老若男女を笑わしたい! トム・ブラウンを変えた3つのターニングポイント

ケイ・ダッシュステージ所属のお笑いコンビ、トム・ブラウン。高校時代の先輩後輩コンビで、2009年に北海道から上京してきた二人は、今やお茶の間にとって欠かせない存在だ。ニュースクランチのインタビューでは、昨年末の『M-1』敗者復活の舞台裏や、芸人としてのキャリアにおいて、ターニングポイントとなった出来事などを、たっぷりと語ってもらった。

▲トム・ブラウン(布川ひろき / みちお)【WANI BOOKS-“NewsCrunch”-Interview】

あわよくば優勝できると思っていた昨年の『M-1』

――昨年末のM-1グランプリ敗者復活でのネタ、すっごく最高でしたし、さまざまな芸人さんが激賞されていましたが、お二人の手応えはいかがでしたか?

布川:悪くはなかったのかな、と。ありがたいことにスタッフさんや芸人仲間からも褒められることが多くてうれしかったですね。

みちお:そうだね。

布川:この前、ジュニアさんとお仕事が一緒になったとき、挨拶に伺ったら「めちゃ言われてるとは思うけど、ほ〜んま、おもろかったなあ〜…」と言ってもらえて。「めっちゃおもしろかったねえ!」みたいなテンションじゃなくって、しみじみ言ってくれたのが、すごくうれしかったですね。

みちお:それから、僕らのネタのなかでも、かなり狂気的なネタなのにも関わらず、SNSでは赤ん坊が笑ってくれたと話題になりまして。そこでわたくし、考えました! 死を司るネタだから、生(せい)を司る者たちにウケたんじゃないかって! 子どもたちが死を笑顔に変える、この漫才の影響を受けて、より世界が良いものになるきっかけになったかと思うと興奮します!

布川:「なったかと思うと」って言うけど、なってねえよ!

――あははははは!(笑) 個人的には、準々決勝、準決勝と拝見していたので、あのネタで決勝に残らないのは納得いかないな、くらいに思ってました。

みちお:ありがとうございます。たしかに“いいネタができた! 決勝にストレートでいって、あわよくば優勝できるぞ”って思い込んでいました。だから、準決勝で敗退して悔しかったですね。

だからこそ、敗者復活では準決勝からネタを細かく調整して挑んだということもあって、それを「おもしろい」と言ってもらえて、すごくうれしかったんです。今年、2024年はM-1出場のラストイヤーなんですけど、良い弾みになったというか頑張れるな!って。

――2023年から敗者復活の審査方法も変わりましたが、特に心構えなどは変わらず?

※2023年の敗者復活戦は、準決勝での順位をもとにA・B・Cの3ブロック制で行われた。そのブロック内でタイマン形式でネタを披露し、どちらが面白かったかを会場にいる観客からランダムに選ばれた審査員500人がネタ終了後に投票を実施。各ブロックの勝ち残り3組を芸人審査員である渡辺隆(錦鯉)、山内健司(かまいたち)、野田クリスタル(マヂカルラブリー)、柴田英嗣(柴田英嗣)、石田明(NON STYLE)の5人が審査した。

布川:そうですね。むしろやりやすかったです。個人的には、NON STYLEの石田さんが褒めてくださったのがうれしくて。

みちお:うれしかった! 敗者復活前に、さらば青春の光さんの「さらばBAR」という配信に出させていただいたときに「僕らみたいなネタは、正統派の漫才をやられる石田さんにはハマらないだろうから、石田さんの票だけは捨てて頑張ろう!」って話していたくらいですからね。

ともしげさんは褒められてるのを見たいだけ

――お二人といえば、毎年お笑いファンのSNSで「今年のトム・ブラウンはヤバい、決勝に行くんじゃないか」と話題になっているイメージがあります。そういう声について、プレッシャーに感じたりはしないのでしょうか?

みちお:客観的に見たらM-1自体が盛り上がるし、いいかなと思ってます。ただ、1回Twitter(X)でもない、変なSNSで準決勝のメンバーが発表されていて。

布川:SNSじゃない、掲示板ね! 5ちゃんだよ、5ちゃん!

