北朝鮮の13歳少女に「緩慢な処刑」の残酷な日々

ニューヨークに本部を置く国際人権団体「ヒューマン·ライツ·ウォッチ」は今月7日、新型コロナウイルスの世界的流行に際し、より悪化した北朝鮮の人権状況を調査分析した報告書「銃弾より強い恐怖;北朝鮮の閉鎖(A Sense of Terror Stronger than a Bullet:The Closing of North Korea)2018-2023」を公開した。

さらにこの期間、北朝鮮は防疫対策を理由に人々に対する統制を強化。特に、密輸に頼って生計を立てていた国境沿いの住民たちは大きなダメージを受けた。

北朝鮮・咸鏡北道(ハムギョンブクト)穏城(オンソン)郡は、豆満江を挟んだ対岸に、中国吉林省延辺朝鮮族自治州の図們市がある。同郡に暮らしていた40代男性と13歳の娘が2021年3月、脱北を図った。

この男性は、国境地域に住む他の人々同様に、月に1〜2度、川を渡って中朝を行き来する密輸で生計を立ててきた。ところが、そんな暮らしは国のコロナ対策であっという間に崩れてしまった。

北朝鮮政府は2020年1月、新型コロナウイルスの国内流入を防ぐため国境を封鎖し、貿易を停止、国境警備を今まで以上に強化した。下手に密輸に手を出すと、最悪の場合は処刑されかねない状況で、父子はたちまち生活苦に直面した。

にっちもさっちも行かなくなった男性は、脱北という重大な決断を下した。家を出たのは今月1日のこと。娘には、国境の川のそばに特定の場所に身を潜めて待っているから、午後6時までにそこにやってこいと伝えた。

娘は言われたとおりに川に向かったが、国境近辺は緩衝地帯で、許可なく近づけば無条件で銃撃するとの警告がなされていた。案の定、国境警備隊に捕まってしまった彼女は、「どこに行くのか」と詰問され、恐怖のあまり正直に答えてしまった。

「お父さんと一緒に渡江(脱北)することにした」

娘の身柄を引き受けた保衛部(秘密警察)は、彼女をおとりにして父親が身を隠している場所に向かい、父親も逮捕した。

取り調べで父親は「食べるものがなく飢えていた、他に方法が見つからず、死を覚悟して娘とともに脱北しようとした」と供述した。

父親は今月8日に、穏城郡保衛部の本部に身柄を移されたが、その姿を目撃した住民によると、前歯がすべて折れてなくなり、まともに歩けない状態だったという。受けた拷問の凄まじさがうかがい知れる。

地域担当の保衛員は、コロナ非常防疫体制下で脱北しようとした、もはや生き残れないだろうと語ったという。運が良くても管理所(政治犯収容所)送りは免れないだろうということだ。

父親といっしょに逮捕された娘は4日後に釈放されたが、面倒を見る者がおらず、ひとりで家に籠もり、飢えに耐えるしかなかった。通常、孤児になれば初等学院(孤児院)に収容されるが、情報筋は、親が脱北を試みたことから、収容されるかは微妙だと述べた。死ぬまで放置する「緩慢な処刑」と言っても過言ではないだろう。

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