東京文化会館 2024年度 主催事業ラインアップ 野平一郎 etc 会見レポ

東京文化会館は多彩に事業を展開。舞台芸術の創造、幅広い層への芸術普及、専門人材の育成を行ってきた。もちろん、この柱は変わらないが、2024年度の新たな取り組みとして11月下旬から12月にかけて野平一郎プロデュースによる「フェスティヴァル・ランタンポレル」を開催する。
東京文化会館の音楽監督・野平一郎、猪俣聖人副館長、梶奈生子事業企画課長、大橋昭則営業推進担当課長が会見に臨み、`24年度の主催事業の発表及び説明を行なった。

`24年度の新しい取り組み、野平一郎プロデュースによる「フェスティヴァル・ランタンポレル」、11月27日~12月1日に開催。これは注目すべきプロジェクト。ベートーヴェン&フィリップ・マヌリ(※1)、シューベルト&ヘルムート・ラッヘンマン(※2)という組み合わせ、また無声映画と電子音楽のコラボレーション、コンサートやマスタークラス、レクチャーなどで現代音楽を存分に楽しめるプログラム、フランス・ニームのレ・ヴォルク音楽祭や、フランス・パリのIRCAM(フランス国立音響音楽研究所)と連携して行われる。「現代と古典の音楽がクロスオーバーする」というコンセプトはレ・ヴォルク音楽祭に倣っている。
無声映画と電子音楽のコラボレーションでは「IRCAMシネマ『狂った一頁』(※3) ~ポンピドゥー・センターと衣笠貞之助監督の歴史的無声映画のコラボレーション~」。

また、日本の若手実力派ピアニスト、阪田知樹と務川慧悟、それぞれ、個性的なプログラムを披露(11月28日、11月30日)。フォルテピアノでの演奏も予定。音楽監督・野平一郎は「現代音楽の世界では専門化が進み、イベントもこの分野に強く関心がある人に向けたものが中心になっている」と語り、「一般の方々にも興味を持ってもらえる方法はないか、と考えてきた…“ランタンポレル”はフランス語で『時代を超えた』という意味です。今回のフェスティヴァルは、その名を体現するようなラインナップに。現代音楽に関しては解説を付けて、『何を聴いたらよいか』をわかるよう工夫をします。古典音楽についても、何万回と演奏されてきた名作をただ演奏するのではなく、一味違う取り組みができれば。どんな現代音楽をどう聴けばいいのかをお伝えして、皆さんに興味を持ってもらいたい」と意欲を語った。

また古典音楽についてもただ演奏するだけでなく、「一味違う取り組みを」とコメント。なお、「舞台芸術創造事業」では、シューベルトの歌曲集をモノ・オペラに仕立て上げた新しい舞台作品、歌劇『シューベルト 水車屋の美しい娘』を上演、22回目を迎える「東京音楽コンクール」は、弦楽・金管・声楽の3部門で開催。入賞者には「上野 de クラシック」「東京文化会館オペラBOX」など、同館の主催事業に出演する機会が提供される。
2021 年度から始まった「シアター・デビュー・プログラム」では、2作品を上演。4年目となる2024年度は、小学生向けに『木のこと The TREE』を 7 月 12・13 日に、中学・高校生向けに「平 常×萩原麻未『ロミオとジュリエット』」を 2025年1月31日・2月1日に上演。
『木のこと The TREE』はペヤンヌマキ(脚本・演出)と林正樹(音楽監督・作編曲・ピアノ)、演劇とジャズのコラボ。果てしなく生き抜いてきた大木をめぐる物語、語りや会話(出演:南果歩 他)、音楽(作編曲:林正樹)、舞踏(我妻恵美)で表現する。
「平常×萩原麻未『ロミオとジュリエット』」は平常(脚本・演出・人形操演)と宮田大(音楽構成・選曲)による新作、人形劇俳優の平常とチェリストの宮田大が、それぞれ脚本・演出・人形操演、音楽構成・選曲を担う。日本、フランスを中心に、スイス、ドイツ、イタリア、ベネズエラ、ベトナムなどでソリスト、室内楽奏者として演奏活動を行っているピアニストの萩原麻未を迎えて、新しい『ロミオとジュリエット』を立ち上げる。
すっかり定番化した「夏休み子ども音楽会」、「3歳からの楽しいクラシック」、世代や障がいをこえてあらゆる人が楽しめる「リラックス・パフォーマンス」も開催。
2024年度のそれぞれの公演の詳細は公式サイトでご確認を。