みちお:それを見て布川が「準決いったぞ! おっしゃー!」と喜んでて、いざ公式のTwitterを見たら、全然行ってなくて、ぬか喜びだったことはありましたね。あのときは、めちゃくちゃ翻弄されました。

布川:やっぱ気になって見ちゃうんですよね。個人的には準決勝が終わって見るぶんにはよくても、準々決勝ぐらいで見ちゃうとあんまりよくないなって。“良い感じなんだな”と思っちゃうと、それ以上、頑張れなくなる気がするんですよ。

みちお:あんまり良い評判が書いてなかったらへこむし、書いてたら書いてたで喜びすぎて、落ちたときにめっちゃへこみますから。本当は結果が出るまで見ないほうがいいんだろうなと思います。

布川:でも、芸人みんな我慢できなくて見ちゃうと思いますよ。準々決勝終わりに、モグライダーのともしげさんと飲みに行ったんですけど、一緒にいるインディアンスのきむと、ゆにばーすの川瀬名人から「絶対、モグライダーは通ってますよ」って言われてもずっと調べてて。あれはネットで自分が褒められているのを、ただただ見たいだけなんだろうなと思いました(笑)。

▲ともしげさんは褒められてるのを見たいだけなんだろうな(笑)

ネタをやると悲鳴が上がった若手時代

――トム・ブラウンのこれまでについてもお聞かせください。北海道出身で、布川さんはさっぽろ吉本でもピンで活動されていましたが、お二人が東京進出を決めた理由はなんだったのでしょうか?

布川:結成するタイミングで「どうせやるなら東京だよな」って。

みちお:うん。お笑いで本当に頑張るなら、東京に行かなければいけないというのは、どこかにありました。

――そこから上京して、最初はかなり順調だったそうですね。

みちお:そうですね。東京に行って最初の頃は無所属のまま、オーディションに受かってライブに2本続けて出られたりして、“東京、余裕だな!”と思ってました。そこから全然受からなくなってしまいましたけどね。

布川:本当に、どこにもどこでもウケない時期があって、その時期はけっこうしんどかったです。ただ、そのタイミングで演歌歌手の方が多く在籍している事務所さんから「お笑い部門を立ち上げたいんです」ってスカウトされたんですよね。

みちお:そうだった、そうだった。事務所の方がライブに来てらっしゃったんですよね。

布川:当時の僕らにすごく熱意を持って接してくださって。ただ、芸人が自分たちしかいない環境というのが不安だったし、荷が重かったんです。

事務所内で切磋琢磨するような、他の芸人がいる環境がいいなと思って「すみません、吉本に戻ろうと思ってますので……」と嘘をついて断ったんですよね。そのあと、縁あってケイダッシュステージに入ったら、その何か月後に、その方と再会しちゃって。「吉本じゃないんですか!?」って言われて……気まずかったです。

みちお:この場を借りてちゃんと謝ったほうがいいですね。本当にごめんなさい。

――でも、その方は見る目がありますね。

布川:たしかに! 当時の僕らは本当にひどかったんですけどね。

――芸人になってから、“しんどいな、やめたいな”と思った時期はありますか?

みちお:お客さんが笑う、笑わない以前に、ネタをやると悲鳴が上がる時期があって……あれはしんどかったですね。「キャーじゃねえよ」と思わず言っちゃって。

布川:いやいや、思わずというか、かなり本気でブチ切れてたよ! みちおがこの話をするとき、いつもマイルドな言い方してるけど、まじでブチギレだからね。「キャーじゃねえよ!!!!」って。それも怖かったと思うよ。

みちお:これはウケると思って一生懸命に作ったネタに悲鳴があがるのは、しんどかったんですよね。“こうなるだろう”と予想していた反応と、実際の結果が離れていって。本当によくない尖り方してましたね。

▲あの頃はよくない尖り方をしてましたね

布川:徐々にメディアに出るようになったら、悲鳴とかも上がらなくなりました。でもたしかに、得体の知れないキモい二人組が出てきて、変なネタやったら、そりゃ悲鳴も上がりますよね(笑)。

意識が朦朧としたまま漫才をやってました

――お二人の代名詞とも言える“合体漫才”はどのように生まれたのでしょう?

みちお:いまだにはっきり覚えているけど、下北のガストだよな?

布川:……あのね、これ、何度も喋っていることですし、毎回、みちおは「いまだに忘れない」「はっきり覚えている」って言うんですけど、新宿のジョナサンだよ!?

みちお:あれ? そうだっけ?

布川:なんでいつもちょっとずつ場所を変えるの? ボケてんの?

