【ミャンマー】通貨安、取り締まりに警戒感[金融] 実勢相場の取引「継続も注意」

ヤンゴンの両替商=18日、ミャンマー(NNA)

ミャンマーの現地通貨チャット安の進行を受け、市中の両替業者が国軍による取り締まり強化を警戒している。実勢レートは18日時点で1米ドル(約149円)=3,700チャット前後で推移している。軍事政権が統制を一段と強めようとしている中、最大都市ヤンゴンの両替業者の関係者は「取引を継続しているが、密告が怖く注意しなければならない」と話した。【小故島弘善】

18日に市内の両替商を巡ると、店舗での米ドルの買値は1米ドル=3,670~3,680チャットだった。売値は3,700チャット台前半で、「米ドルを売りたい人にとってはこれまでにない良いレート」(両替業者の関係者)だ。3年以上前のクーデター後に通貨安が進み、2022年8月や23年8月に1米ドル=4,000チャット近くに迫ったことがあるが、チャットの実際の取引相場は「今が(事実上の)過去最安値水準」(同)という。

チャット相場の上昇につながる要素が乏しく、市民の間では今後も通貨安が進むとの見方が大勢を占める。ただ、軍政が公式発表で「違法」としながら黙認してきた実勢レートでの取引への取り締まりが強化されており、両替業者には事業継続できなくなることへの不安が付きまとう。

別の両替業関係者は、米ドルの取引を当面見合わせることを決めた。軍政下のミャンマー中央銀行がここ数日、両替業者の事業免許の取り消しを相次ぎ発表しているためだ。この業者は、これまでも通貨安が進んだ際に取り締まりが強化されて取引停止を余儀なくされた経験を持つ。店頭に表示している見せかけの相場は中銀が固定する1米ドル=2,100チャット(変動は上下0.3%以内)。信頼できる客に限定して実際のレートを口頭などで伝えている。

業者が恐れるのは客を装った密告者。通報されれば事業停止となる恐れがある。「昨年のチャット安が進行した際に取引を拒否された」(30代男性)市民もおり、社会に疑心暗鬼が広がれば、売買が鈍ってしまう。

ヤンゴン中心部の金販売店の様子=18日、ミャンマー(NNA)

■情報・価格の統制図る

中銀は先週、実勢レートや金相場などを発信している15の交流サイト(SNS)ページなどを名指しで「虚偽情報を流している」と非難した。情報統制を強めていく姿勢は各ページの運営者を萎縮させ、情報発信を一時停止する向きも出ている。

軍政の許容範囲は曖昧な点があるが、これまでは1米ドル=4,000チャットに迫ると取り締まりを強化していた。中銀は実勢レートを「違法」としつつ、妥協点として3,300チャット台後半での取引を認めている。

一方、中銀が設定するレートは市中の小売店などで販売される各商品価格には反映されていない。輸入に依存する燃油や食用油に限らず、資金の逃避先である不動産や自動車、金などの価格も実勢レートに左右される。

物価は上昇し続けており、軍政は価格統制に躍起になっている。商品を取り扱う業者に「公式」なレートを適用した価格設定を求めるが、市場原理に逆らう干渉は効果を発揮していない。

ヤンゴン中心部にある金販売店の店員は「重量ごとの価格を伝えることができない」と話した。軍政の圧力によって「適正価格」での取引を求められているためだ。ただ、実勢レートを基準にした価格で販売しており、売買する市民の間でもこれが当然とされている。

直近の通貨安は、軍政が4月から実施するとする徴兵を逃れるために外貨需要が高まっていることや、紛争の激化でチャットを信用しない人が増えていることなどが背景にある。国軍は徴兵制の導入により、少数民族武装勢力や民主派武装組織「国民防衛隊(PDF)」などに対抗するための人員を補充しようとしているが、経済の混乱を招く失策となる可能性がある。

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