プーチンの独裁的行動の裏にあるもの

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2024#12

2024年3月18-24日

【まとめ】

17日にロシア大統領選挙があった。

・ロシアは過去四半世紀、一人の指導者しか生まれず、これからも生まれないだろう。

・プーチンの独裁的行動の裏には、彼のそしてロシア人たちの、「西欧に対する絶望的ともいえる劣等意識」があるのではないか。

今週はあの「誰も結果を予測し間違えようがない」17日のロシア大統領選挙から始めよう。ニッポン放送OK!コージーアップという朝ラジオ番組でコメントを求められ、思わず筆者は「哀れプーチン」と述べてしまった。だが、これは偽らざる気持ち。政治指導者が70過ぎても世代交代できないロシアという国が哀れ、と言うべきか。

尤も、世代非交代という点ではアメリカも同じ。今や米大統領選挙は「老老対決」「老狂対決」だから、人のことは言えないだろう。プーチンは筆者とほぼ同世代だが、同世代というなら前独首相のメルケルもそうだ。あの二人は同時期、同じ旧東独の社会を経験し、二人でロシア語とドイツ語で会話できる「冷戦時代」の政治家だった。

ところが、ドイツでは既にメルケルは引退し、世代交代が起きた。これに対し、ロシアでは過去四半世紀、たった一人の指導者しか生まれず、恐らく、これからも当分生まれないだろう。これが本当にロシアの国民にとって良いことなのか。ウクライナを屈服させても東欧、北欧は身構えるだけ。これがロシア国家にとって良いことなのか。

この点について、実は「拝啓、プーチン大統領閣下」と題するコラムを書簡に擬して書いてみた。プーチンの独裁的行動の裏には、彼の、そしてロシア人たちの、「西欧に対する絶望的ともいえる劣等意識」があるのではないか。今週木曜日の産経新聞WorldWatchで読めるので、ご関心ある向きは是非ともご一読願いたい。

個人的にもう一つ気になるのは日銀の「マイナス金利政策終了」の可能性だ。OKコージーアップ!では気鋭のエコノミストが解説していたが、筆者は「政策変更は良いが、これまで市中に流れた巨額の非流動的な『流動性』をどう回収するのか、下手をすると大インフレにならないか」などと質問した。さて、結果はどうなるだろうか。

最後は、最近の国会での「政治倫理審査会」だ。件のラジオ放送ではこう述べた。「英語で言えばカブキ・プレイ。誰もが筋書きもシナリオを知っている典型的な『本音は喋りません』歌舞伎だが、というか、だからこそ、玄人筋には大受けする。でも、素人には全く受けない・・・政治を金持ちと独裁者だけの職業にしてはならない」と。

続いては、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

3月19日 火曜日 米国務長官、フィリピンを訪問

NATO事務総長、アルメニア訪問

ウクライナ防衛コンタクトグループ参加各国国防相、ドイツで会合

3月20日 水曜日 韓国での民主主義サミット会合、閉会

ブラジル大統領、6日間の中東歴訪終了

3月21日 木曜日 EU首脳会議(22日まで)

WTO総会(22日まで)

ベルギーで核エネルギーサミット開催

3月22日 土曜日 ガーナ主催の「アフリカゲーム」大会終了

ボリビアで国勢調査実施

スロヴァキア、大統領選挙

3月24日 日曜日 セネガルで延期されていた大統領選挙

最は、いつもの中東・パレスチナ情勢だ。

  • 米イラン関係は小康状態が続いている。さすが、イランは民度が高いようだ
  • が、イエメンの「アンサールッルラー(フーシー派)」は攻撃を続けている
  • ネタニヤフはラファからの非戦闘員退避まで総攻撃は行わないというが、「退避」をどう確認するのか、小さな攻撃なら行うのか、未だ分からないことが多すぎる
  • ネタニヤフの譲歩か否かは別として、これも米大統領からの働きかけの結果だろう
  • 人質解放も、停戦も、総攻撃もない、しかし、勿論、問題解決もない状況は当分続く

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:選挙事務所にて記者会見に答えるプーチン大統領。(2024年3月18日ロシア・モスクワ)出典:Photo by Contributor/Getty Images

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