「マーケティングって何をするんですか?」…元・味の素マーケティングマネージャー、さすがの回答

(※写真はイメージです/PIXTA)

「つくれば売れた」時代は過ぎ去り、いまや「絶対に買いたいものはあまりない」時代。従来の考え方で商品を開発し販売しようとしても、かつてのようなヒットを望むことはできません。モノを売るには、今日において求められるマーケティングを考える必要があります。そもそも、マーケティングとは何なのか。中島広数氏の著書『グローバルで通用する「日本式」マーケティング術』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、大前提となる知識を見ていきましょう。

マーケティングとは何か

グローバルマーケティングについて説明する前に、「マーケティングとは何か」について説明します。

私にとっての基本教科書とも言える『マーケティング戦略』(有斐閣アルマ)によると、マーケティング自体は、19世紀末から20世紀初頭にアメリカで生まれています。

広告や販売員管理など既に19世紀末に見られていた部分的マーケティング活動が、20世紀に入り、「ブランド、広告、販売員、流通チャネル、価格などの諸手段を統合的に管理する、総合的営業活動としてのマーケティングとして展開されるようになった」わけですが、1929年の大恐慌によって消費が大きく減退する中、「つくったものを売る」という「プロダクト・アウト」的なマーケティングから、「売れるものをつくる」という「マーケット・イン」的なマーケティングへと大きく変化します。

結果、マーケティングに対する考え方が大きく変化し、製品計画としてのマーチャンダイジング概念がマーケティングの中核に据えられ、その流れの中、1930年代には消費者のニーズを探るマーケティング・リサーチが発展します。そして第二次世界大戦後の技術革新の中、巨額の投下資本の回収と、大量生産製品の大量販売という責務を果たしていくために、生産だけでなく、財務や人事など、あらゆる企業活動を計画し、組織し、統制する基礎として「マネジリアル・マーケティング」へと自己革新を遂げ、今日に至っていると、『マーケティング戦略』には述べられています。

以上が教科書的な「マーケティングとは」という解説ですが、私自身は今日のマーケティングについて次のように定義しています。

「社会に存在する顕在ニーズや潜在ウォンツ・社会課題を汲み取り、その解決策としての商品やサービスを提供することによって、対価としての売上・利益を継続的にいただける仕組みをつくること」

「Marketing」という言葉自体、「Market+ing」なので、本来、市場創造とか需要創造がマーケティングの役割であり、しばしば誤解されがちな、ただ格好いい広告をつくるとか、デジタルで運用する、最適化するといった、それだけを指す言葉ではないというのが私の考え方です。

昨今、「デジタルマーケター」という言葉もよく聞くようになりましたが、本来、広義のマーケティングというのは、単なる「デジタルなどを巧みに使っていかに売るか」ではなく、「アイデア創出・コンセプト企画・プロダクト開発」を統合するものであり、原料調達・工業化、生産・物流、営業企画、広告・販促、PRなどさまざまな部門と連携した活動の結果、「商品」というアウトプットをお客さまに届けるフロー全体を指す概念なのです【図表】。

この活動全体を称して「バリューチェーン」と呼びますが、チェーン全体の流れが良ければ素晴らしいアウトプットが出来上がりますし、流れが悪ければ滞ったり、途中で詰まったり、ロス(機会損失)も出ることになります。バリューチェーンマネジメントにおいては、仕事の流れを整えて、まるで大河のようにゆっくりと流れ続けるフローをつくる、即ち「整流化」がとても大切になります。

【図表】Marketing=バリューチェーン創造活動 出所:中島広数著『グローバルで通用する「日本式」マーケティング』(日本能率協会マネジメントセンター)

「つくれば売れた」時代は過ぎ去り、顧客はハンターになった

もちろん最初はマーケティングがこれほど広いものであると考えられていたわけではありません。日本にマーケティングという概念が紹介された1970年代には、日本が高度成長期を経てようやく豊かになりはじめたということもあって、世の中全体に満たされないマスのニーズがあり、最初に説明したようなプロダクト・アウト型の商品開発でもある程度はヒット商品をつくることができました。

「つくれば売れた」時代は、マーケティングも「いかに売るか」を考えていれば良かった時代と言えます。しかし、今日のように日本の市場が成熟化して、「絶対に買いたいものはあまりない」時代に入ると、かつてのような画一的なマスの需要を期待することはできず、市場は細分化され、競合はさらに厳しさを増すことになります。花王が提唱した「スモールマス」という考え方があります。

「スモールマス」というのは、従来のマスよりも小さいマス(=スモールマス)に焦点を当てた考え方ですが、その背景にあるのはライフスタイルの変化などにより消費者の興味やニーズが多様になり、かつてよりも小さな、そしてたくさんのマスが生まれてきたという事情があります。こうしたスモールマスに対して、かつてのマス市場を対象とした考え方で商品を開発し販売しようとしても、かつてのようなヒットを望むことはできません。

さらにインターネットなどの普及により、消費者がかつてとは比較にならないほどのたくさんの情報を手にする(フィリップ・コトラーは「顧客はハンターになった」と表現しています)ようになったことで、従来のやり方では「この商品はあなたに向けたものである」が伝わりにくくなったのも事実です。

つまり、企業活動とマーケティング活動の関係性に変化はないものの、今日においてはマーケティングには従来とは異なる新しい商品企画・マーケティングプランニングの手法が求められるようになっています。

イノベーションは「部外者」が起こす

さらにマーケティングを取り巻く環境の変化として顕著なのが、競合環境・市場環境・技術進化のスピードが目まぐるしい、ことです。

イノベーションはしばしば外から来た部外者が起こすことが多いというのはよく言われることですが、たとえば、テスラのCEОイーロン・マスクが電気自動車の『ロードスター』や『モデルS』『モデル3』などをつくったことにより、トヨタ自動車をはじめとする大手自動車メーカーはガソリン車から電気自動車へのシフトを大急ぎで進めざるを得なくなっています。

これほど大きな変化でなくとも、たとえばシャンプーの『Botanist』がデジタル市場での成功を経て、一気にオフライン市場での販売も拡大したことを受け、業界のガリバーだった資生堂や花王の牙城が脅かされるという現象も起きています。

ほかにもかつてビール業界は「ビール 対 新ジャンルビール」という戦いさえ想定しておけば良かったわけですが、最近では、そこにハイボールが加わったことで「ビール 対 ハイボール」というカテゴリー外の競合まで生まれています。

こう見てくると、マーケティング活動のセオリーに関して本質的な変化こそないものの、それまで想定していなかったライバルが業界の外から突然登場したり、デジタル化がマーケティング戦略の立て方を大きく変えるといった変化が起きているのも事実なのです。

そしてこうしたデジタル化の進展が大きな影響を与えているのがグローバルマーケティングとなります。次回記事では、歴史とともにその変化を見ていきます。

中島 広数

freebee株式会社 代表取締役

元・味の素マーケティングマネージャー

1998年から2018年まで味の素株式会社にて海外事業・海外営業・国内外マーケティング業務に従事(中国に4年間、タイに2年間の駐在経験有り)。2011年には「Cook Do」事業担当となり、5年間の担当期間中に「Cook Do きょうの大皿」の事業開発を含めたロングセラーブランドのリ・ブランディングによる大幅事業拡大を手がけた。

2018年に味の素社を卒業し、事業コンサルティング・新事業/新商品開発・マーケター人材育成を主業務とするfreebee株式会社を創業・代表取締役に就任。現在6期目。日本語・英語・中国語・広東語の4ヵ国語話者。

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