「打球がまず来ない」「そのうち“打ってくれる”は大間違い」センバツ開幕、新基準の“飛ばない”バットで求められる戦い方とは?

延長タイブレークまでもつれた開幕戦は八戸学院光星が5-3で関東一に競り勝った。

「あんまりヒットは続かないだろうなと。連打連打っていうような試合展開やそのうち打ってくれるやろうと思ったら大間違いだなっていうのを頭に入れて戦っていました」

八戸学院光星の仲井宗基は試合をそう振り返った。

低反発の新基準バットが導入された今大会。本塁打が減る、いつものバッティングができないなどの評判が囁かれたが、そのなかでチームに求められたのは戦い方だった。

やはり、最初の試合の印象は点差がつきにくいということだった。

8回裏に関東一の3番打者・越後駿祐まで長打が一本も出ないという試合展開でバットの影響をもろに感じた。これまでなら外野の間を抜けたり、頭を越えていたような打球が伸びを欠き、接戦を演出していた。

関東一が5回裏に1点を先制。試合を優位に進めたが、攻撃力が武器の八戸学院光星が反撃に出る展開も、なかなか追いつくことはできなかった。今まで通りではない一方、両者が考えなければいけなかったのはどう守り、どう得点をあげていくかだった。

攻撃に関していうと、関東一はもともとつなぎを身上とするチームだった。単打と足を絡めて得点を重ねていく。これまでもそうだったし、昨秋の神宮大会2回戦で大阪桐蔭を破ったのも力でねじ伏せたわけではなく、投手の足元に狙いを定めて打ち返していくようなスタイルだった。

1点の先制は盗塁を絡めてのものだったし、それ以外にもバントやエンドラン、セーフティスクイズをするなどの多彩な攻めで試合の主導権をにぎりにかかっていた。それはいつもの関東一の野球だった。

一方で、ディフェンス面においては、関東一の意図は大きく感じられた。例えば、走者を二塁に置いた場面で、必ずといっていいほど関東一の右翼手・成井聡は前目のポジションをとった。これは新基準バットを意識しての新しい守り方だ。

成井が話す。

「バットが変わっているので、打球がまず来ないっていうのを頭に入れました。だから、ランナーが二塁にいる時は練習試合の時から今まで以上に前にポジションを取るようにしています。今日もそのポジショニングで防げたと思う」 7回表、1死二塁から右翼前安打を浴びたが、成井が猛チャージをみせたことにより二塁走者は三塁で止まった。その後、満塁となって右翼安打を浴びて1点を失ったものの、ここでも成井が猛 チャージと好返球で二塁走者を本塁でアウトにして逆転を許さなかったのだ。一気に畳み掛けられてもおかしくない場面だっただけに、新しいバットにおける守り方の重要性を感じたものだった。
とはいえ、関東一はリードするものの突き放せないでいると試合はもつれて延長タイブレーク。延長10回裏、関東一は1死満塁のサヨナラの好機を迎えたが、八戸学院光星の2番手左腕・岡本が延長から登板という難しいマウンドながら、2人をきっちり抑えて見事な火消し。11回表、関東一の三塁手・高橋徹平の悪送球などで3失点。そうして試合は光星学院が制した。

関東一からすればなかなか突き放せなかったし、八戸学院光星も延長戦タイブレークになるまで持ち前の一気に畳み掛ける打撃を見せることはできなかった。新しい基準のバットでは試合の差がつきにくく、難しい試合展開だった。

差がつきにくいからこそ、あと一歩での粘りがものをいったのだろう。

仲井監督は試合の勝因をこう話している。

「先発した洗平は、調子は良くなかったですが、チームとして大崩れしなかった。しっかり粘れたというところが勝因になったのかなと思います。洗平の交代のタイミングは迷ったんですけど、こっちにきてから2番手の岡本の方が調子が良くて、(延長戦は)岡本しかないかなと思いました。粘り強く投げてくれた」。

大会前から「飛ばない」と騒がれた中で、どのように戦っていくのかを開幕戦が問いかけた試合だった。入学時から使用していたものと違う道具に対応していくわけだから、選手にも戸惑いがあるだろう。ただ、新バットでの戦いは始まったばかり。新基準バットの導入は球児の危険回避と試合の面白さの増幅という効果が望めるはず。これからどのような戦いになっていくのか。楽しみになった。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。

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