中国では産業用ロボットの投入数が経済原理による算出の12.5倍―米シンクタンク

中国の産業ロボットの導入数は費用対効果の経済原理により算出される台数の12.5倍に達しているという。写真は中国の産業用ロボット最大手「SIASUN」の作業現場。

米国の情報技術イノベーション財団(ITIF)はこのほど、中国における産業ロボットの導入や、関連産業の「強み」と「弱み」を分析する、経済学者である同財団のロバート・デイヴィッド・アトキンソン会長の署名入りのリポートを発表した。同リポートは、中国の産業ロボットの導入数は費用対効果の経済原理により算出される台数の12.5倍に達していると指摘。また、中国のロボット産業には「弱み」も存在するが、中国企業は、解決のための戦略を持ち合わせていると指摘した。

米国のロボット分野は日本などと比べて劣勢

リポートは本文冒頭部分で、米国に多い「中国は模倣者で、改革者は米国」という言い方に警鐘を鳴らした。この言い方は技術や産業関連の「ふがいない政策」を肯定してしまう考え方であり、家電や半導体、太陽電池パネル、通信機器のように、米国の産業の地位が模倣者に取って代わられた事例は多いと指摘した。また、中国がいつまでも「鈍い模倣者」の地位に甘んじるかどうかは分からないと主張した。

リポートはまず、米国はロボット技術を発明したにもかかわらず、すでに同分野をリードしていないと指摘した。2022年には日本が世界のロボット生産量の46%、世界輸出の36%を占めたとする研究があると紹介し、一方で米国は国内総生産(GDP)が日本の3倍以上であるにもかかわらず、世界の輸出の5.4%しか占めていないと指摘。「言い換えれば、日本のロボット輸出力は米国の20倍」と表現した。

同リポートは、米国には「忍耐強い投資」をしにくい土壌があると指摘。投資家が短期的なリターンを求めるからだ。一方で、他国の企業には長期投資を好む傾向があり、その結果、ロボット分野ではドイツや日本、スイスの企業が先行し、中国企業が追い上げを図る構図が出現したという。また、米国で生産をする他国のロボットメーカーもあるが、先進的製品や研究開発の大国は本国で行っている。その結果、22年には米国ロボット輸出額が輸入額の28%にとどまる状態だったと指摘した。

リポートは、米国にはロボット関連の優秀なハードウェア技術と強大なソフトウェア開発能力もあり、同分野での革新的なスタートアップ企業も数多く存在すると主張。ただし、イノベーションがただちに生産と販売の主導権獲得につながるわけではなく、追随者が迅速に模倣することで、価格優位性も成立しなくなると論じた。

経済原理で考えれば、異常に多い中国の産業ロボット

国際ロボット連盟(IFR)によると、人の労働者に対してロボット導入台数が最も多い国は韓国で、労働者1万人当たり1000以上のロボットを使用している。第2位はシンガポールで730台、さらに次は日本とドイツで、労働者1万人当たり400台近くのロボットを導入している。中国は392台で、米国はさらに少ない285台だ。

リポートは、企業の産業用ロボットの導入の動機は、ロボットが人に代わって作業をした場合の費用削減と指摘。そのため、「低賃金のインドよりも高賃金のドイツの方がロボット普及率が高くなっても不思議ではない」と説明した。リポートによれば、中国でロボットの導入率が高いのは企業にとっての費用対効果で有利という経済原理によるのではなく、政策のためであり、「中国共産党は製造用ロボットの導入を最優先事項の一つにしており、補助金を寛大に支給している」と論じた。リポートは、10年前には中国で使われている産業用ロボットは全世界の14%だったが、現在は52%になったと紹介した。

リポートによると、各国の製造業の賃金水準に基づき、ロボット導入率を算出した場合、中国における実際の導入率は算出値の12.5%という「衝撃的な数値」になったと紹介した。また、この実際の数値と算出値の違いは、2017年時点では1.6倍にとどまっていたという。

また、中国では産業用ロボットの主要な導入分野である自動車産業が急成長したことも、産業ロボットの増加を後押しすることになったという。

中国では17年以上、ロボット関連のスタートアップ企業が3400社以上出現した。また、中国のロボット関連スタートアップ企業の上位10社のうち、8社までが中国外からのベンチャー投資を受けていることからは、中国のロボット関連スタートアップ企業のイノベーションの潜在力を示すものという。

現状では「ロボット分野の追随者」に甘んじている

ただし、中国のロボット産業には「弱み」も存在する。例えば19年には、中国の新規導入ロボットの71%は日本、韓国、欧州、米国などからの輸入品だった。このことは、中国のロボット分野の先端技術が、先進国にはまだ及ばないことを意味する。また、ロボットの中核的部品は日本製品が主流だった。中国はロボットにおいて高価な部品を輸入しているために、産業として付加価値を高められないでいるという。また、現在ではロボットの価値の約8割がソフトウェアによるものとされるが、中国の産業用ソフトウェアの能力は、まだ遅れているという。

さらに、中国のロボットメーカーの多くが、まだ「舶来ロボットのコピー」の状態に甘んじている。リポートは「ある専門家の話」として、事実かどうかは確認できていないことを示唆した上で、「日本のロボットメーカーのファナックが、中国の競合他社のロボットに、自社の識別マークがあることを発見した」との逸話を紹介した。

ただし中国製ロボットの性能は西側先進国の高級品にかなわないが、価格優位性を有していることは有利だという。特に、経済発展が遅れる国の企業にとっては「コストと品質のトレードオフ」は魅力的という。

リポートは、中国の「ロボット戦略」について、「ローエンド市場で先進国企業からシェアを奪い、次に自国政府の支援も受けて、ハイエンドの革新的な製品を開発するために再投資する」との見方を示した。

国を挙げて「追いつき、追い越せ」に注力

さらに、中国がロボット関連の新興分野で大きな進展を見せている場合もあるという。特に人型ロボットでは、中央政府の工業及び情報部が、同分野で27年までに世界をリードする計画を打ち出しており、企業に多額の資金援助をしているという。中国企業はさらに、高度の技術力を持つ外国企業を買収することによっても、自らの技術力を向上させようとしているという。リポートは、これまでに似たような経緯をたどった産業分野には、ドローンや携帯電話があると指摘した。

リポートは、中国や中国のロボット企業は総じて言えば、模倣者からイノベーターへのシフトが必要と認識しているようだと表明。その手法としては、最先端のプロジェクトに集中することがあり、政府は大学のロボット研究者に企業との交流を強く要請しているという。リポートはさらに「中国は依然としてロボット分野の追随者である部分が大きい」とした上で、単なる追随者ではなく、「急速に追いつく追随者になりつつある」との見方を示した。

リポートによると、ある専門家は中国のロボット分野について「格差を縮めることはできる。問題は、どれだけ時間がかかるかだ」と述べたという。(翻訳・編集/如月隼人)

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