【シニア向け住宅】将来に備えて今から見学しておきたい施設とは? FP畠中雅子さんがアドバイス[後編]

「住み慣れたわが家が一番」と思いがちですが、加齢とともに住居に求める要件は変わってきます。子どもに迷惑をかけないため、そして元気で楽しい老後を過ごすため、将来の自分にふさわしい住まい探しを始めましょう。ファイナンシャルプランナーの畠中雅子さんにシニア向け住宅選びのポイントを教えていただきました。

前編はこちら。

PROFILE
畠中雅子さん

はたなか・まさこ●ファイナンシャルプランナー。
雑誌、新聞、ウェブ上に多数の連載をもち、「高齢期のお金を考える会」「働けない子どものお金を考える会」を主宰。
『70歳からの人生を豊かにする お金の新常識』(高橋書店)など、老後の資金プランなどに関する著書多数。

自立時入居の場合、主な入居先は3タイプ

自立した生活ができる段階での施設入居なら、選択肢は次の3つ。要介護になると住み替えが必要になる場合もあるので、見学時にしっかり確認しておこう。

【ケアハウス】生活費を抑えたい人の第1選択肢

ケアハウスは60歳以上で、原則として自立した生活のできる人が入居する施設。建設費や事務費(人件費)に公的な助成があるため、月々のコストは低く抑えられる。月々の費用負担額は前年度の年収で決まり、貯蓄額などは問われない。施設によって入居時費用が高額な場合もある。

「1日3食提供され、それ以外の時間は自由。貯蓄や年金が少ない人には第1選択肢になると思います。住み始めてから要介護になった場合、外部の事業者と契約を結んで介護サービスの提供を受けられる他、介護型のケアハウスに移れるケースも」

【住宅型有料老人ホーム】超高級から年金の範囲内のホームまで費用も設備もさまざま

原則として、自立している人が入る老人ホーム。民間施設なので入居一時金も月額費用も千差万別。高級ホームのイメージが強いが、地域によっては年金の範囲内で暮らせるところも少なくないと畠中さんは言う。

「体調に不安がある人は、下記のサ高住より住宅型有料老人ホームがおすすめです。地方に目を向ければ、年金の範囲内で入れる施設も。食事の提供を受け、見守られながら暮らしたい人にはぴったりです」

介護棟や介護フロアがある施設もあるが、要介護になった場合、転居の必要があるかを確認しておきたい。

【サービス付き高齢者向け住宅】生活相談&見守りつきの高齢者専用マンション

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は、共用施設が充実した高齢者向けマンション。老人ホームより自由度の高い生活を送りつつ、生活相談と見守りのサービスが受けられ、施設によっては食事の提供もある。入居時に敷金が必要で、一般のマンションの敷金より多少高めという設定になっているところが多い。

「家賃や管理費も通常のマンションよりは高いうえ、介護度が上がると住み替えが必要になるところもあります。そのことも念頭に置きながら、年金と手持ちの資産でカバーできそうかを検討しましょう」

要介護状態で入居する場合は、介護付有料老人ホームなど

「要介護になるまでは自宅で」と考えている人でも、施設見学は早めにしておくのがおすすめ。情報を集め、見学会に参加したり、自分で施設に電話して見学をお願いしたりしよう。

【介護付有料老人ホーム】要介護になった場合の、まず最初の検討先

介護付有料老人ホームの数は多く、要介護になると真っ先に検討先に挙げられる。

「介護付」とは、「特定施設入居者生活介護」の認定を受けている施設のことで、24時間365日、介護サービスを受けられる。ケアマネジャーや介護スタッフは施設にいて、自分で見つける必要はない。

施設によって建物のグレードや室内の様子、食事やアクティビティなどはさまざま。入居一時金が高額とのイメージがあるが、「昔ほど高額ではない施設も増えました」と畠中さん。

「全国で探せば、リーズナブルな価格でスタッフの対応もよく、安心して介護を受けられる施設はかなりあります。介護度が上がれば外出は減り、住み慣れた地域にこだわる必要もなくなります。他県も含め広い範囲で検討しましょう」

こんな失敗例も……

実際に住んで後悔したケースもある。「節約のつもりで低価格帯のホームに入ったところ、私の服装がハデだと噂されるようになった」という人もいれば、逆に「ハイソな人が多く、友達ができそうにない」と悩む人も。見学時には入居者の様子(服装や立ち居振る舞い)もチェックしたい。

【特別養護老人ホーム(特養)】要介護3以上の人が申し込める公的施設

要介護3以上の人が申し込める介護保険の施設。実際には介護度の高い人が多く、終の住み処として看取りまで行う。最新のユニット型個室や、従来型の4人部屋など部屋タイプはさまざま。