――(笑)。

みちお:まあ、そこで単独ライブの話をしていたとき、サッチっていうコンビの神田(現、神田ワンダーランド)に「設定が普通でボケが飛んでるネタが多いけど、設定からボケてみたら?」って言われて、一休さんをたくさん集めてキング一休さんを作るというネタを思いついたんです。

布川:あれは、かなりデカかったと思います。

――反響はどうでしたか?

布川:めちゃくちゃ良かったですね。2016年のM-1予選で初めて合体漫才をしたんですけど、前の日にライブで一緒だった錦鯉の(渡辺)隆さんから「あれめっちゃいいぞ」って褒められました。だから、自信を持って挑んだんですけど、実際は2回戦落ちで……。「これ、ダメなんか」ってバイト終わりの新橋で結果を知って、膝から崩れ落ちた記憶があります。

みちお:ようやくパッケージが見つかったと思ったのに、2回戦落ちはきつかったよね。

――ショックを受けてからも合体漫才を続けてきたのは?

布川:続けようと思ったというよりは、半年ぐらい惰性でやっていただけでしたね。

みちお:すごく覚えているのが、同じ事務所のサツマカワRPGから「最近、同じネタを30回ぐらいやってますけど、大丈夫ですか?」って言われて。そのときに「あっ! ぜんぜん大丈夫じゃない!」って(笑)。言われて初めて同じネタをやってることに気づいたというか、ずっと意識が朦朧としたまま漫才をやってたんですね。

布川:え!? みちお、あのとき意識朦朧としてたの? 俺は同じネタしてる意識があったけど(笑)。

みちお:あ、そう? 僕はサツマカワに助けてもらったよ。それこそ、2018年のM-1のときも、3回戦で「キングムーミン」のネタをしようと思っていたんですけど、サツマカワが「テレビでもやっているから、ちょっとでもいいから変えたほうがいいと思いますよ」と言ってくれたんですよ。要所要所でサツマカワには助けられています。

布川:ただ、僕的には結果的に惰性で続けてよかったと思っています。厳密にいうと、合体漫才と、もう1つ、その2本をひたすらやっていたんですけど、僕、1つのライブで全く同じネタをやるのが好きじゃなくて、その2本を少しずつ変えてやっていたんです。その結果、少しずつブラッシュアップしていけたのかなって。

“下水道”の笑いをヤーレンズが変えてくれた

――結果として、今やトム・ブラウンさんを代表するパッケージともなりましたが、評価がついてきたなと思ったのはいつごろですか?

布川:2018年の2回戦の出番直前に、ウエストランドの井口くんが近づいてきて「びっくりしないでくださいよ。いつもトム・ブラウンさんが出てきたら、悲鳴が上がったり、イヤがられてたじゃないですか。でも、すごい歓迎っぽい空気になってると思うんです。でも、びっくりしないでくださいね」って言われて。

“なに言ってるんだろう?”って、半信半疑で出て行ったら、たしかにお客さんがちゃんと見てくれたんですよね。それで“あれ、なんかやりやすい”って。もしかしたら、井口くんが言ってくれてなかったら、戸惑ってたかもしれない(笑)。

みちお:同じ年の5月に『にちようチャップリン』に出させてもらったのも大きかったですね。さっき言ったみたいに、最初は悲鳴が上がっていたけど、徐々に僕らのことを知ってもらえて、受け入れてもらえたのかなって。

――2016年に合体漫才が生まれ、2018年に歓迎ムードへと変わったタイミングが、お二人にとってはターニングポイントだったんですね。

布川:そうですね。あとは、2014年にヤーレンズがうちの事務所に入ってきたのもかなり大きかったです。それまで、うちの事務所の芸人たちの打ち上げって、誰かの服を破ちゃうとか、髪を切っちゃうとか、そういう笑いが主流だったんですよ。

みちお:下水道の笑いだよね。地下以下。排水の笑い。

布川:そういうお笑いばっかだったんですけど、ヤーレンズという正当に笑いをとれる人が入ってきたときに“あれ? なんか今までと違うぞ、こいつら”と思って。そしたら、実際にうちの事務所で初めて準々決勝まで行って。“どうやら、こういうふうにちゃんとやるのが正解らしい”と気づいて、ネタの作り方を根本から変えたんです。

みちお:稽古場とかで、お互いにネタを見せ合って、話し合ったりするようになって。たしかに、かなりターニングポイントだったな。

――ヤーレンズのお二人からアドバイスされたことで覚えていることはありますか?

