米アカデミー賞に輝いたアニメの「あの鳥」 闇の中で鵜飼の隣にも舞い降りた

 ウミウたちを巧みに操る鵜匠の隣へ、灰色の鳥がさっと舞い降りた。昨夏、京都府宇治市で風物詩の「宇治川の鵜飼」を取材した時のことだ。かがり火に照らされ、闇に浮かび上がったのは1羽のアオサギ。不思議な存在感を放つ姿に引かれ、思わずシャッターを切った。

 水田や川でよく見る身近な鳥だが、実は先日、米アカデミー賞の長編アニメーション賞に輝いた映画「君たちはどう生きるか」(宮崎駿監督)で重要な役を務めていた。主人公の眞人(まひと)を不思議な世界へ案内する、怪しげなキャラクターのモデルになっていたのだ。

 日本では、この鳥にあるイメージがついて回るらしい。「幻像のアオサギが飛ぶよ」(佐原雄二著)によると、近現代の文学で描かれるアオサギは、欧州で「高貴で精悍(せいかん)だが孤独」とみられる一方、日本では「憂鬱(ゆううつ)で不気味」な存在とされる。夜中に妖しく光る青鷺火(あおさぎのひ)のように、江戸期に流行した「妖怪」が影響したと分析されている。

 「君たちは―」のアオサギにも妖怪のような雰囲気が漂う。その正体は人間とサギの姿を行き来する「サギ男」で、性格は狡猾(こうかつ)でうそつき。大きなくちばしの中に人の歯や鼻をのぞかせ、邪悪な笑みを浮かべる様はなんとも不気味だった。

 しかし、物語が進むに連れ、不思議と憎めないキャラにみえてくるのが面白い。眞人と冒険を続けながら助け合い、最後には「友達」と認め合う仲にまでなる。

 宇治川のアオサギはどうだったか。鵜匠に追い払われながらも置物のようにじっと舟に居座り、「おこぼれ」をねだる姿が見物客の笑いを誘っていた。どうやら「魔」に誘う力はなさそうだが、春の訪れとともに、水辺で会える日を楽しみに待っている。

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