岩井明愛、千怜姉妹を育てた永井哲二コーチ 「二人はこのまま突き抜ける」前編

今や女子ゴルフ界の顔になりつつある岩井明愛千怜姉妹が腕を磨いた場所が、埼玉県入間郡毛呂山町にあるゴルフ練習場「リンクスゴルフクラブ」。

二人は同練習場に所属している永井哲二氏のレッスンを小学2年生から受けてきており、その師弟関係は今も続いている。

岩井姉妹の成長を約15年もの間見守ってきた永井氏に、出会いからジュニア時代の様子、プロになってからの二人の活躍について話を聞いた。

◆プロになる直前までスクールに通った岩井姉妹 永井氏が2人のプロ入り前に直面した笑えない状況とは……

■顔がそっくりな小さくてかわいい女の子

まず永井氏は、二人がジュニア時代からよく使用している2階の打席へ案内してくれた。

「有名になってからは二人が練習していると、お客さんたちが見にくる。僕がいればレッスンしながら二人のガードマンにもなれるから、打席をどこにするかはあまり気にしなくていいんだけど、僕が二人の相手をできない時は、よくこの奥の方の打席を使っていたかな」

岩井姉妹は小学1年生の頃から、リンクスゴルフクラブに父子で練習に来ていた。

「ほんとうにアキちゃんもチーちゃんも小さくてかわいかったの。二人とも顔がそっくりで」

永井氏は明愛のことをアキちゃん、千怜のことをチーちゃんと呼ぶ。2階の打席からクラブハウスに戻ってくると、約15年前の出会った頃のことから話してくれた。

「ジュニアゴルファーにスポットをあてた番組のオーディションを受けてみませんか?ってお父さんに声をかけたのが始まりだったかな」

そこから岩井親子とコミュニケーションを取るようになったようだ。

そして二人が小学2年生の時に、新潟のジュニア大会参加への導きがあるなどした後、同学年から永井氏が開講しているヨネックスジュニアゴルフアカデミーに入校し、レッスンを受けるようになった。

ちなみに、その新潟のジュニア大会には、お父さんが一人でキャディをしなければならないため二人同組で、という要望が了承されたため出場。二人とも小学低学年の距離設定で120~30ぐらいのスコアだった。

岩井明愛、千怜がジュニア時代からよく練習していた打席(撮影:野洲明)

■小学校中学年まではいたって普通のジュニアゴルファー

リンクスゴルフクラブでは、小学生はボール代が無料で、中学生以降もジュニアゴルフアカデミーの生徒であればボール代は無料。

永井氏のレッスンを受けるようになってから、岩井姉妹は週1回のレッスンに加えて、週2~3回の自主練習に通うようになった。

このような感じで永井氏と二人の師弟関係はスタートした。20歳前後でプロゴルフ界で名を馳せる選手というのは、ゴルフを始めた時からすごい才能を発揮しているケースが少なくないが、岩井姉妹の場合はそのケースには当てはまらないらしい。

岩井姉妹は、小学校中学年ぐらいまでは他のジュニアゴルファーと差はあまりなかったようで、高学年になってから能力が開花し始めた。中学生になってから一気に成長し、結果を出し始めたようだ。

「最初に大きな結果を出したのはチーちゃん。小学6年生の時に全国大会まで進んだ。全国小学生ゴルフ大会だったかな。そこからは、ほんとに二人がライバルとして勝ったり負けたりしながら成長していった感じ」

■取り組む姿勢で引っ張る千怜とプレーで引っ張る明愛

中学時代は二人とも陸上部に所属し、好成績をあげる。明愛はサッカーにも取り組んだ。もちろん、ゴルフも並行して精力的に取り組んでいた。

二人ともアスリートとして高いポテンシャルを発揮していたが、その資質は明愛の方が上だった。

一方、ゴルフに対して取り組む姿勢については、千怜の方が引っぱっていくタイプで、明愛の気持ちが入っていない練習態度を見て「そんなのでどうするの!」などと檄を飛ばすこともあったらしい。

