King Gnu、ずとまよらJ-POPの中華圏公演完売続く 現地プロモーターに聞く市場の変化

上海を拠点に日本人アーティストのコンサートを手掛ける海日娯楽傳媒(香港)有限公司(以下、海日)。同社の代表取締役社長で、過去に女子十二楽坊のA&Rおよびマネジメントを担当していた庄磊氏に直近4年間で中国市場の興行がどう変わったのかを聞いた。

海日は2020年に予定していたいくつものプロジェクトが新型コロナウイルス感染拡大の影響により中止、その後中国が“ゼロコロナ”政策を2023年初頭まで実施したため、実質3年間は事業がストップした。

そして、この3年は日本のアーティストが好きな中国のファンにとって会場でのライブ参加が叶わない鬱屈した時期でもあった。中華圏で日本のアーティストの興行が再開したのは2023年夏頃。海日は8月13日のGARNiDELiAのマカオ公演で3年半ぶりにリスタートを切った。庄氏によれば、中国の動画配信プラットフォーム・Youkuやbilibili、音楽配信プラットフォームのQQ MusicやNetEase Cloud Music、SNSではInstagramに相当するRED、X(旧Twitter)に相当するWeiboなどがコロナ禍のステイホーム期間中頻繁に視聴され、中国のユーザーが日本のアーティストのコンテンツに接触する頻度や再生回数も急激に伸びたという。これが結果的に中国のファンの飢餓感を煽り、コロナ明けの公演に人々が殺到することとなった。事実、海日がコロナ明けからこれまで主催したうち前述のGARNiDELiA マカオ公演、家入レオ 上海公演、RAISE A SUILEN上海公演など計6公演がソールドアウトしている。

他社ではKing Gnuやずっと真夜中でいいのに。の中華圏公演がソールドアウト、追加公演を発表している。J-POPアーティストの中華圏での公演の中で、今までにない、かなり高い確率でのソールドアウト公演数だという。そして高確率の背景にはもう1つの要因がある。それはアプリのダッシュボードによるファンの属性把握だ。REDから家入レオの深圳公演来場者の属性が瞬時かつ正確に把握できるというので実際に見せてもらったが、男女比、年齢層、居住地などマーケティングに必要十分な情報が得られることが分かった。

こうしたリサーチやアンケートを徹底的に行うことで、妥当なチケット価格や特典、ファンの希望するセットリストなどチケット購入に繋がるサービスが可能となるのだ。ソールドアウト公演の頻発に加え、コロナ禍以降の変化として庄氏が挙げたのは、公演数の倍増である。コロナ前までも日本のアーティストの中国公演は少なからず行われていたが、この半年間の中国での公演数は確実に増加している。海日もここ数カ月間ほぼ毎週末のようにコンサート、ファンミーティング、イベントなどが目白押しだ。公演数もさることながら、これまではなかなか日本以外のアジア圏に足を延ばさなかった宇多田ヒカルなどのビッグネームが中華圏で公演を行なうという状況が起きている。

これは現地ファンの飢餓感を察した海外プロモーターからのリクエストが日本のマネジメントに殺到していること、ダッシュボードで海外ファンの存在が可視化されたこと、そして日本のマネジメントやアーティストがYOASOBIらのグローバルチャートや海外ソールドアウト公演に背中を押されていることが背景にあると考えられる。加えて、K-POPの世界展開への対抗意識も少なからずあるかもしれない。そしてコロナ禍以降の変化、特に日本側のそれとして感じたのは、公演中の撮影に寛容になった点である。私がこれまで関わってきた日本のアーティストは、国内はおろか海外公演でも撮影に対して非常にナーバスであった。肖像権や原盤権を守る立場のレーベルやマネジメントからすれば当たり前のことであるが、SNS拡散によるマーケティングの一環として、スマホ撮影をOKとする海外アーティストが多いのが現状である。日本でも数年前から藤井フミヤ、浜崎あゆみ、SEKAI NO OWARIなど少数ではあるが、条件を設けながら公演中の撮影を許可するアーティストも現れている。YOASOBIは録音・録画は禁止と謳いつつ、スマホでの静止画撮影をOKとしている。

この件については、賛否両論あると思うので突っ込んだ議論はしないが、日本側に意識の変化が表れていることは紛れもない事実である。ちなみに、家入レオの深圳公演は「アンコール1曲のみ撮影OK」としていた。

最後に海日の紹介を簡単にしておく。庄磊氏が“日中をつなぐエンターテインメント全般を隅々までトータルプロデュース”をモットーに2007年に設立。会社の特徴として、主に日本のアーティストの中華圏興行に特化していること、ジャンルや規模にかかわらず日本のアーティストの公演を主催していること、そして主催の可否は庄氏がそのアーティストを好むか好まざるかに依っているということである。家入レオの深圳公演後半で、照明卓横でファンに負けず大声で声援を送る庄氏を見て、この人は本気で彼女に心酔しているのだと実感した。その心意気が公演の成功を生む原動力となっているのだろう。

(文=関根直樹)

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