連載『lit!』第93回:つぶグミ×ハロプロのGOODM!X、RYUTist……春に聴きたい女性アイドルの新譜

卒業シーズン真っ只中ですね。アイドル界でもこの時期はグループ卒業がよく見られますが、何といっても今年話題なのはAKB48の柏木由紀さんでしょう。2007年4月に劇場デビューした彼女のグループ在籍期間は、およそ17年。「アイドル戦国時代」以前から今日に至るまで現役で活動を続けてきた貴重なメンバーでした。今後の活躍を祈念しつつ、今回の『lit!』では新しい季節に向けて聴きたいアイドルの新譜を紹介します。

今年発売30周年を迎える春日井製菓「つぶグミ」とハロー!プロジェクトのコラボレーションから生まれた期間限定ユニット・GOODM!Xの「カモン・ミックス!」。メンバーは岡村ほまれ(モーニング娘。'24)、橋迫鈴(アンジュルム)、有澤一華(Juice=Juice)、河西結心(つばきファクトリー)、西田汐里(BEYOOOOONDS)、北原もも(OCHA NORMA)というハロプロ現役6グループから選抜された面々です。〈噛みごたえ〉〈こつぶ揃い〉など商品を連想させるワードを織り交ぜながらも「グミ」はあえて使わず〈Good Mix〉に置き換え、商品とグループの共通点であるカラフルな個性が混ざり合うさまを見事に表現した1曲に仕上がりました。MVでは有澤一華のバイオリンなどそれぞれの個性をフィーチャーし、メンバーカラーを取り入れた衣装がグループ名通りにミックスされるなど、この布陣、この企画でしか生まれ得ない、商品・楽曲・メンバーが三位一体となったタイアップソングならではの楽しさがあります。個人的には中盤の〈組み合わせたら〉が“グミあわせたら”に聴こえるのが好きです。

3人体制もすっかり馴染んできたRYUTistの新曲「春風烈歌」は、曽我部恵一(サニーデイ・サービス)の提供曲です。進学や新生活に胸躍らせるこの季節。たとえ環境の変化とともに自分自身が変わっていっても、春になるとあの頃と同じように花を咲かせている桜に何だかほっこりとした気持ちになるものです。「春風烈歌」はそんな過去と未来を繋ぐ春という季節を、映像的な描写で豊かに表現しています。〈春の風よ歌え〉〈ぼくらを未来へ運べ〉といったフレーズは、結成から早10年超、今も新潟を拠点に活動を続けているRYUTistが今年もまた春を迎えられたことへの祝福と、輝かしい未来に向けたエールのようにも思えてきます。ちょっぴりセンチメンタルでありながらも前に進む力を与えてくれる新たな春の名曲です。余談ですが、今作のジャケットがサニーデイ・サービス『東京』のジャケットと対になっているように見えるのは気のせいでしょうか……?

SANDAL TELEPHONEの久々のフィジカル新作『SHUTDOWN→REBOOT』は新録曲と昨年連続リリースされた4曲で構成されたミニアルバムです。既発曲ではチアフルなガールポップ「UnLucky」あたりにネクストステージの片鱗が感じられましたが、今作ではここ数年の音楽シーンを象徴するボーカロイド経由のJ-POPに接近した「SHUTDOWN→REBOOT」、いつになくダークでゴシックな「Allegro」とさらに音楽性の幅を広げています。

そして何と言っても今回の目玉は、キャリア史上初のカバー曲である「Shangri-La」。電気グルーヴが1997年にリリースしたヒット曲です。原曲のキャッチーさを残しつつも洗練されたガーリーなハウスアレンジはフロア映えしそうな仕上がりで、恒例となっているクラブセットでのライブでも盛り上がりに一役買いそうです。

前田鮎花と辻優衣によるユニット・963(くるみ)が前作からおよそ3年半ぶりにリリースしたアルバム『mirror』。冒頭からこれまでのイメージを覆すバンドサウンドの「sugar love」に意表を突かれますが、その後も独特の譜割に社会問題をコミカルに乗せた「魚が食べられなくなる未来」、アコーディオンとスパニッシュギターをフィーチャーした異国情緒溢れる「el paso」と、1曲ごとに表情を変える多彩な楽曲が続きます。作家陣も個性的で、チル&メロウなサウンドが心地良いNelko、NATURE DANGER GANGの福山タク、ゆるめるモ!との共作『箱めるモ!』でも知られる箱庭の室内楽のハシダカズマなど、いずれも実験性とポップネスをきちんと共存させる手腕が光ります。963は過去に諭吉佳作/menをいち早くフックアップするなど、気鋭のアーティストへの優れた目利きも魅力の1つと言えるでしょう。ちなみに「sugar love」が先日『ナインティナインのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)でオンエアされましたが、これは彼女たちの所属事務所の社長がナインティナイン・矢部浩之の兄として知られる矢部美幸であることから(かつて『めちゃ×2イケてるッ!』にも何度も出演していました)。メンバー2人ともがミスマガジン読者特別賞を受賞しているというポテンシャルの高さも相まって、意外なルートで世に見つかることがあるかもしれません。

(文=椎名和樹)

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