布川:それこそ、去年の敗者復活のネタ『ロンリー・チャップリン』のくだりも、「その曲、わかんない人が多いんじゃない?」って、作家さんとかから指摘をもらっていたんですけど、楢原と出井ちゃんは「いや、そのままでいいと思います。逆に、説明をそんなにしないほうがいいと思います」と言ってくれたんです。「てか、曲なんかどうでもいいですから。どうせ、そのあとで首の骨を折るんだから」って、うれしかったですね。

みちお:あと、僕のつかみのやり方が今の形になったのは出井ちゃんのおかげです。それまでは「誰か一緒に暗いとこ行こう!」みたいにお客さんをいじって、引かれることが多かったんですけど、「つかみ、自虐で自己完結できるやつを考えてみたら?」と言ってくれて。「ケンタッキーは骨ごと飲み込みます!」とか言い始めたら、お客さんからも笑ってもらえるようになりました。

ハナコから引き継いだ『たろう7』

――お二人が自分たちの強みだと思うことを教えてください。

みちお:人外だ! とか、妖怪だ! とか、誰を笑わせようとしてるんだ!って言われることはあるんですけど、自分たち的には、本気で老若男女を笑わせようと思ってネタを作ってるんです。それが強みだと思っています。

布川:若手たちが裏で「老若男女を笑わそうとしてるらしいよ…」ってニヤニヤされてたこともあるけどね(笑)。あとは、キモさじゃないですか? 売れてる人たちって、やっぱりキラキラしてますもん。僕らは全然してないです!

――お二人はキラキラしてますし、清潔感がありますよ。

布川:清潔感!?(笑) ホントですか? ありがとうございます。

▲本気で老若男女を笑わせようと思ってネタを作ってるんですよ

――今年は15年に1度の全国ツアー『たろう7』を開催しますね。ハナコさんの『たろう6』から名前を受け継いだとのことですが、なぜなのでしょう?

布川:やっぱりハナコのファンの人たちが、『たろう』がなくなって悲しんでいるんじゃないかと思ったので。『たろう』ファンは僕らが受け継ごうと。

みちお:じつは、これまでにやっていた『ソレソレライブ』も、ちょむ&マッキーっていうコンビから引き継いだんですよ。きっと何かを引き継ぐのが好きなんですよね。だから、布川からアイデアを聞いたときに「いいじゃん!」って即答しました。

布川:そうそう。それで、最初に電話しやすいから、まずハナコの菊田に電話したら「あ〜……いや、それ、僕に聞かないでくださいよ。僕は全然いいですけど」って言われました。

――(笑)。なぜ15年に1度なのでしょう?

布川:普段の単独ライブは大都市以外でやっているんですね。これからもそうしていくつもりなんですけど、「普通に東名阪だったり、福岡でも見たい」という声もあったので、15年に1回くらいはいいかなと。DREAMS COME TRUEが4年に1回『WONDERLAND』を、LDHの皆さんが7年に1回『PERFECT YEAR』をやっているのと同じような感覚です。

――(笑)。ちなみに、6月29日(土)の昼公演のみ未就学児OKとのことですが、どのような意図があって?

布川:今回のM-1で、赤ちゃんが笑ってくれているということを知れたのは大きいですね。僕らの過激ぐあいが未就学児にOKになりつつあるならいいですし、僕らのネタを見ることによって、僕らの意志を継ぐ者たちが二代目トム・ブラウンを襲名してくれたらなと。

みちお:僕らも引き継ぎなんだ!? トム・ブラウンが世襲制だなんて、いま初めて聞きました。

――(笑)。最後に、今後の目標を教えてください。

布川:先ほど清潔感とおっしゃっていただきましたが、僕はトリートメントのCMをやりたいです。1回、広告代理店の方に伝えたことはあるんですけど、「それは、新垣結衣さんとか、綾瀬はるかさんのクラスじゃないと……」って苦笑いされました。

みちお:僕はM-1で最高得点を出してみたいです。優勝できればもちろんうれしいですけど、「最高得点が出たー!」って聞いてみたい。100点が2人ぐらいいたら最高ですね。結果、それで優勝できなくてもいいです。

布川:なんで最終決戦で敗れてるんだよ! 最高得点を出して優勝だろ!

(取材:於 ありさ)


▲トム・ブラウン単独ライブ2024『たろう7』

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