アングル:高リスクの「下位劣後債」市場、米利下げ観測で活況

Shankar Ramakrishnan

[15日 ロイター] - 米社債で最もリスクが高いタイプに入る「下位劣後債」の市場が年明け以降、活況を呈している。連邦準備理事会(FRB)が利下げに踏み切るとの観測が広がって、金利が低下する前に高い利回りを確保したい投資家からの引き合いが強まり、企業の起債も増えている。

下位劣後債は企業が債務不履行に陥った場合の返済順位が最も低く、企業は利払いの繰り延べが可能。一方、リスクの見返りに利回りは上位債よりも高い。償還期間は最長で40年に及ぶが、発行体は通常、5年ないし10年で期限前償還を行う。

下位劣後債のような「ハイブリッド債」は企業の資本構成上、返済順序が下位にあり、株式と似た性質を持つが、利払いが行われる点は債券に似ている。

FRBが今年後半にも利下げを開始するとの見方が強い中、投資家は今後何年も現在の高金利が得られる証券を手に入れようと躍起になっている。

こうした需要に応えるため、年明けから5社が計46億ドルの下位劣後債を発行。14日にはさらに6社目が起債に踏み切った。バークレイズの集計によると昨年1年間の起債額は80億ドルで、今年の起債ペースは過去2年よりもかなり速い。

バークレイズのアナリスト、ブラッドフォード・エリオット氏は、今年は下位劣後債の発行額が150億―200億ドルに達すると予想。主にハイブリッド債に投資するファンドには昨年10月以降、差し引き10億ドルが流入したという。

投資家の間で下位劣後債への関心が高まったことで、債務の返済期限を迎えている企業は資金調達に当たり新たな選択肢を手に入れている形だ。

<高まる魅力>

大手格付け会社ムーディーズが最近格付け手法を変えたことも、企業にとってハイブリッド債の魅力が高まる一因になったと、市場関係者は指摘する。

ムーディーズは先月、企業のハイブリッド債について、資本と見なす割合を従来の25%から50%に引き上げると発表した。これは同業のS&Pとフィッチに続く動きで、企業はハイブリッド債を利用することで、信用格付けの悪化を招くことなく、より多くの資本を調達できるようになった。

今年に入って下位劣後債を発行した企業の1つがネクステラ・エナジー・キャピタルで、調達資金の一部を短期コマーシャルペーパー(CP)の借り換えに充てた。

エネルギー関連資産の多様なポートフォリオを所有・運用するエナジートランスファーも、下位劣後債の発行によって、ハイブリッド債の中でもよりリスクの高い優先株の借り換えを行ったと発表した。

RBCキャピタル・マーケッツのデット・キャピタル・マーケット・シンジケート部門のグローバルヘッド、ダニエル・ボトフ氏によると、下位劣後債は税制面でも優先株より有利だ。「企業にとっては、利払いが税額控除の対象となる劣後債を発行し、期限前償還が可能な課税優先株を借り換える方がコスト効率が良い」という。

<旺盛な需要>

エリオット氏によると、おう盛な需要を背景に、企業のハイブリッド債のスプレッド(国債に対する利回りの上乗せ分)は、昨年10月に付けたピークの平均523ベーシスポイント(bp)から200bp近く縮小した。

年初来に劣後債を発行した6社は利回りが6―8%で、上位債との利回り差は150―200bpにとどまった。

エナジートランスファーが1月に起債額を当初の5億ドルから8億ドルに増額したことも需要の強さを印象付けた。インフォーマ・グローバル・マーケッツのデータによると、応募は50億ドルに達した。

ペイデン&ライジェルのグローバル・クレジット・ストラテジスト、ティム・クローマー氏によると、ハイブリッド債は「マクロ情勢に敏感」で、「金利との相関よりも、クレジットの質の向上やエクイティーに対するリスク許容度改善との相関の方が大きい」という。

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