【寄稿】「海ごみ再資源化」 「変革は逆境から」と信じて 川口幹子

 全国的にも注目されたこの度の対馬市長選挙。争点となったのは、原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場誘致の是非だ。処分場誘致をワンイシュー(単一争点)に掲げて臨んだ新人候補者を抑え、誘致反対を表明した現職の比田勝尚喜氏が9割近い票を集め圧勝。「核ごみではなく海ごみで!」と、対馬の海岸に押し寄せる漂着ごみを再資源化することなど、SDGs未来都市としての対馬の経済再生ビジョンを掲げた。
 この市長のスローガンに対し、民間から具体的なアクションを起こそうと今年1月、衛生用品大手のサラヤ(株)の出資で(株)ブルーオーシャン対馬が設立され、筆者がその代表取締役を務めることとなった。年間数億円の費用をかけても回収しきれない海岸の漂着ごみを再資源化することで、地域経済と雇用創出の新たな柱になろうというのが新会社の狙いだ。
 そもそも海ごみはリサイクルが難しい。発生源や種類が多岐にわたり、回収、分別に莫大な労力がかかる。紫外線や波により劣化していて、重金属等による汚染も進んでいるため、再利用に耐えうる品質が保てない。こうしたことから「海ごみから生まれた商品づくり」は、話題性はあっても一過性に留まってしまうのが現状で、漂着量に対する再資源化率は微々たるものである。
 そこで私たちは、素材としての再利用に限らず、燃料利用(サーマルリサイクル)やケミカルリサイクルも含めて処理にかかるコストの削減と再資源化による利益の創出との最適化を模索していきたいと考えている。
 重要なのは、他地域にも応用でき、継続できる仕組みをつくることだ。いかに早く、いかに多くのゴミを回収するか。いかに再資源化の割合を高めるか。そして、経済的にペイするか-。その回収と再利用のプロセス全体で、新たな二酸化炭素の排出量をできるだけ抑えていくという視点も必要である。再利用することで逆に環境に負荷がかかるようでは、他地域に普及するモデルは作れない。
 根本的な解決は、これ以上海ごみを発生させないこと。海ごみにならない製品づくりや、海洋に流出させない再資源化ルートの確立に社会全体が取り組まなければならない。課題中心地である対馬から、こうした製品のライフサイクル全体をデザインし直す必要性も訴えていきたい。
 いつの時代も、社会変革や技術革新は逆境から生まれる。海ごみは厄介なものである。ならばこそ、社会変革を引き起こすトリガーなのだと信じて進みたい。

 【略歴】かわぐち・もとこ 1979年青森県出身。地域おこし協力隊員として対馬市に移住。一般社団法人対馬里山繋営塾代表理事。対馬グリーン・ブルーツーリズム協会事務局長。農村交流や環境教育に取り組む。北海道大大学院環境科学院博士後期課程修了。

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