『光る君へ』吉高由里子の涙があまりにも心苦しい幕引き まひろに突きつけられた現実

『光る君へ』(NHK総合)第11回「まどう心」。兼家(段田安則)の計画により花山天皇(本郷奏多)が退位した。それにより、為時(岸谷五朗)は再び官職を失う。まひろ(吉高由里子)は為時が復職できるよう左大臣家の娘・倫子(黒木華)に口添えを頼むも断られる。まひろは諦めきれず、摂政となった兼家に直訴しに行く。

第11回はまひろと道長(柄本佑)の間にある決して越えることのできない身分の差を痛感させられる回となった。まひろを演じる吉高由里子は、家族の先行きを案じ、行動に起こすことができるまひろの度胸と、道長との逢瀬に胸の高鳴りを感じながらも北の方にはなれない現実に打ちのめされるさまを、そのまなざしや声色でみせてくれた。

まひろが倫子に向かい、矢継ぎ早に頼み込む姿には為時を推挙してほしいという強い気持ちが表れている。しかし倫子は、摂政・兼家の決断は天皇の決断と同義であり、左大臣であってもそれを覆すことはできないとまひろに伝えた。政治の実権を握る兼家の強い立場にまひろは言葉を失う。けれど、父のために何かできないだろうかというまひろの心が彼女を突き動かす。倫子から「摂政様はあなたがお会いできるような方ではありません」と忠告されるも、まひろは兼家に直談判する。

まひろと兼家が対峙する場面には凄まじい緊張感が漂っていた。まひろと倫子ら姫君たちとの間にも身分差はあるが、倫子のおおらかさやサロンの和やかな雰囲気がまひろとの身分差を埋めていたのだと改めて感じる。道長が暮らす屋敷ということもあってまひろの緊張は増しており、兼家を待つまひろの体のこわばりがそれを物語っていた。

それでもまひろは兼家にまっすぐ目を向けると、「父のことでお願いに参りました」と申し出る。父・為時に官職を与えてほしいと訴えかけるまひろに物怖じする様子は見られない。だが、兼家の返答は厳しいものだった。兼家は「一度背いた者に情けをかけることもせぬ」「わしの目の黒いうちにそなたの父が官職を得ることはない」と言い放つ。その場で愕然とするまひろの目に涙が浮かぶ。この涙は、天皇の決断と同義である兼家の言葉への動揺を表しただけではないように思う。まひろは身分差や出世のために器用に立ち回れなかった者に突きつけられる現実を痛感したのではないだろうか。

まひろは宣孝(佐々木蔵之介)が感心するような行動力を発揮する一方で、道長を思う言動は純粋で切ない。道長からの文を愛おしそうに撫でる指先や、道長がひそかに為時の屋敷を訪れていたことを知って思わず外へと駆け出し、辺りを見渡すその面持ちから、道長への溢れる思いが感じられる。

まひろは道長との逢瀬のため廃邸を訪れた。道長を見つけ、胸に飛び込む姿が愛おしい。言葉も交わさず道長と抱き合うまひろの満ち足りた表情が心に残る。二人はそのまま口づけを交わした。言葉もいらないほど、心を通わせていることが十二分に分かる。だからこそ、道長からの「妻になってくれ」という言葉は、まひろにとってこれまでになく嬉しいことだったに違いない。けれど、まひろが少しの期待を胸に「それは……私を北の方にしてくれるってこと?」と問いかけた時、道長の表情が曇った。

「妾になれってこと?」

失望したような吉高の台詞の言い回しに心が苦しくなる。「北の方にしてくれるってこと?」という声色には、先述した通り少しの期待が感じられた。だが、言葉に詰まる道長を見て、まひろは倫子や兼家と向き合う中で知った現実から逃れられないことを思い知ったのかもしれない。加えて、道長を深く愛しているまひろは道長が正妻や他の妾を愛することに耐えられそうもなかった。道長は「俺の心の中ではお前が一番だ」と必死に言い聞かせるが、「いつかは北の方が……」と口にするまひろは今にも泣き出しそうな顔をしている。道長を振り払い、震える声で「耐えられない、そんなの」というまひろの心中を慮ると、心が痛む。

「ならばどうすればよいのだ!」と道長は憤る。「どうすればお前は納得するのだ」と諭されても、まひろは何も言えなかった。道長と一緒にいたいという願いも、妾になりたくないのも本心だ。まひろには現実的な一面があり、それだけに北の方にしてほしいという到底叶わぬ願いを口にすることができないのだと思う。道長は「勝手なことばかり言うな」と言い捨て、その場を立ち去った。道長が見せた怒りに、まひろは言葉も出ない。途方に暮れ、その場に立ちすくんでいたまひろだったが、廃邸で一人、水面に映る自分に石を投げつけると悲しみが溢れ出した。あまりにも心苦しい幕引きだった。

(文=片山香帆)

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