面接で頻出「一番苦労した経験」のベストアンサーは? 実は多くの人が間違っている「エピソード選び」

新卒や転職の就活が盛り上がる春。面接シーズンを迎え、頻出の質問「一番苦労した経験」の答え方に迷う人も多いのではないだろうか。「一番苦労した経験」という質問の意図と、答え方を解説する。

新卒の就活が解禁日を迎え、面接シーズンが到来している。社会人の場合も年度の切り替わりによる異動や退職を目前に控えて求人案件が増加しており、その求人情報を敏感につかんだ求職者が多くの面接に臨んでいる時期であろう。 面接の現場では、多様な質問が投げかけられるが、ポテンシャル採用である新卒採用や、業務実績が少ない若手の転職面接では、あまり具体的な業務経験が問われることはない。 ただ、頻出する人気の質問に「あなたの一番苦労した経験は何か」というものがある。皮肉なことに、この質問にどう答えるか自体、結構苦労するのではないだろうか。今回は、「一番苦労した経験」の答え方について考えていく。

「一番苦労した経験」、この質問の意図は?

なぜ多くの企業は、「一番苦労した経験」を学生や若手社員に問うのだろうか。 理由は簡単で、ビジネス経験がないからである。逆に、ある程度の年次を重ねた転職者の面接ではあまり聞かれることはない。新卒採用や第2新卒採用などで見られる特徴的な質問と見ることができる。 「ビジネス経験=苦労した経験」と置き換え、どのように問題を認識し、課題を解決したか、そこをビジネス体験がない、あるいは少ない人に語ってもらうのが、この質問の目的である。 仕事にはトラブルが少ない繰り返しのマニュアル的な仕事もあるが、多くの仕事は顧客から値引きを要求されたり、社内のコスト削減で、これまでできたことができなくなったりするものだ。 つまり、ビジネスとは苦労の連続。その苦労を乗り越える能力や実績を確認したいのである。 新卒や若手の社会人で、まだあまり業務経験が豊富でない人の場合は、具体的な業務での出来事ではなく、日頃の生活の中で該当する出来事を見つけて、面接質問の意図にうまく答える必要がある。

話しがちだが、実は伝えるのが難しい「成長エピソード」

では実際、一番苦労した時の経験を聞かれたとき、どう答えるのが正解なのだろうか。この質問の意図は、ビジネスパーソンとしての素養を確認することである。よってそれ相応の経験のエピソードを選ぶことが先決だ。 ビジネス経験のない学生の場合は、ビジネスと共通点のある話をするのが効果的となる。組織の中でのコミュニケーション、課題や解決、決断、リーダーシップなどである。 組織というのは、授業で参加したフィールドワークのグループ、もちろんサークルや部活でもいい。その組織に社会人がいるような、大学の外部にある組織の課外活動に参加していれば、なおさらいいかもしれない。 どのように課題を認識したか、障害となっていた制約・条件は何だったのか、どのようなステップで問題を解決したか、最終結果はどうなったかなど、具体的に話すことが必要である。 次に若手社員の場合。若手社員の場合は業務経験・実績がまだ少なくても、ビジネスでのエピソードを選ぶのを優先したい。ただ、このエピソード選びが難しい。 仕事を覚えるまでは顧客のニーズに気づけず、何度も相手から叱られ、迷惑もかけた。とても辛い時期で、実質的にこれが一番苦労した経験であったとしよう。 どれだけ顧客に迷惑をかけてきたかというエピソードは若手社員が選びがちで、この話が帰着するのは、顧客に叱られながらも自分が成長し、今では顧客からの信頼を勝ち得たというストーリーであるが、このエピソードで面接官を納得させるのは少々難しい。 仕事を覚えるまでというのがあいまいであるし、どの程度の失敗を繰り返してきたのか、それは周りにいた同年代の若手社員も皆同じ状況だったのか、どのような迷惑をかけたのか、どのくらいの期間、その状態が続いたのか、成長したというが、何がきっかけで、どのくらい、どのように成長できたのか、その点を説得できるように説明しなければならない。 もしその会社の若手社員が経験不足のために顧客に迷惑をかけっぱなしな状態が続いていたのであれば、それはその会社の人材育成の体制や配属自体に問題があったのかもしれず、本人の資質や能力、努力の問題以上に、会社にもいろいろ落ち度がありそうとも思える。 一度失った信頼を取り戻すことは、容易なことではないので、今では顧客の信頼を得ているというが、それが本当なのかも疑わしいと思われるかもしれない。本人が以前よりも仕事を覚え、失敗が減ったというだけの自己満足であるのかもしれない。 他人には本人の成長の軌跡を追うことができないので、「成長」をアピールするのはやや難しいと言わざるを得ない。

「一番苦労した経験」のエピソード選びのコツと伝え方

では、「一番苦労した経験」で何をアピールすべきなのか、エピソード選びのコツは何であろうか。 まず、当たり前だが、他人が聞いたときに「その話、たいした苦労ではないな」と感じさせてしまったら、トピックを選び間違えている。 つまり、「苦労の程度」は「自分のビジネスパーソンとしてのレベル」を表すことになりかねないことを自覚し、慎重にエピソードを選ぶ必要がある。 とはいえ、ハードなエピソードを選んだからといって「もう安心」ではなく、本当にそんなことがあったのか、説得力のある伝え方をしなければならない。 顧客との値段交渉で、3割カットしてほしいといわれたエピソードを選んだとしよう。確かに価格交渉ではこれ以上ないくらい厳しい要求ではあるが、そもそもそんな値引きができる余地があるのか、そんなに利幅が大きいのか、話を聞いている側は疑問に思うことだろう。 いろいろ話し合って、最終的に1割カットで顧客に勘弁してもらったというのがこの話の結論だったとして、ハードネゴをかわすことができたと胸を張るには、交渉の過程でどのような工夫をしたのか、もっと掘り下げて話をしないことにはアピールにはならない。 例えば、仕入れ先から買った商品を顧客に売る際に、新たにどのような付加価値をつけることができるか、その部分を顧客と深く話し合った、最終的に1次加工と物流の部分も任せてもらうことになり、その結果、顧客の求める値引きも実現し、そこで減った利益を他の付加価値のあるサービスで埋め合わせし、最終的にはトータルで利益率アップにつなげたというような現実的なプロセスを話すのだ。 このように、自分の試行錯誤からどのような変化を起こしたか、最終的にどのように課題を克服したか、そのプロセスを説明しやすいエピソードを選ぶと、説得力のあるアピールになるだろう。 簡単なトラブルより、難しいトラブルを解決したエピソードを伝えたほうが、あなた自身の総合力の評価アップにつながることもある。必ずしも自分ですべて解決したエピソードでなくてもいい。 その場合、自分がどのような役割を果たしたか、自分の貢献はどこにあったかを明示して、自分の創意工夫のポイントをアピールしたいところだ。 (文:小松 俊明(転職のノウハウ・外資転職ガイド))

© 株式会社オールアバウト