「特養は格安といわれていましたが、資産基準が導入されたため、年収が少なくても一定額以上の貯蓄があれば月13万円以上かかります。そのため、以前より待機者は減っていますよ」

【介護型ケアハウス】要介護1から入居できるが数は少ない

ケアハウスだが、「特定施設入居者生活介護」の認定を受けている施設のため、24時間365日、介護サービスを受けられる。要介護1から申し込めるが、なかには要支援の人でもOKな施設も。ケアハウス同様、年収が少ない人ほど利用費が安くなる。

「数が少なく空きはほとんどありません。介護付有料老人ホームを検討しながら、こちらの情報を集めるのがいいでしょう」

【グループホーム】認知症の人のためのアットホームな施設

認知症の高齢者が、5~9人で生活する施設。認知症ケアの専門スタッフが常駐しており、アットホームな雰囲気の中で暮らすことができる。

「自治体の地域密着型サービスなので、自分の住む地域以外のグループホームには入居できません。大きな一軒家だったり、老人ホームのような形だったりとタイプはさまざま。施設によっては月額利用料が高額なところもあります」

施設の見学時に確認しておきたいこと

施設を見学するときは遠慮なくスタッフに質問しよう。「こんなことを聞いていいのかな?」などの遠慮は無用。その対応によってどんな施設なのかがわかってくる。

入居一時金の額、初期償却の割合と償却期間

入居一時金の一部は入居後90日を過ぎると初期償却※となる。その割合は15~30%が目安。90日を過ぎて退去する場合、償却期間が終わっていない分は返金される。償却期間は長いほうがいい。

※「初期償却」とは、前払い金のうち、入居期間にかかわらず返金されない金額のこと。

看取りの可否と過去に看取りをした人数

看取りに対応しているかどうかだけでなく、実際に施設で看取った人数も聞いておこう。「看取り可」としつつ、最期は救急搬送している施設も少なくない。訪問診療の医師との連携についても確認を。

1週間の入浴可能回数と時間帯

公的介護保険が適用される入浴は、厚生労働省の基準で週2回以上と定められている。そのため「入浴は週2回のみ」とする施設も。入浴時間帯をスタッフが多い午前中に限定している施設もある。

入居者の平均年齢と男女の割合

自分の年齢や性別と乖離のないほうが暮らしやすい。一般的に新しい施設は70代など若い人が多く、築年数が古い施設は年齢層が高い。夫婦で入居する場合、男性が何割いるかも確認したい。

医療措置についてできること、できないこと

終の住み処にするつもりで介護付の施設に入っても、医療的な措置が必要になると住み替えせざるをえなくなることも。どのような医療措置に対応しているのか、確認しておきたい。

施設内アクティビティの種類や活動状況

アクティビティが多くても、自分の趣味に合っていなければ参加する気になれないものだ。また「こんなことやっています!」とホームページでPRしていても、実際は実施回数が少ない場合もある。

入居者の平均介護度と認知症の人の割合

自立度が高い段階で入居する場合、同じくらいの自立度の人の数を確認しておきたい。認知症の人が多い施設の場合、自立の人とはフロアや棟が分かれているほうがトラブルは起きにくい。

食事の嗜好に合わせてくれるか、どこでお酒が飲めるか

好き嫌いだけでなく、希望するかたさなどに対応してもらえるかも聞いておこう。食堂など共有スペースでの飲酒を不可としている施設は多いが、自室で飲むのはいいかも確認したい。

外出時に利用できる無料シャトルバスの有無

最寄りの銀行や郵便局、スーパーや駅などを回る、シャトルバスを運行している施設もある。市街地から離れている場合、毎回タクシーを呼ぶと出費がかさむので無料バスの有無を確認しておきたい。

畠中さん教えて! シニア住宅Q&A

Q 夫婦のどちらかが要介護状態の場合、施設内で同居すべき?

A 自立の人と、要介護の人の部屋は分けるほうがベター

同じ部屋で暮らしたとしても、実際の介護は施設の人が担います。「深夜、スタッフが部屋に入りおむつ交換をするので、そのたびに目が覚める」という声も聞きました。施設は1人部屋が中心ですから、別々の部屋に住むほうが暮らしやすいかもしれません。日中は一緒に過ごせますよ。

Q 有料老人ホームに「クーリング・オフ」制度は適用される?

A 入居から90日以内なら適用されます

入居後90日以内であればクーリング・オフが適用され、契約を解除できます。実費以外は返還されるので、「ここは合わない」と思ったら90日以内に退去の決断をしたいもの。見学でどんなに気に入っても、実際に住んでみなくてはわからないこともあります。入居後しばらくは自宅の売却はせず、「戻る場所」を残しておくことをおすすめします。

※この記事は「ゆうゆう」2024年4月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。

取材・文/神 素子


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