ゴルフのプレーで引っ張る明愛と、精神的な面で引っ張る千怜。この頃の二人は、エースとキャプテンのような関係性で互いを高め合いながら練習に励んでいたようだ。

そして高校進学にあたり、陸上競技やサッカーも選択肢に入る中、ゴルフに絞っていく方針を固める。それも「二人でプロ」さらに、「二人で米ツアー」を目標に掲げて。

■思春期にはちょっとした親子のトラブルも

練習していてやる気が感じられなかったりすると、よくお父さんに怒られていたようだ。永井氏は「どうしてもだらけてしまう時期があるから、その時は親が厳しく接して引っ張っていく必要があるんだな、と岩井親子を見ていて思う」と語る。

とはいえ、厳しく接するが故のハプニングも。中学2年生のある日、お父さんに怒られた千怜が、泣きながらキャディバッグを背負いクラブハウスを飛び出し、それを聞いたお父さんが慌てて車で千怜を追いかけていったところ、かなりの距離を自宅方向に進んでいた、ということがあったらしい。

これも今となっては、気持ちの強さや基礎体力の強さを表す一つのエピソードだろう。

千怜がキャディバッグかついで泣きながら歩いて帰ろうとした道(撮影:野洲明)

■練習終了後、打席から一礼

時に厳しく接するお父さんの教育や、二人が切磋琢磨していく中で礼儀礼節の心も育っていき、今でも練習終了後、打席からフィールドに向かって一礼しているという。

それを見たジュニアの中には岩井姉妹の真似をして、練習終了後一礼してから帰るようになった子もいるらしい。さらに一般客の中にも一礼するようになった人がいるとのこと。

アットホームな練習場の雰囲気が、こういったところからも伝わってくる。

■プロになるまでスクールに入っていた

「プロになるまでスクールに入っていたよ。最終プロテストに向かう日の前日もスクールに来て、‟明日からいってきま~す”なんて言いながら帰っていった」

永井氏は、今や女子ゴルフ界の顔とも言える存在となった二人が、たった3、4年前までジュニアスクールで普通にレッスンを受けていた時の状況を、そのように笑いながら話す。

だが、2021年の最終プロテスト当時は笑えない状況にあった。

というのも、明愛の方は日本女子オープンでローアマを獲得したことで、この最終からのエントリー。一方、千怜は一次予選からの挑戦で、一次予選はトップ通過だったものの、二次予選はカットラインまでわずか3打という成績での通過だった。4日間であと4打悪ければ最終に進めていなかったのだ。

「どっちかが受かってどっちかが落ちたらどうしよう。アキちゃんは最近の調子から見ても大丈夫だろうけど、チーちゃんだけ落ちるようなことがあれば、さすがにかける言葉がないな、って思ってた」

それもそのはずである。プロテストは年に1度しかない(コロナ禍のこの年は、未開催だった前年分が繰り越しとなり2回開催)。落ちれば次のプロテストは来年である。

プロテストに合格しなければツアー予選会(QT)に出場できない。当然実力があってもツアーへ出場することができない。

小学2年生から指導してきた二人の立ち位置に、ここで開きが出ることを想像すると辛かった。

アマチュアの大会では成績が悪くても「次に向けて」と言える。だが、合格者たちが「もう二度と出たくない」と口をそろえるほどプロテストは過酷で、落ちた時に周囲は容易に「次!」とは言えない。

もしかしたら二人よりも永井氏の方がプレッシャーを感じて最終プロテストの4日間を過ごしていたかもしれない。

■プロになっても続く、勝ったり負けたり

永井氏の心配は杞憂に終わり、二人は一緒に合格した。それも余裕を持って。

プロテスト合格年の2021年、千怜が先にステップアップツアーで優勝した。すると、オープンウィークを挟み、今度は明愛が優勝。姉妹で2大会連続優勝を飾った。

レギュラーツアーのルーキーイヤーとなった2022年は千怜が2勝をあげ躍進。2023年は千怜の2勝を超える3勝をあげた明愛が年間女王争いに加わるほどの活躍を見せた。

このように、プロ入り後も、二人はライバルとして勝ったり負けたりしながら成長し続けている。

近い将来、主戦場を米ツアーに移してもそんな感じで‟世界のIWAI”に向けた階段を上り続けているのではないだろうか。

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著者プロフィール

野洲明●ゴルフ活動家

各種スポーツメディアに寄稿、ゴルフ情報サイトも運営する。より深くプロゴルフを楽しむためのデータを活用した記事、多くのゴルファーを見てきた経験や科学的根拠をもとにした論理的なハウツー系記事などを中心に執筆。ゴルフリテラシーを高める情報を発信している。ラジオドラマ脚本執筆歴もあり。

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