「えっ、今年まとめて払うんじゃ?」世間話で発覚した譲渡所得の申告漏れ…数百万円の過少申告加算税+延滞利息に顔面蒼白「とにかく急いで!」爆速修正申告の顛末

(※写真はイメージです/PIXTA)

ある土地持ち農家の出身の女性が、多額の税金に耐え切れず、土地を売却して整理することを決意。無事に売却が決まりましたが、その後、土地の譲渡所得が申告されていないことが発覚し…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

相続した土地「売却して納税」の発想がなく…

60代の専業主婦の武田さんが相談に見えました。武田さんは土地持ちの農家の出身です。15年前に母親が亡くなり、そのときの相続税およそ1億円は、銀行融資を受けて支払いました。母親より前に亡くなっている父親は、相続税対策として、所有地にマンションや貸店舗を建て不動産賃貸業をしてきましたが、立地がよいことから、かなりの税金がかかっています。

武田さんは農家の子として育ったことから「土地は維持すべきもの」という意識が強く、「土地を売却して納税」という発想に至らず、相続税は全額、銀行の借り入れで調達し、返済原資は、相続した賃貸マンションや貸店舗の家賃収入を充てていました。

「相続した土地を手放すことなく、ずっと維持してきたのですが、賃貸収入は一定でなく、かなり苦労しています…」

相続している土地の一部は農地でしたが、武田さんは農業を営んでおらず、自家消費程度の野菜を作るだけで赤字です。固定資産税は農地並みの課税で優遇されているため、そこまで負担ではありませんが、農地として維持するには、ある程度の耕作が必要なのです。

「相続したときは、まだ私も50代でした。農地として維持できると思ったのですが、いまはもう大変です。定年退職した夫が一緒に作業をしてくれますが、同年代ですし、これから先は不安で…」

武田さんには子どもが3人いますが、いずれも家を出て独立しており、農業の手伝いは期待できません。

「子どもたちに同じ苦労をさせるわけにはいきません」

武田さんの相談とは、自分の相続を見越した土地の整理でした。

「いままで土地を維持してきましたが、子どもたちに同じ苦労をさせるわけにはいきません。そろそろ土地を整理しなければと思いまして…」

武田さんの財産は不動産が中心ですが、賃貸事業として稼働しているマンションや貸店舗のほかにも畑や山林があり、それらが不動産の半分を占めています。

畑も、山林も、市街化区域のなかにあり、家が建てられる土地ですが、武田さんはずっと両親がそうしてきたように、畑や山林の状態で維持しており、これから先も活用の予定はないといいます。

そのため、筆者と提携先の税理士は、畑や山林を売却して納税猶予の相続税を納税し、銀行の借入を返済することを提案しました。武田さんもこれから先を考えると、多くの土地を維持するのは大変だと判断し、3カ所の土地を売却することになりました。

無事に売却が決まった3カ所の土地

最初に売却したのは2カ所の山林で、地目のとおり、現地は雑木林です。すぐ隣は住宅ですが、武田さんは相続した状態のまま維持してきたのでした。

2カ所とも広く、整地・造成して区角割しなければ、一般の方には売れません。そのため、すべて建売業者に売却し、武田さんはそのお金で銀行の借り入れを返済しました。

さらには、納税猶予を受けている畑も売却することにしました。まず納税をすませ、その後に農業委員会の買取あっせんなどの手続きを経て、こちらも売却することができました。

売却のタイミングの差で、譲渡所得の申告が2年に及んだ結果…

2カ所の山林はその年のうちに契約が完了しました。3つ目の畑は、納税猶予を解除後の契約となりましたが、同じ会社が購入することとなり、翌年の契約・決済となりました。

このように、3カ所の土地を売却したわけですが、うち2カ所は「年内に契約・決済で、翌年に譲渡所得の申告」、3カ所目は「翌年の契約・決済で、翌々年の譲渡所得の申告」というふうに、2年に分けて申告することになりました。

武田さんは今回の申告について、親の代から付き合いがあり、毎年の確定申告のほか、両親の相続税の申告も依頼した税理士法人へ頼みたいと希望されたので、筆者は、説明書類を作成し、武田さんにも数回にわたって説明したのち、書類をお渡しし、この件は一旦、筆者の手を離れました。

その後時間が経過し、武田さんの3つ目の畑の譲渡所得の申告をすべき年になりました。筆者は武田さんのことをふと思い出し、なんとなく電話を入れてみました。

「ご無沙汰してます、お元気ですか?」

「あら先生、お久しぶり! その節はありがとうございました」

「お変わりありませんか?」

「おかげさまで!」

「譲渡所得の申告、2年続いて大変でしたね」

「え? 今年まとめて払うんじゃありませんでしたっけ…?」

「………!!!」

しばらく世間話をしていたところ、その話の流れのなかで、なんと昨年行うべき譲渡所得の申告・納税がされていないことが判明。税理士法人には山林の売却は伝えていたとのことですが、再確認しても、譲渡所得の申告はされていませんでした。

武田さんは、すべてが終わってからまとめて申告するものだと勘違いをされていましたが、税理士法人なら、契約書を確認すれば一目瞭然のはず…。武田さんによれば、担当者の方は経験が浅く、まだ不慣れな様子だとのこと。そんなことがあるのかと驚きつつ、筆者の事務所で再び引き取ることになりました。

過少申告加算税に延滞利息…修正申告、とにかく急いで!

筆者は提携先の税理士に急ぎ対応してもらい、すぐに修正申告の書類を作成し、武田さんに昨年分の譲渡所得の納税をすませてもらいました。申告期限は昨年の3月15日。それを過ぎている場合は、本税の20%の過少申告加算税が加算され、納税するまでの間の延滞利息も付きます。よって1日でも早く納税する必要がありました。

武田さんが納めるべき譲渡所得は約1,200万円で、過少申告加算税だけでも200万円を超える計算となり、住民税も400万円以上払わなくてはなりません。さらに延滞税、延滞利息が加算されると大きな金額になるのです。

武田さんはもったいない結果になりましたが、筆者は電話をかけて本当によかったと思いました。

このようなトラブルは、残念ですが、まれに起きてしまうこともあります。毎年の確定申告なら、そこまで大きなリスクはないかもしれませんが、土地の売買や相続といった重要な手続きを行う場合は、やはり依頼先に任せきりにするのではなく、ご自身も納税のタイミングや金額等について、しっかり注意を払うことが重要です。

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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