『葬送のフリーレン』アニメ版が描き出した“一つの”物語 第1話から貫かれた構成を紐解く

アニメ『葬送のフリーレン』がいよいよ大詰めを迎えつつあるが、巧みな構成に毎週驚いている。

2023年の10月からスタートした本作は、『少年サンデー』で山田鐘人(原作)とアベツカサ(作画)が連載している人気ファンタジー漫画をアニメ化したものだ。

物語は勇者ヒンメル一行が魔王を倒した後から始まる。パーティー解散後、魔法使いのフリーレンは魔法の収集に勤しんでいたが、ヒンメルの葬儀に参列した際に、自分がヒンメルのことを何も知らなかったことに愕然とし、もっと人間のことを知りたいと思うようになる。

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その後、フリーレンは僧侶ハイターの元にいた戦災孤児のフェルンを弟子として引き取り、戦士アイゼンの元にいたシュタルクを仲間に加える。そして、かつて魔王城のあった大陸北端の地・エンデにある死者の魂と対話できる場所・オレオールを目指して旅を続けていた。

ファンタジーRPG(ロールプレイングゲーム)ならエンディングとなる魔王討伐終了後から始まる本作は、長い歳月を生きるエルフのフリーレンと、短い生を生きるフェルンたち人間の、時間に対する意識の違いが物語の核となっている。

印象に残るのが、世界全体を覆う大きな物語が終わった後の静かで寂しい雰囲気。この静けさは感情の起伏が乏しいフリーレンの目に映る世界そのものだが、若者のフェルンやシュタルクも賢くて優秀だが妙に落ち着いていて、どこか達観しているように見える。

だからといって、斜に構えているわけではないという距離感がとても現代的で、だからこそ幅広い層からの支持を集めているのだろう。

また、本作はフリーレン一行が行く先々で様々な人々と出会い事件を解決していく道中記となっている。モンスターや魔族とのバトルが盛り上がる回もあれば、旅先で起きた些細な出来事や、仲間の誕生日を祝う姿を通して描く回もあり、とにかく話のバリエーションが豊富で、緩急の付け方が上手い。

原作漫画は、旅先から届く絵葉書のような作品で、淡々としたトーンで常に描かれており、感情表現やバトルの描写が抑制されているのに対し、アニメ版は、静かで落ち着いたトーンは踏まえつつも、盛り上げるところは大きく盛り上げ、アクションシーンもアニメならではの空間の広がりを感じさせる派手なものとなっている。

番組の構成も1話30分の中で1エピソードを描く時もあれば、AパートとBパートで違う話を描く時もあり、毎週観ていて飽きない。

そして、第18話からはフリーレンとフェルンが一級魔法使いの資格を得るために魔法都市オイサーストで開催される試験に挑む「一級魔法使い選抜試験」編が展開されている。

アニメ版では最長となるこのエピソードは、宮廷魔術師のデンケンを筆頭に、一癖も二癖もあるキャラクターが一気に増え、複雑な人間関係が交差する群像劇に変わりつつある。

資格取得のために様々な魔法使いが登場し、難解な試験に挑戦していく様子は、冨樫義博の少年漫画『HUNTER×HUNTER』のハンター試験を思わせ、手数が無数にある極めて複雑で難解なジャンケンに例えられる魔法使い同士の戦いも『HUNTER×HUNTER』の念能力バトルを彷彿とさせる頭脳戦となっており、少年漫画らしい見せ場が続く本作最大の山場となっている。

この「一級魔法使い試験」編が、第1シーズンのクライマックスとなりそうな『葬送のフリーレン』だが、ここで物語を区切ったことで、作品全体の輪郭がより明確になったと言えるだろう。

第二試験でフリーレンは水鏡の悪魔(シュピーゲル)が作り出した自分自身の複製体と戦うことになる。戦いの中では、エルフの魔法使い・ゼーリエとフリーレンの過去のやりとりが挿入される。

ゼーリエは、大陸最大の統一帝国が魔法の研究と軍事転用を始めたことで、人間の誰もが魔法を使える時代が訪れ、いずれエルフは人間に追い抜かれるだろうと語る。

そして、フリーレンを殺すものがいるとすれば、魔王か人間の魔法使いだと言うのだが、フリーレンの複製体との戦いの中で、弟子のフェルンが複製体を倒す決め手となる姿が描かれ、やがて人間のフェルンが、エルフのフリーレンを超える魔法使いに成長することが暗示されている。

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複製体との戦いが描かれた第25~26話を観た後、改めて第1話を見返すと、フリーレンが幼いフェルンと出会う場面で終わっていたことに驚かされる。

原作漫画の第1話が、勇者ヒンメルの葬儀の場面を経てフリーレンが旅立つ場面で終わるため、フェルンの登場シーンが入る構成に初めは違和感があったのだが、本作は師匠のフリーレンを弟子のフェルンが超えていく姿を通して、エルフを人間が超えていく物語を本作が描こうとしていたのだと気づき、第1話の構成に納得した。

独立した短編として各話を観ても楽しめる『葬送のフリーレン』だが、2クールまとめて観ると、点と点が繋がり壮大な物語が浮かび上がってくる。実に見事な隙のない構成である。
(文=成馬零一)

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