思ってます(笑)。

――アイドルとしての小越春花のイメージとは、かけ離れてますもんね。

小越:そう言っていただけるのが嬉しいです。かわいいらしさの種類がアイドルとは全く違うじゃないですか。振り切るのには勇気がいったんですけど、でもそこを超えたら楽しすぎて。今は面白くなりたいって思ってます。私の言ったボケを山﨑さんが回収していくのが上手すぎて、本当に悔しくて。私もかわいいではなくて、面白いって言われる人になりたいですね。私はこれからどういう方向に進んでいくのか、分かんなくなっちゃってるんですけど(笑)。

――春花さんが演じるピカイチは特に歌唱シーンも多いですよね。

小越:そうですね。いい曲やなって思って。

――関西弁(笑)。

小越:歌を歌うというよりかは、喋るように歌うことを意識しています。上手に歌おうとは思ってないですし、ピカイチの感情がそのまま出ているような感じで歌いたいと思ってやっています。

――NGT48で歌うのとは違いますか?

小越:全く違いますね。アイドルだと可愛く見せたいとか、キラキラした姿を目指してやっているんですけど、いい意味で綺麗じゃなくていいというのは等身大の自分の気持ちを乗せやすいのかなと思います。あえて音を外して歌っていたり、その時のテンションに任せている感じはそういうことかなって。

――今言われて、西田さんが演じるマーチのアコギに乗せて歌う冒頭のシーンは、確かに“ヘタウマ”のようだったなと思い出しました。

小越:私もお気に入りのシーンです。冴えない男の子の感じが、未来の自分に何か持っててほしいみたいな願望を感じますし、切なくてギュッとなります。

――「ファッションリーダー」や「カンフーモード」もなかなかNGT48にはない楽曲ですよね。

小越:歌って踊ってるので息は切れるんですけど、楽しさが勝ってます。大好きです。「カンフーモード」の最後で支えられながら飛び蹴りをする場面があるんですけど、私は地から足を離すという動きがこの世で一番苦手な動きでして。持ち上げられるということは誰かに身体を委ねるわけで、もしも落ちたらどうしようって考えちゃうタイプなんです。でも最近は思いのほか飛ぶことが楽しくなってきていて、カンフーの道もありかもしれないなって思っています(笑)。

――『私は怪獣』から1年余りが経って、意識の変化はありますか?

小越:『私は怪獣』の時こそ、お芝居のことが全く分かっていなくて、とりあえず大きい声を出さなきゃというような意識でした。徐々に役の感情が分かるようになってきてからは、そんなことは全く気にならなくなってきました。役としてどう生きたいのかを自然と考えるようになったり、それがお客さんにどうすれば届くのかを考えるようになっているのは、自分としては成長してるのかなと思います。でも、まだまだ難しいですし分からないことだらけなので、舞台ではとにかくガッツでいくと決めています。

――昨年6月には『まんが日本昔ばなし 舞台版「伝説・桃太郎~鬼の絆~」』への出演もあったわけですよね。

小越:『桃太郎』では空気感が全く違いましたね。後半に行くにつれて自分のアドリブを入れ始めたりしていて。ヒヤヒヤするんですけど、その緊張感を楽しめるようになってきてる感じ、ゾクゾクが病み付きになってきたのかもしれないって思っていました。そこは変わったところかもしれないです。私は根が真面目なので、ちゃんとやらなきゃと考えがちだったんですけど、舞台をやっていくにつれて少しずつほぐれてきたのかもしれません。

――今回の『9階団地のスーパースター』でもアドリブは入れたりしているんですか?

