衣装合わせから役作り開始…中村倫也、サプライズ出演の裏側

3月18日放送の『ブギウギ』(NHK朝ドラ)第117話に俳優・中村倫也がサプライズ出演し、視聴者を沸かせた。朝ドラの終盤には、事前情報なしで「驚きのゲスト」が登場するパターンがしばしばある。

アクの強い演出家・通称「勉さん」を演じる中村倫也 (C)NHK

『おちょやん』(2020年後期)にカメオ出演した天海祐希、最近では『らんまん』(2023年前期)の「語り」を担当しながら物語のキーパーソンとしても出演した宮﨑あおいが記憶に新しい。そして『ブギウギ』には、アクの強い演出家・通称「勉さん」を演じる中村倫也がやってきた。

昭和31年秋、年末の大型番組『オールスター男女歌合戦』に大トリとして出演が決まったスズ子(趣里)は「丸の内テレビ」で打合わせをするのだが、ディレクターの沼袋勉(中村倫也)からある提案をされて驚く。トリ前に新人歌手・水城アユミ(吉柳咲良)の出番をもってきて「新旧対決」をさせたいというのだ。ダジャレを連発しながら豪快に笑い、一瞬にしてその場を自分の空気にしてしまう「勉さん」を演じる中村倫也の魅力について、制作統括の福岡利武さんに聞いた。

■「趣里さんをはじめ、現場は大爆笑でした」

「(中村とは)ずっとご一緒したかった」という福岡さんは、その演技に惚れ込んでの起用についてこう振りかえる。「柔らかい役から堅い役まで、ずば抜けた説得力を持たせながら、何でも演じ分けられる役者さんという印象を持っていました。足立紳さんが書き上げた台本の『勉さん』の箇所を一読して、『これはクセが強いぞ』と思い、中村さんにお願いしたら面白いのではないかとオファーさせていただきました。ありがたいことに、ご本人もとても乗り気で『ぜひやらせてください』とおっしゃってくださいまして」。

また福岡さんは、「もともと『押し出しの強い人』という設定なのですが、我々の想像をはるかに超える押し出しの強さと『クセの強さ』をパワフルに演じていただけました。いろいろと演技プランを考えてくださったようで、リハーサルのときに誰もがのけぞるぐらいの大声でやっていただいて、本番ではやや抑えていただいたほど。趣里さんをはじめ、現場は大爆笑でした」と、撮影現場を振りかえる。

「やはり『声が大きすぎる』というだけで『この人は相当変わった人だな』というのがわかりますよね。ダジャレを連発するところも、そのダジャレの面白みがわかっている人でなければ面白くならない。そういった意味でも、役柄を深く理解される中村さんのお芝居の巧さが光ったのではないかと」と、中村による「勉さん」の役作りについて絶賛した。

年末の「オールスター男女歌合戦」のオファーを受けるスズ子(趣里)(C)NHK

■ 勉さんってもしかしてあの人?「敬意を込めて」

ところで「丸の内テレビ」は、年末に大型歌番組を放送するNHKにとてもよく似た架空のテレビ局だが、その局員ディレクター「勉さん」・・・となると、昭和世代なら知る人も多い元NHKの名物演出家・和田勉さんの名前がついつい浮かぶ。やはり意識したのだろうか。

福岡さんは、「すでに『勉さん』と言っちゃってますものね(笑)。結果としてサングラスや髪型など、扮装もなんとなく引っ張られるかたちとなってしまいましたが。敬意を込めてやらせていただいております」と説明した。

■ 孫の手を選んで…衣装合わせから始まっていた役作り

さらに、衣装合わせの段階から始まっていた中村の「役作り」についても振りかえり、「衣装スタッフが用意したもののなかから、打ち合わせをしながら中村さんのイメージに合うものを選んでいただいて、あのスタイルになりました。やはり演じるのが中村さんなので、ともすればシュッとしてしまう。髪型もああいう感じでサングラスをして、『胡散臭さ』みたいなものを足しました」とコメント。

「『手に何か持ったほうがいい』という話になり、用意した小物のなかから中村さんが『これいいな』と孫の手を選んで、出来上がったシーンでは『この人、長年ずっと持ってるんだろうな』というぐらい、自然に使いこなして演じていただけました」と語った。

今週のどこかで、ほかにも「勉さん」の出演シーンはあるとのこと。「押し出しの強い」昭和のディレクター・勉さんの活躍を楽しみに待ちたい。

取材・文/佐野華英

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