「京都大学の森」から掲げる衰退への処方箋 研究者ら「総がかり」のプロジェクト書籍化

研究者と住民が協働し、森と地域の課題を考えた書籍を手にする石原林長(南丹市美山町・京都大芦生研究林事務所)

 京都大学芦生研究林(京都府南丹市美山町)の研究者らが、住民と協働して森や地域の持続可能性を探ったプロジェクトの成果を書籍にまとめた。シカの食害対策やキノコ調査、特産品開発などを、学者の専門的な知見と、地元で引き継がれてきた暮らしの知恵の両輪で進めた記録集で、新しい研究手法の魅力や難しさを伝えている。

 プロジェクトは、研究林のシカ害や地域の林業低迷などから「森と里の衰退は互いにつながっている」と危機感を深めた同研究林の教員らが主導。学者を含む関係者が総がかりになって社会的な課題の解決法を探る「超学際研究」として、2018~21年に研究林や芦生集落で行った。

 書籍「『大学の森』が見た森と里の再生学」は、プロジェクトで行った七つの取り組みを、それぞれ担当した研究者が分かりやすい文章で紹介している。

 きのこの分布調査を自然ガイドと一緒に実施した生態学者は、林内を日々歩くガイドの目が希少種の発見に貢献し、ガイドの知識も増えたと、プロジェクトの意義を説いた。

 経営学者は「葉わさびの醤(しょう)油(ゆ)漬け」作りで、住民に高付加価値化を助言。商品開発と一体的に進め、芦生のブランド力を研究したアンケートと共に記している。

 ほかにもトチの実拾いと樹木保全の両立を目指した研究林と地元のルール作り、猟師と手を組んだシカ対策なども紹介している。

 同研究林の石原正恵林長は「学者とは異なる知の体系を持つ地元の方々から、多くを教わった。他地域での実践に役立ててもらいたい」と話す。

 京都大学学術出版会刊。A5判、420ページ。3960円。

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