小越:ちょこちょこ挑戦していますね。コメディ要素が多いというのも入れやすいところではあるんですけど、ブッチャーとの絡みのシーンは毎回何が起こるのか分からないので、稽古でも言われてることは、先のことを知らないこと。先を知った上での作られたリアクションではなくて、その場で驚いて感情が湧いてくる。どうしても心配で準備をしたくなっちゃったりもして、そこが難しいし面白いなって思うところです。

――東京公演の新宿シアタートップスは小劇場なので、客席からリアクションが返ってくる面白さがありますよね。

小越:そうなんです。温かいお客さんばかりで助けられている感じがしますし、反応が返ってくるってこんな感じなんだって、自分の声が生で届いている感覚が楽しいです。

――春花さんはパンフレットの中でピカイチという役について、「周りに星を持ってる人はいるけど自分は持っていない、みたいな事は本当に分かる」と答えていますけど、これについてもう少し詳しく教えてもらえますか?

小越:アイドルをやっている時も、同期とかほかのメンバーはすごいなって思う瞬間がたくさんあるんです。私はダンスが全くの未経験だったんですけど、同じ未経験の子でも振り覚えが早かったり、立っているだけで目を引くメンバーを見ると、頑張ってもその人にはなれないんだって思うんです。お芝居をやり始めてからも同じで、自分はどれだけ練習をしても叶わない存在なんだって。それでも、私にだって何か誰にも負けないことがあるはずだって信じていて、その何かを探したいから、この仕事を続けられているんだろうなって思います。その何かがないのかもしれないと思った時に心が折れちゃったりもするんですけど、そういう時にこの作品がパワーをくれるというか。自分と同じピカイチのような存在がいて、ブッチャーという存在がいて。いろんな方の心に刺さるんじゃないかなって思いますし、私もピカイチからもらってるものがたくさんあるなと思います。

――先ほど、稽古に遅れて参加したと話していましたけど、その前は「私の卒業」プロジェクトの映画『こころのふた~雪ふるまちで~』を撮影していたんですよね。

小越:映像のお芝居を本格的にやったのは初めてで、楽しかったけど毎日大変だったなと思います。撮影期間中に『9階団地のスーパースター』の稽古動画が送られてきて、「私、ヤバい!」と思っても、明日のシーンの確認をしないとで。朝早くから夜遅くまでの撮影スケジュールでバタバタしていました。映画の撮影期間中は関西弁ではなく新潟の女の子の役で、自分自身をピカイチに切り替えるのはその撮影が終わってからでしたね。

――『こころのふた~雪ふるまちで~』で演じている吉田愛佳という役はどんな人物なんですか?

小越:愛佳ちゃんは普通の家庭環境なんですけど、どこか孤独を感じているんです。周りの子たちは夢や目標を持ったりしているけど、彼女は自分の気持ちに蓋を閉めてみんなとの間に壁を作ってしまっている。そんな子が少しずつ成長をして、自分のやりたい夢に向かって進んでいくまでの物語です。周りの人のことを羨ましいって思う気持ちは、ピカイチと通ずるところがあるなと思います。最終的に、愛佳ちゃんには心の蓋を開けてくれる存在の男の子が現れるんですけど、その男の子は夢とか目標をしっかり持っていて、いろんな人と関わっていく視野の広い子なんです。人とは違うんだという気持ちはピカイチも持っているし、愛佳を演じていてもそういう思いになりましたね。

――オーディションとワークショップはどんな期間でしたか?

小越:最初はめちゃくちゃビビっていました。オーディション会場の緊張感ってすごいんですよね。シーンとしてしている中で、たまにほかの子たちがすれ違う時に「頑張れよ!」って言っているのを見て、「あそこ知り合いなんだ……」みたいな変なソワソワがあったりして。でもそれを楽しめている自分もいたり。ワークショップをやるにつれて、コミュニケーションを取りながらお芝居を作っていったりとか。同年代の役者を目指している子たちからもらう刺激は大きかったです。特に今回は、ほかにモデルやグラビア、小さい時から役者をやっている子とか、普段は交わらない人たちとの貴重な機会がありましたし、人とこうやって出会えるのが面白いなと思いました。

――春花さんにとっての、もう1つの青春というか。

小越:そうですね。私にとってはこれが青春だったなって思います。私はアイドルをしていたこともあって、リアルな学校生活はみんなと壁を作ってしまっていたような気もするので。短い期間ではあったんですけど、みんなと仲間でもライバルでもあるみたいな、そういった高めあえる環境はありがたかったなと思います。

――春花さんは俳優として着実に芝居の経験を積んできていますけど、演じることっていうのは楽しいですか?