レ・ヴォルク音楽祭 について
フランス・ニームで毎年12月に開催されているレ・ヴォルク音楽祭は、2020 年に設立された、室内楽 に特化したフェスティバル。毎回 2 名の作曲家(現代音楽作曲家とクラシック作曲家)に焦点を当てた プログラムで構成されている。本フェスティバルのプレジデントは、レ・シエクルの設立者で指揮者の フランソワ=グザヴィエ・ロトであり、芸術監督はレ・シエクルのヴィオラ奏者、キャロル・ロト=ド ファンが務めている。レ・シエクル同様に、ピリオド楽器を用いての演奏も本フェスティバルの特色となっている。
https://www.lesvolquesfestival.fr/

IRCAM(フランス国立音響音楽研究所)
パリにある総合文化施設、ポンピドゥー・センターの関連組織として 1977 年に設立された、音楽表現と科学研究に特化した世界最大級の公的研究機関。当時のフランス大統領ジョルジュ・ポンピドゥーに招かれたピエール・ブーレーズによって創設された。
IRCAM は芸術的感性と科学的イノベーションが出合う場として、創造・研究・伝播という 3 本の柱を軸 に活動を展開している。その内容は、音響技術・情報処理に関わる研究や、テクノロジーを活用した音 楽・映像制作、またアーティストによる創作活動の教育・支援、発表機会の提供など多岐に渡っている。 新たに制作された作品を含む IRCAM の活動の成果は、パリをはじめとしたフランス国内外での演奏会や、 フェスティバルと学際的アカデミーを融合させた「ManiFeste」等で発表されている。また近年では、最 先端の音響研究開発の商業化に取り組む企業を設立するなど、産業分野との連携も深めている。 https://www.ircam.fr/

※1: 現在最も重要なフランスの作曲家の一人で、ライヴ・エレクトロニクス分野における研究者であり先駆者。作品は19歳にしてすでに多くの現代音楽祭において演奏され、1974年にクロード・エルフェにより初演されたピアノ曲『クリプトフォノス』の成功によりその名声は決定的に。IRCAMにて数学者のミラー・パケットとともにインタラクティヴ・ライヴ・エレクトロニクス・システムMAX-MSPを使った研究を行い、1987〜91年に作曲された『Sonus ex machina』シリーズで成果を上げた。(フィリップ・マヌリ オフィシャルサイト(フランス語):http://www.philippemanoury.com)

※2: 1955年から58年までシュトゥットガルト音楽大学にてピアノ、作曲、理論を学び、60年までヴェネツィアでルイジ・ノーノの最初の弟子となり、その後、シュトックハウゼンにも師事。60年代前半からベネツィア・ビエンナーレやダルムシュタット国際現代音楽夏期講習などで作品を発表、60年代後半からはより新しい音楽語法などを見出し、『tem A』(1968)、無伴奏チェロのための『プレッション』(1969)、打楽器奏者とオーケストラのため『エア』(1969)の一連の作品では、斬新な楽器の扱いにより新たな境地を見せ始めた。近年は、その伝統的要素を表すポスト・セリーの語法をはっきりとした形でとりあげている。

※3: 1926年(大正15年)9月に公開された日本のサイレント映画。監督は衣笠貞之助、主演は井上正夫。
衣笠が横光利一や川端康成などの新感覚派の文学者と結成した新感覚派映画聯盟の第1回作品で、日本初の本格的な前衛映画(アヴァンギャルド映画)。精神病院を舞台に、過去の心的外傷で精神を患い入院した妻を見守るために、その病院で小使として働く老人を主人公とする家庭悲劇の物語が、過去と現在、幻想と現実、狂気と正気を交錯させながら展開。1920年代のヨーロッパの前衛映画運動の潮流と呼応する作品。『カリガリ博士』(1920年)などのドイツ表現主義映画や、フランス印象主義映画から強い影響を受けている。
1950年の松竹京都撮影所のフィルム倉庫の火災で焼失したものと思われ、長らく失われた映画と見なされていたが、1971年(昭和46年)に衣笠が偶然自宅でフィルムを発見。

東京文化会館公式サイト:https://www.t-bunka.jp

© 株式会社テイメント