小越:それ、今自分の中でどうなんだろうって考えていて。一言で楽しいとも言えない、難しいなって思いながらやっている感覚と苦しいというのもありますし。ちょうど今日の午前中、「私の卒業」の声録りをしてきて、編集された映像を観させていただいたんです。こんなふうに感じるんだって、予告の映像を観ただけで泣けてきちゃって。撮影期間は大変だったんですけど、これが誰かに届いて心に残った時に、お芝居をこれからも絶対にやりたいって思うんだろうなって。

――少しずつでも自信はついてきている?

小越:いや、全くですね。私はワークショップを経て、心がボキボキに折れまして。この先、私はどうやって生きていこうか、海に行こうか、山に行こうか(※おそらく「海の物とも山の物ともつかない」の意)と考えるくらいに完全に諦めました。それでもやめたくないと思うのは、自分の探したいものがお芝居の世界にある気がすると今は思っているので。声を大にして女優さんになりたいとは、まだあまり言えない気持ちなんです。

――その探してるものというのは、まだ見つかっていないと。

小越:見つかりそうにないですね。私は自分を俯瞰して見ているタイプなので、その役の感情で周りが見えなくなるということは今まで経験したことがないんです。精神的に、身体的に限界に達したこともないので、自分の限界を知ってみたいというのはあります。人と対話することもそんなに得意ではないので。でも、思ってることとか感じているものがあるから、それを表現できるのがお芝居なんだと思いますし、自分というのはお芝居じゃないと見つからないものなんだろうなって。自分に一番向いてる職業が役者かと言われたら絶対違うって思うんですけど。でも、自分の探したいものがあるのはお芝居の世界なんじゃないかなと思うから、頑張ってみようかなと思っています。

――頑張ってください。応援しています。一方で、NGT48としてはあまり活動できていない現状もありますよね。

小越:メンバーのグループLINEには、公演の反省会だとかリハーサルの映像が送られてくるので、「そうだ。今日は劇場公演の日だ」と思いながら、「私は稽古に行ってくるぞ」というふうに、違うところでみんなが戦っている感じがするのは、正直孤独に感じたりもするんですけど、だからこそ頑張ろうとも思います。今は外で頑張りたいと思って、こうして活動させてもらっているので。みんなの活動をSNSで見ることによって、自分の原動力にもなっている感じはありますね。この舞台が終わったらNGT48に帰れるんですけど、(本間)日陽さんの卒業コンサートが控えていたりするので、そこではもう一度アイドルとして輝けるように。ファンの方にもアイドルとしての姿をお見せできていないという思いはあって。その分、今はピカイチの姿を見ていただいて、ファンの方にも素敵な出会いがあったらいいなと思っています。帰ったら思いっきりアイドルができるように今は頑張りたいです。

――あと3カ月もすれば20歳の誕生日を迎えますが、19歳の1年を振り返っていかがですか?

小越:19歳の後半が特に外でのお仕事を頑張らせていただいていたのでギュッとした期間でしたし、不思議な1年だったなと思います。見える世界が違ったり、ご一緒させていただいた方からの刺激が大きくて、それによって自分の視野も少しは広がったかなと思いますし、人間として成長できた年ではあったと思います。20歳って大人な感じがして若干の焦りはあるんですけど、20歳になるということは信じていなくって。『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)みたいに、20歳になる前にもう1回人生がスタートするんじゃないかって疑ってはいるんですけど。ただ、誰かに今世を頑張れって私は言われてる気がしていて。なので、今世で何か花を咲かせられるように、とにかく今目の前にあることやご縁を大切にしていきたいなと思っています。

(取材・文=渡辺彰浩)

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